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幼女と執事が異世界で  作者: 天界
第1章
15/182

15,屑肉




 見上げれば青い空。

 流れる雲は気持ちいいくらい少なく、青と白の対比は青に軍配が上がっている。

 だが、もう少し時間が経てば2つの太陽が沈み、赤いコントラストで全てを彩ってくれるだろう。

 場所が場所だけに……さぞかし味わい深い絵画のような光景を見せてくれるだろう。



 そう、オレは今異世界の大草原にいる。

 そして鳴る腹の虫。


 今日の朝頃この世界に来てから、何も食べていない。

 正直もう少し平気かと思っていた。昔の……生前のオレなら2日くらい食べなくても問題なかっただろう。

 だが今の体では1日……いや、半日食べないだけで限界のようだ。

 両手では足らない数の戦闘をこなしたとはいえ、その戦闘時間は比較的短いものだ。

 身体的疲労はない……とは言わないが、疲労困憊というほどではない。


 だが、当初の目的であったウサギの肉は手に入っていない。

 食料に出来そうなのはネズミの肉――ビッグマウスの肉が多数。

 素材として入手できたラージラビットの毛、ビッグマウスの歯はとてもじゃないが食えそうにはない。


 もう少しラージラビットを狩って、肉が出るまで粘ってみるという手もある。

 だが、これ以上時間をかけると目的地であるラッシュの街に、夜までに着かなくなる可能性が出てくる。

 異世界に来た初日に野宿を強いられるのは正直勘弁願いたい。

 だが空腹もかなりのところまできている。


 背に腹は代えられないというのはこのことだろうか。オレのアイテムボックスにはビッグマウスの肉がある。

 オレとアルが食べても十分な量だ。

 包丁代わりの短剣もあるし、火は魔法がある。生活にも使えるとアルが言っていた。問題はないだろう。


 あとはせいぜい食器の類が欲しいところだが、そこまでは贅沢と言うものだろう。


 肉という素材として残ったということは、食材なのだろう。

 もしかしたら餌なのかもしれないが、可能性としては食材の方が高い気がする。

 なんせ鑑定の詳細文章に、味もそれ相応と書いてあったのだから。


 つまり食べられるのだ。だが考えてみてもほしい。ネズミの肉だ。

 生前のネズミというと基本的にドブネズミか研究用のモルモット――ハツカネズミだ。

 だから抵抗がある。凄まじく抵抗がある。

 ネズミは食材ではない。食べ物ではないのだ!


 だがそれは生前のオレの国というか、オレの常識での話。ここは異世界で、そして生前でも国が違えばネズミだって十分な食材だった。

 この世界で……素材として割と簡単に入手できるであろう肉を、食材に使わないとは思えない。


 つまり、ラッシュの街に行けばビッグマウスの肉を使った料理も、それなりに食べることになるかもしれないということだ。

 それを考えるならば、今ここで食べておくのも悪くない選択肢ではないだろうか。



 ……自分を説得する材料としては十分だと思う。



 そう思わないととてもじゃないが食えない。だってネズミだぜ、ネズミ!

 だが、空腹もそろそろ耐えがたい。決断の時のようだ。



「アル、ビッグマウスの肉って食べても平気だよな? あぁもちろん初級魔法の火のやつで焼いてみようとは思うんだけど」


「答えは是。念のため浄化をかけてから、食すべきかと愚考致します」


「あーそうだな。一応やっておいたほうがいいか」



 水筒はあれど水がないので、洗うこともできないがアルの浄化がある。それで綺麗にできるのだからまだマシな方だろう。

 一応初級魔法:水もあるにはあるが、浄化で消しきれない汚れなんて水で落とせるかどうかと言われると無理だろう。なんせ浄化はかいた汗すら綺麗さっぱり浄化してくれるのだ。



 すでに場所は開けたところに移動してある。

 草の中で魔法で火を起こしたら焼け野原の出来上がりだ。風もそれなりにあるわけだからな。



 アイテムボックスを出してビッグマウスの肉をまず1つ取り出してみる。これは実験用だ。

 火力調節をミスって消し炭にしても、まだ大量にあるから平気だ。


 肉をアルに渡して浄化を掛けてもらっている間に、初級魔法:火を使ってみる。

 そういえば魔法魔法と楽しみにしてた割には、今日初めて使う。

 今日中にラッシュの街に着かなければいけないという焦りと、上昇した能力値に物を言わせた短剣の一撃で魔物を倒せたのが原因かもしれない。

 MPも転移のために無駄にできなかったのもある。

 楽しい実験も状況が切迫していては、楽しくやれないものだ。



 まぁ今の状況が楽しく実験出来る環境のわけがないので、実験と言うよりは火力を調整して焼肉が出来る状態を作るだけのものだ。



(初級魔法、火!)



 手を前に突き出して念じた。使った瞬間MPが抜けるのかと思ったのだが、転移とは違いMPは抜けなかった。

 何も起こらないので、なんとなく初級魔法で火なら火の玉だろうとイメージしてみる。


 するとMPが単独転移Lv1、1回分――MP15くらい抜けた気がした途端、手の前30cmほど先に10cm台の高温の球状の物体が出現した。

 それなりに距離があったので、火傷するようなことはなくちょっと熱いくらいだった。


 どうやら魔法はイメージで形作られるようだ。恐らく大きさや動作で消費MPが決まるのだろう。

 だが、10cm程度の火の玉で単独転移Lv1と同じMP消費量というのは……かなりきつい。



 手のひらを上向きにしてみると、火の玉もそれに追随するように動く。

 動きもイメージでコントロールできないかとやってみると、簡単に思い通りに動いてくれた。

 空中で色々と動かしていると、ふっと掻き消えるように消滅してしまった。

 どうやら制限時間のようなものもあるらしい。もしくは、動作回数か。

 消費MPを増やせば時間や制限回数が延びるのだろうか……。

 考察と実験を続けようとすると、お腹の虫が盛大に鳴り始めた。そろそろ限界のようだ。


 魔法の実験は一先ずラッシュの街に着いてからにすることにして、とっくに浄化を掛け終わっていた肉をアルから受け取る。

 さっき作った火の玉ではなく、今度は四角い台のような形に初級魔法:火を念じてイメージすることにした。


 消費MPは大体3くらいだったろう。抜けていったMPを感じた瞬間、イメージした場所に四角い高温の物体が突如として現れる。

 さっきは15消費したのに今度は3。

 出現場所をしっかりとイメージしたせいだろうか。

 さっきの火の玉は場所のイメージは特にせず、動かせるような感じで火の玉をイメージしていた。

 つまり場所固定より、自由にコントロールできるようにした方がMP消費が跳ね上がる。


 とりあえず考察はこの辺にして、ビッグマウスの肉を短剣に刺して、火の台の上で焼いてみる。

 ジュージューといい音を立て始めた肉が焦げないように、火を当てる面を変えながら焼いていく。

 火力は近づけるとすごい勢いで焼けていくので、ちょうどよさげに調整して中まで焼けるようにしっかりと焼いた。

 焼きあがったビッグマウスの肉からは、結構おいしそうな鼻腔を擽るいい匂いがしたが、かぶりつくにはちょっと躊躇われる。

 さすがに毒見がいる気がする。

 なので、毒見役は当然彼しかいない。



「……アル。毒見してくれる?」


「答えは是。もちろん喜んで引き受けさせていただきます。

 矮小なる我が身でワタリ様のお力になれるのであれば、例えそれが我が身を滅ぼす行為でも喜んでやらせていただきます」



 ふざけて微笑みながら言ったら、なんだかものすごい真剣な顔で返されてしまった。

 決して嫌味で言ってるようにはみない真剣な勢いに押されて、そのまま短剣ごといい感じに焼けた肉を渡しそうとすると何時の間に用意したのか、草で編んだような小さなお皿を出されてしまった。



「皿をご用意致しました。こちらをお使いください」


「あーうん、はい」



 草の皿に肉を置いて、下の皿が切れないように肉を短剣で切っていく。

 まな板が欲しいと最初は切実に思ったが、器用増加のおかげなのか皿を傷つけることなく綺麗に肉をカットすることに成功した。

 つくづく便利だな器用増加。素晴らしいスキルだ。

 肉は焼いて縮んだが、全部で200gくらいはある。中型犬と遜色ないサイズのネズミから取れる量の肉にしては少なすぎるが、そこはスキル解体。ファンタジーな部分に突っ込みを入れてはいけない。


 カットした肉を一つ摘んで、さっそく毒見をしてくれるアル。

 静かに租借し、嚥下するが表情はまったく変化しない。



「もうちょっと食べてくれる?」


「畏まりました」



 カットした肉の半分を食べさせてみたが、特に異常もなさそうだ。

 アルの胃袋が特別頑丈ということもないだろう。チュートリアルブックだったとはいえ、今は人間なんだし。



「どう?」


「中までしっかりと火が通っております。味の方は下ごしらえも何もできない状況ですので仕方ありません。

 ワタリ様が食すような物ではございませんが、食料がない現状では仕方ないかと愚考致します」


「つまり、食えるってことだね?」


「答えは是。食べられることは食べられます」


「……んじゃ食ってみるか……」



 お腹の方も限界だったので、カットした肉を摘んで持ち上げる。

 熱々というほどではなくなり、微妙に冷めてきているのでぶらぶらとさせながら匂いを嗅いだり眺めてみたりする。心の中で何かと何かが戦い、激闘の末勝利を収めた方が勝鬨を上げる。

 さぁ! と急き立てるボロボロになった勝利者が脳内でワンワン騒いでいるので仕方なく、目を瞑ってぱくりと食べてみる。

 確かに中まで焼けてて、生焼けなところはない。

 だが肉汁がだばーとか、舌で蕩けるとか、そういうのは一切ない。

 いうなれば筋肉? ……固い。噛み切れなくはないが固い、そしてもそもそする。すっごいもそもそする。もうもそもそ肉って改名しろよ。

 所詮ネズミの肉など、一山いくらの屑肉以下だった。

 本当にないよりはマシ。幼女に短剣一本で一撃で倒される雑魚に相応しい、それ相応の味だった。


 多分お腹が空いてなければ遠慮するレベルの物だ。

 だが如何せん今はそういうレベルの話だった。

 残った半分の肉は味と食感を無視した結果すぐ完食した。

 なんというか、感想もくそもない。ただ腹を満たしただけ。食事と言うにはあまりにもあんまりな食事だった。


 お腹はいっぱいとはいかないが、それなりには膨れた。幼女の――6歳児の胃袋には100g程度の肉の量でも結構な量だ。

 だが、アルはどうだろうか。彼は少年――14歳程度の体躯。痩せ過ぎず太過ぎず、中肉中背というのがぴったりの体だ。

 100g程度の肉ではお腹は満たされないだろう。

 なのでもう一つビッグマウスの肉を取り出して、渡して浄化をかけてもらう。

 浄化はすぐに終わったようで、肉を受け取るとすぐにまた火の台を作って焼いていく。

 中までちょうどよく焼くと、先ほどの草の皿の上に置いてカットする。


 一応カットした1枚だけを食べて残りは全部アルに渡した。



「はい、アル。あれだけじゃお腹いっぱいにはならんだろうから、全部食べていいぞ。うまくない上にもそもそ肉だけど」


「恐悦至極にございます。不肖アル、ワタリ様から頂ける物ならばどんなものでも宝石よりも価値のある宝にございます」


「いやーこの屑肉よりは宝石のがいいとおもうぞー」


「では、頂きます」


「はいはい、どうぞー」



 残りの屑肉――焼いたビッグマウスの肉を全部平らげるアル。

 表情は変わらないが嬉しそうだ。さっきのは毒見だったしな。今度は彼のために焼いたんだし、それが嬉しいのだろう。


 とりあえず、日の光も赤味を帯びだしてきたのでそろそろやばい。

 腹もとりあえず膨れたので、出発することにする。


 短剣を草で拭いて油を落とし、鞘に収めて複数転移Lv1を念じる。

 ステータスウィンドウは出しっぱなしだったので、MPも満タンなのはわかっていた。

 なので連続で距離を稼いで、なんとか夜になる前に目的地に着くつもりだ。

 MP温存なんてすでに言ってられない時間なのだ。


 魔物がいるような世界だ。それなりの街なら門があるはずで、門があるなら夜になったら閉められてしまうだろう。

 そして閉められた門では、身分証明の手段がないオレ達は通らせてもらえないかもしれない。そうなれば野宿確定だ。

 なんとしても門が閉まる前に着かなくてはいけない。

 懸念としては、門が閉まってなくても身分証明できないやつは、街に入れないという規則なりなんなりがあるという可能性だ。


 そこは今気にしても仕方ない。

 だが、見た目幼女と少年の2人連れだ。大草原――獣の窟に出る魔物は雑魚ばかり。

 雑魚ばかりなら幼女と少年の2人連れでも怪しくは……ない。むしろ、チェックも甘くなるのではないだろうか……たぶん。


 そんな淡い期待を抱きながら、距離を優先するためにMPを気にせず何度も転移していく。


 5回目の転移をしたときだった。

 切り替わった視界には赤く染まった草の海ではなく、真っ赤な平野の向こうに大きな外壁に囲まれた街が見えていた。




もっそもそのもそもそ肉!


ネズミ肉とかまじむりです。

やっと街が見えてきました。

本日2回目のなぞ投稿でした。


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