17,冒険者ギルド
ウエスタンドアを潜ると中は大きなホールくらいの広さはあった。
外見通りの大きさだったが、もうすでに日が沈んでいるにも関わらず様々な装備で武装した人達でかなり混雑していた。
ローブのような物を装備した人も若干だがいる。先の尖った帽子を被った、これぞ魔法使いって感じの人だ。
持っている武装も様々で、大きな剣を背負っている人もいれば剣を2本どころか3本4本と大量に腰に佩いている人までいる。
もちろん武装は剣だけではなかった。槍、斧、鞭、杖、棍棒、弓……etcetc。
十人十色とはこのことだと言わんばかりに、様々な武装をした人達が様々な種族で混在している。
だが、その中でも異質なのはオレ達のようだ。
ギルドの中に入るとものすごい数の視線がこちらに向いてくる。
ぱっと見しただけでも、子供がいるような空間では決してない。オレと同じくらいの身長の人はいるが、顔が確実に老けている。
完全に幼女なオレみたいなのは1人もいない。アルくらいの年齢の人も見受けられない。
つまりは、完全に浮いているのだ。門番の人達がお奨めしないのも頷ける。
広いホールの半分程度は並んで順番待ちをしている。
もう半分はテーブルがいくつも置いてあるところで談笑していたり、掲示板が大量においてあるところで何かを見ている。恐らくクエストでも張られているのだろう。
当然オレ達は加入に来たので順番待ちの列に並ぶが、注目は集めたままだ。
「おいおい、貴族のガキの来るようなところじゃないんだぜ? 役所の方に行った方がいいんじゃねぇか?
今日はもうやってねぇがな!」
「社会見学のようなものですので、お気になさらずに」
「ケッ……貴族のガキの遊び場じゃねーんだよ」
強面のおっさんが絡んでくるが、アルは澄ました顔で軽く流している。
アルの格好から貴族仕えの執事とでも思っているのだろう。そんな執事が身分証目当てにギルド登録しにくるとは思っても居ないようだ。
絡んでくる馬鹿はアルに任せてオレはギルドの施設を眺めている。
大量に置いてある掲示板。その掲示板には所狭しと紙が張られている……というわけではない。
もう日も落ちて今日の仕事は終わりなのだろう。だいぶ穴が目立っている。
入り口から一番遠い位置にある掲示板にはほとんど紙も張られていない。
掲示板の上の方には入り口の方から順番にF,E,D,C,B,A,Sと書かれている。
例の特殊スキルによって見たこともない文字だったのにちゃんと読める。なんとも便利なものだ。
書かれている文字は依頼内容による難易度分けなんだろう。
一番遠いところのSの掲示板に紙が張られていないのは、依頼がないのか少ないのかだろう。
適当に施設内を眺めていると列がどんどん進んでいく。
その間にも色んな種族の人達が絡んでくる。よっぽど暇なのか、それともそこまで珍しいのか。
恐らく両方なのだろう。10個近くあるカウンターは全部列が出来ているほど人がいるのだ。ソロばかりの訳も無く、PTならば1人並べば十分だろうから残りは暇をもてあますのだろう。
列に並ぶ人も10人そこらの人の量じゃない。その倍は普通に並んでいる。
日が落ちてみんな帰ってきて混んでいるのでなければ、明らかに容量オーバーだ。
見た感じでかい施設なのにこれだけの量の人が並ぶようでは、拡張の必要性が出てくるだろう。
不思議なことにアルには絡んでも、オレの方に絡もうとするやつはいなかった。
全員武装しているとはいえ、中には女性も結構な数いる。小さな女の子に絡んで泣かすようなことでもすれば、そんな女性達から非難の目を向けられるからだろう。少しは頭が回るようだ。
鍛え上げられた屈強なガタイのいい奴が多い中、脳みそまで筋肉になっているような奴は少ないようだ。
少しは知恵が回らなければ、魔物を相手にするような依頼は生き残れないということだろうか。
依頼が魔物を相手にするものばかりだとは思わないが、魔物という存在がいる以上そういう依頼も多いだろう。
適当に考察していると、順番が回ってきたようでカウンターにようやく到達する。
「……!? 冒険者ギルドにようこそ。本日はどのような用件ですか?」
まだ幼い感じの残るそばかす少女が受付嬢をしていた。
アルを見た瞬間一瞬止まったけれど、気を取り直したのかそばかす少女はハキハキと、喧騒で騒がしい施設内でも通る声で用向きを聞いてくる。
営業スマイルなのか、本当の笑顔なのかはわからないが素敵な笑顔だ。アルを見た瞬間に笑顔が2割増しになったような気がするのは気のせいだろう。
「加入をしたいのですが、よろしいですか? 私とワタリ様の2人です」
「……え? えっと……そのそちらの子も……加入ですか?」
「はい、2人共加入したいのですが、問題でもありますか?」
「い、いえ……そういうわけではないのですが……」
「時間が惜しいので出来れば急いでいただきたいのですが?」
「あ、は、はい! で、では、6番の部屋でお待ちください」
何やらオレがギルドに加入するのは、それほど意表を突かれることだったらしい。
まぁ周りにはどうみても子供はいないんだし、いるのは屈強な強面ばかり。当然といえば当然の反応かもしれない。
でもそれじゃぁオレは何のためにここに来ているんだ、と考えないのだろうか。
それでも自分の聞き間違いだったのだろうかと、目をぱちくりしていた受付のそばかす少女にアルは多少苛立たしげな言葉を投げている。
こんなアルを見るのは初めてだったが、並んでいる時も涼しげな顔をして流していたとはいえ、何人もの強面に絡まれていたのだ。イライラが募っていたとしても不思議ではない。
彼はチュートリアルブックの化身でも、人間なのだから。
「では、ワタリ様。6番の部屋に行きましょう」
「はいはい」
ここでも人が多いので、妙に様になる優雅な仕草で手を差し出してくるアル。
差し出された手を別段躊躇することもなく握り返すと、人の流れを巧みに躱し、さり気無く誘導してくれるアルと共に奥へと進んでいく。
6と書かれたプレートがかかっている部屋に入ると、中には4人掛けくらいの大きさのテーブルと4つの丸椅子が置いてあった。
明かりはすでにランタンが点いている。誰もいない部屋で点けっぱなしとか火事の元だろうに無用心な。
そんなことを思いながら椅子に座ってしばし待っていると、すぐに受付のそばかす少女ではなく、綺麗な銀色の髪の20代前半くらいの耳の鋭く尖った端正な顔立ちの女性がやってきた。
耳の形からしてエルフだ。ギルドに来るまでにも何人かのエルフを見たけど、この人は特に綺麗な人だった。
エルフはみんな綺麗なのかと思ったが、そうではなくピンきりなところは他の種族と変わらないようだ。
だが、今までみたエルフはそれなりに綺麗な顔立ちをしていた。平均レベルは高いに違いない。
部屋に入ってこちらを見たときに驚いていたけど、すぐに華やかな笑顔になっていた。受付の子の時もそうだったが、やはり場違いなのは確かなようだ。
「お待たせしました。私は新規加入担当のエリザベートです。
お2人とも加入でいいんですね?」
綺麗なエルフさんは向かいの椅子に腰掛けると、小脇に抱えていたバインダーから2枚の紙を取り出すとこちらに渡しながら、聞いてくる。
「はい、お願いします」
「お願いしまーす」
「ふふ……ちゃんとお願いできるのね。偉いわぁ」
子供っぽい感じで返事をしてみると、見事に子供扱いされた。
幼女の見た目を十全に発揮するには、こまっしゃくれた感じよりは素直な子供の方がいいだろうと、これも事前の打ち合わせ通りだ。
まぁ……子供の演技をするのはかなり抵抗があったが、必要なことと割り切った。
使える物を使わない手はない、そのための演技ならば割り切れる。
「それじゃぁその用紙に記入してくれるかしら?
あ、あなたは難しかったら、代わりに書いてもらってもいいからね?」
羽ペンを2本とインクの瓶を置くと、そう言ってこちらに配慮もしてくれる。まぁ子供扱いだけど。
「大丈夫です」
「あら、そうなの? 賢いのねぇ」
にっこりと微笑んで返すと、エリザベートさんもにっこりと微笑んでくれる。
可愛い人だ。お持ち帰りしたくなる。
幼女だから、膝の上とかに座っても許されそうな雰囲気だな。突撃ですかね? そうですかね?
妄想が暴走しそうだったが、今やるべきは加入用紙に記入することだと思い直すと、羽ペンを取ってインクをつける。
羽ペンなんて初めて使うけど、まぁ大丈夫だろう。習字をするのとあまり大差ないように思える。
割と簡単に考えながら、用紙を見てみる。
記入項目は簡単だった。
まず、名前。ワタリ・キリサキっと。なんとなくファーストネームの方が先の気がしたので、そう書いてみた。
簡単に考えて書き始めたが意外と難しい。ちょっと不恰好な文字になってしまった。
便利な特殊スキルのおかげで、生前使っていた文字で書こうとしているのに自動で知らない字になっている。
これがウイユベール共通語ってやつだろう。知らない文字なのに不恰好とわかる。これも翻訳効果だろうか。便利だなほんと。
まったく知らない文字なのにちゃんと読めるし書ける。実に不思議だが、出来るんだから問題ない。
これはもうオレの力だ。贈り物で貰った力だろうがなんだろうが、要は使い方次第だからな。
次は、年齢。6歳っと。
お、なんだろう。今度はうまく書けた。
次は、職業。戦士っと。
おぉ……すげぇ……かなり綺麗に書けたぞ。ほんの数文字しか書いてないのにすごい上達速度だ。楽勝だな羽ペン!
他にも記入項目があったが、必ず書かなければいけないのは上記部分の3つだけだった。
他には所持スキルや出身地などがあったが書かなくてもいいなら書かないでおこう。
正直に書くとオレは色々とやばいからな。
アルも書き終わったようだ。覗いてみると同じように、記入しなければいけない3つだけしか書いていない。
しかも名前が……アル・キリサキになっている。
いやまぁ……別にいいけどね? ちなみにこれは事前に打ち合わせなどしていない。
年齢14歳。職業……執事。
いや、うん。まぁ……なんだ、まんまだなおい。
「終わりましたー」
「はい、ご苦労様。
……えーとワタリちゃんとアル君ね。改めてよろしくね」
「よろしく~」
「よろしくお願いします」
にこにこしながら待っていたエリザベートさんに用紙を渡すと、さっと確認してもう一度にっこり微笑んで挨拶してくる。
オレをちゃん呼ばわりしたことに、若干アルの柳眉が上がりそうになったのを気配察知が街中にも関わらず反応していたが、抑えたようで後の言葉は特に変化はなかった。
どういう仕様なんだろう……気配察知。
よしよし、偉いぞーアル。まだ加入すらしていないのに騒ぎは勘弁だからな。
強面達に絡まれていた時は主にアル自身が絡みの内容だったので、涼しい顔で受け流していられたのだろう。
だが、ことオレのこととなるとそうでもないらしい。忠誠度が最初からマックスっぽい感じだからなぁ。
まぁ忠誠度0の執事に仕えられても扱いに困るだけだから、オレとしてはありがたいことなんだけど。
「記入項目は必要な部分だけだけど、ちゃんと埋めてあるし問題はないわね。
じゃぁ、冒険者ギルドについて簡単に説明します」
どうやら3箇所の必要部分だけでも特に問題もないようだ。
門でやった犯罪者チェックのような物はしないのかと思ったが、やはり子供2人だと思ってスルーしているのだろうか。分隊長のように甘い人が多いのか、はたまた幼女の外見の効果なのか……。
職業を戦士と書いたが、それに対する突っ込みも特にない。
明らかに場違いな子供がギルドに入ってきた時の反応はあったのに、戦士が職業だと反応がないのはなぜだろう?
弱い魔物なら子供でも倒せるということだろうか? それとも、PTを組んでいれば自分が倒さずとも職業を得られるということだろうか?
戦士の職業は恩恵で筋力と回復力が上昇する。これはポイントを割り振らなくても恩恵を得られるのだから、非常に有用だ。しかも取得条件が魔物を倒すだけだ。
PTを組んでもいいなら取得できる難易度は大幅に下がる。つまり、結構有り触れた職業ということか。
そんなことを考察しながら、ギルドの説明をわくわくしながら聞く態勢に入る。大体予想通りだろうと思うが、楽しみなことには変わりない。
なんせ生前の世界ではありえなかった施設なのだから。
凛とした声音でさっそくギルドの説明を始めるエリザベートさん。
「まず、冒険者ギルドというのは様々な依頼が舞い込み、それをギルドに加入した冒険者達に斡旋するところです。
あ、斡旋って言うのは、お仕事を紹介したりすることよ?」
「はーい」
難しい言葉に関してはきちんと補足説明をしてくれるエリザベートさん。
子供扱いされたが、今度はアルに反応はなかった。子供扱いされることに関しては演技と見た目のせいだし、いちいち反応されても困るしな。
しっかり返事を返して、にっこり微笑んでくれるエリザベートさんの説明は続く。
「依頼は掲示板に張られて、基本的にそれを冒険者が好きに受けるっていう形を取っています。
自分達の実力にあった依頼を紹介してもらうこともできます。その辺りは好き好きです。
依頼はギルドがしっかりと内容の裏を取って把握して、その難易度別にランク分けされます。
裏を取るって言うのは、依頼が正しい内容なのかや報酬金額におかしいところがないか確認することよ?」
「うん、わかりましたー」
「ふふ……いい子ね。
ランク分けされた依頼は各それぞれのランクの掲示板に張られます。
依頼は基本的に一度に何種類も受けていいけど、期限があるものだったりすると受けたはいいけど、期限内にこなせなかったりすると罰金と罰則があります。
罰金は依頼報酬の半額。罰則はランクに応じて違います。
期限内に依頼をこなせないと思ったら、ギルドで引継ぎも出来ます。
その辺りはあとで冒険者ギルドの栞を渡すので読んで貰ってね?」
「はーい」
どうもエリザベートさんは子供好きなようだ。
説明をするときも何度もこちらを見ているし、色々配慮してくれている。
「依頼の他にも、冒険者ギルドでは素材の買取もしています。
買取金額は、主要な物なら壁に張り出してあるから確認してください。
書かれていない物に関しては、査定ののち買取となります。物によっては買い取れない物もありますので気をつけてください。
素材の買取は他には商業ギルドや素材屋などでも行っていますが、なるべく冒険者ギルドを利用してくれると助かります」
今度は買取とか金が絡むことだからなのか、アルに目線を向けて説明してくれる。
まぁ子供に換金云々言っても通じないと思ったのだろう。
1から全部説明するのも大変だろうし、アルにメインに説明するのも頷ける。
他のギルドもあるというのはアルに事前に教えてもらっていたが、素材屋は思いつかなかったな。
だが、考えてみれば簡単だ。
冒険者ギルドや商業ギルドでも扱う素材は恐らく魔物を解体したものだろう。
魔物を解体すれば素材やアイテムが残る。
魔物を狩るだけ素材は手に入る。それを専門に扱う店が出てきても不思議ではない。
各ギルドの勢力がどれほどのものかは知らないが、依頼が大量に舞い込んでくるような冒険者ギルドは、それなりの勢力を誇っているはずだ。
だが、それでも素材屋が成り立っているというのは、ギルドの配慮なのか素材を扱い切れないからなのか。後者の可能性が高い。買い取れない物もあるって言ってたし。
冒険者ギルドや商業ギルドで買取していない代物を素材屋では買取していたりするのだろう。そういったあまり需要のないような代物でも、レア需要というのはどこにでもあるもので、そういったものでも細かに扱い色んなルートを持つことで素材屋は成り立っているのではないだろうか。
そして、そういうレアな需要ばかりを扱うわけではないだろうから、当然販売ルートも様々だろう。
複数の卸業者があれば素材を使用する店にとっては仕入れ先の選択肢が増え、競争が生まれる。
競争が生まれないと停滞しやすい。停滞すると腐り易い。それは生物であろうが経済であろうが同じことだ。
だからこその分散化なのだろう。
などとあまりよくわかっていない経済の流れを、自分なりに考察しながら話を聞いていく。
「依頼には難易度に応じてランクが設定されます。
依頼は設定されたランクが同ランクか1つ上のランクまでしか受けることができません。
下のランクについては問題なく受けられます。
ランクはFから始まりE,D,C,B,A,S,SS,SSSと上がって行きますが、冒険者ギルドで扱っているのはランクSまでとなります。
SSランク以上の依頼は、国からの依頼となる物です。なのでギルドではなく国から直接受ける形になります。
まぁ、Aランクになるのもかなり難しいですけどね」
「へー……だからSランクの掲示板にはほとんど紙が張られてなかったんだ」
「そうなのよ~今のところこの街にいる、うちに登録してる人でSランクなのはたったの3人なのよ?
ラッシュはかなり大きな街なのに3人なの3人。
Sランクがすごいってことがよくわかるでしょ?」
なんども指を3本立てて説明しているエルフのお姉さんは、嘆かわしいと言わんばかりだ。
他の街ではもっとSランクがいるのだろうか?
「Sランクは他の街にはいっぱいいるの?」
「そういうわけじゃないんだけどね。
このラッシュの街の近くには迷宮もいくつかあるし、踏破されていないのも多いの。
だから迷宮攻略を主軸に置く冒険者も多いんだけど……多い癖にSランクが少ないって言うのがねぇ……おかげでSランク依頼が全然片付かないし」
頬に手を当てて、はぁと溜め息を吐くお姉さん。
数が多いくせして雑魚ばかりと言いたいのだろう。有象無象では意味がないってことなのかな。数は大きな戦力だと思うんだがなー。
まぁ依頼が来てもこなせないんじゃ、溜め息も吐きたくなるだろう。ギルドを信用して頼ってくる依頼者に応える事ができないのだから。
それにしても迷宮か。所謂ダンジョンってやつだ。奥深くにある宝を目指して一攫千金!
夢がいっぱいってやつだ。オレもいつか行ってみたいものである。
「あっとごめんなさいね。愚痴なんて恥ずかしいわ……。
ごほん。それでランクは依頼をきちんとこなしていくと上がっていくわ。
具体的な昇格条件は栞に記載されているから呼んでもらってね?
それと冒険者ギルドは24時間営業だから、何時来てもいいんだけど……今みたいな時間帯は特に混雑するからあまりお奨めしないわ。
ワタリちゃんみたいな可愛い子だと、ちょっかいだすやつもいるかもしれないし!」
ちゃん付けの辺りでまた気配察知が反応するが、気のせいと思うことにする。
あとでその辺言い聞かせておかないといけないかなー。
「はーい」
にっこり笑って適当に返事を返しておくのも忘れない。
騒ぎは勘弁だからな。次からはもっと人のいない時間帯を狙ってこよう。
それにしても24時間営業なのか。まぁ予想はしていた。
様々な依頼を斡旋する以上、それが昼夜を問わない仕事である可能性は大いにある。というか絶対ある。
なので、夜中にもやっていないと期限が過ぎてしまうようなパターンや夜中しかこれない人も多いのだろう。
まぁ夜中に来る気はないから別にどうでもいいんだが。
「説明は大体こんなところかな。何か質問とかあるかな?」
「ギルドのことではありませんが、よろしいですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。あ、でも年は秘密ですよ?」
片目を瞑ってウインクする可愛らしいエルフさんだったが、アルは無反応だ。
彼にとって目の前の可愛い人はどうでもいい存在のようだ。
「ではこの街で信頼でき、且つ安全性の高い宿を教えていただけますか?」
「信頼できて安全性が高い宿ね。えーとそうすると少し値が張るけど " 海鳥亭 " がお奨めね。
ギルドカードを見せれば割引も聞くから尚お奨めです」
「ご飯は美味しい?」
「えぇ1階で食堂も経営してるから、かなり期待していいわ」
食事はとても大事だ。ネズミの肉を食うのは勘弁。あれは非常手段だ。もう食いたくない。
だが、値が張るのか。20万ラードあるとはいえ、長く宿泊するのは問題が出るかもしれないな。
頑張ってランクを上げて高い報酬の依頼を受けられるようにしないとな。
「あとは何かあるかしら?
ないようなら……はい。この石に手のひらを置いてください」
もう一度確認してから、特にこちらの動きが無いのをみてバインダーから1枚の薄い石を取り出すと、ちょっと乗り出してこちらの方に置いてくれる。
ゆったりとしたローブのような服の上からでは判り辛かったが、結構なボリュームのようだ。
だが、如何せんオレの趣味じゃない。もっと慎ましい方が好みだ。ぺったんこはだめだがな? 幼女は論外だ。
門のところで犯罪者チェックの時に使った石とは違い、こっちはすごく薄い。
良く見ると細かく何か文字のような物が刻んであるようだ。翻訳されないところを見ると共通語ではないらしい。
毒見役はアルの担当なのでこちらを一瞥した彼にアイコンタクトでお先にどうぞ、と返すとすぐにその石の上に手を置く。
手を置いてすぐに青く光った石が、複雑な幾何学模様を刻み数秒でソレも消える。
すると石の横からシャッっと音を鳴らして何かが飛び出てきた。
「はい、これがアル君のギルドカードになります。
無くすと再発行にお金がかかるから気をつけてね」
どうやらこの石がカードの発行機のようだ。
厚さ1cmもないような薄い石に手の平を置くだけで発行されるとは……すごい技術の結晶のような気がしてくる。
深く考えると泥沼にはまりそうなので、ここはそういう物と無理やり納得しておいた。
次にギルドカード発行機の上に手の平を置くと、犯罪者チェック板と同じようにMPが消費され、アルの時と同様の変化をしたあとカードが排出された。
「はい、これがワタリちゃんのギルドカードね。
無くさないように紐をつけて首から提げておくといいわ。紐はお姉さんがあげちゃう!」
「ありがとー」
受け取ったカードには隅のほうに小さな穴があり、そこにエリザベートさんが紐を通して結んでくれた。
それをそのまま首に掛けて眺めてみる。
大きさは幼女の小さな手の平には少し納まらない大きさだったが、それほど大きいわけでもない。
生前の免許証を少し大きくしたような程度だろうか。
カードには名前とランクが記されているだけだった。当然ランクはF。登録したばかりなのだから仕方ない。
その他には何も記載はなく、裏返してみても特になにもない。
これで身分証になるんだろうか……ちょっと心配だ。
「そのカードは、結構すごいんだよ?
専用の読み取り用の板に翳すと、中に大量の文字が記憶されているのがわかるの。
主にカードの持ち主に関する情報だね。あとは倒した魔物の数とかこなした依頼の情報とかだねー」
「へー……すごいものなんだ」
このカードはそれ単体で記憶媒体となっているようだ。
しかも倒した魔物の数とかどうやって記憶するんだろうか。あ、魔法か。
つまりこれは魔法のカードということだ。
さすが異世界。ご多分に漏れずファンタジックだ。
なんだかすごいものを手に入れた気分になってくる。個人情報云々とかプライバシー云々とか、そういうのは一旦隅に置いておくことにした。
キラキラした目でカードを掲げて見てみると、なんだか光り輝いて見える気がしてくるから不思議だ。
実際はただの光沢も何もない、名前とランクの記されただけの薄いカードなんだけどね。
「ふふ……喜んでもらえてお姉さん嬉しいな。
はい、アル君これが栞ね。ちゃんとワタリちゃんに読んで聞かせてあげてね?」
「ご心配には及びません。このアル、ワタリ様には不自由をさせるつもりは毛頭ありません」
「……ふーん。まぁいいけど。
ワタリちゃん、何かあったらすぐにお姉さんに教えてね?
すぐになんとかしてあげるから」
何やら2人の間で火花が散っている気がする。
そんな不穏な空気を感じつつ、冒険者ギルド説明会は幕を閉じたのだった。
定番の説明会でした。
気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。
ご意見ご感想お待ちしております。
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