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幼女と執事が異世界で  作者: 天界
第1章
14/182

14,vsラージラビット





 気配のするところにゆっくりと、忍び足で近づいていく。

 相手は開けた場所じゃなく、草の中にいるようだ。草とマントが擦れる音が、風が揺らす草の音で掻き消されていく。

 タイミングもいい。今は風下だ。匂いで相手に気取られる心配もなさそうだし、揺れる草の音でこちらの行動音も相殺されている。


 気配では相手は一匹。近くにも同じような気配はない。

 こいつも単体で行動しているタイプか。魔結晶持ちはそうそういないはずだ、レアってのはそう簡単に会えないってことだ。実に好都合。

 ただ問題は、視認しないとウサギなのかネズミなのか、わからないということだ。

 いや、もしかしたらこの獣の窟にもう一種類いる方なのかもしれない。それはちょっとまずい。

 序盤で狼とか相手にしたくない。まずはウサギとかネズミで戦闘経験を培っておきたい。

 BaseLvを上げるための経験値ではなく、戦闘での動きや状況判断力を上げるための経験値の方だ。

 いくら能力的に高くても、それを満足に使えなければ意味がない。


 直接視認して相手を確かめてから攻撃したいのだが、こう……草が生い茂っていてはそうもいかない。

 この獣の窟というのは、気配察知なしだと魔物を探すのも大変なのではないだろうか。

 それとも魔物を狩るような職業に就く人は、そういうのに慣れているのだろうか?


 どちらにしても今のオレには関係ない。

 気づかれないように接近して、相手を確かめ、出来れば先制して一撃で倒す。

 プランはこんなもんだ。アルは開けた場所で待ってもらっている。彼のことは最初からプランに入っていないのだ。

 相手がもし、手に負えなさそうな奴なら撤退だ。追いかけてくるようなら転移で距離を稼ぐのもいい。

 アルの話ではこの辺りに出るのは3種類。ウサギ、ネズミ、狼だ。

 狼は稀にしか出ないと言ってたし、ウサギかネズミのどちらかだろう。

 出来れば……いや、ネズミの肉は食いたくないので、ウサギであってほしい。


 気配がするところまであと10m程度。まだ相手は見えない。

 この草の量ではすぐ近くまでいかないと視認するのは無理そうだ。


 そう思考したときだった。気配が動き、そこだけ草の背が若干低かったのかウサギの可愛らしい赤い瞳と白い耳を伴った顔が、ぴょこんと出てきた。ただ知っているウサギの大きさより遥かに大きい。中型犬くらいのサイズはありそうだ。



 っしゃー!



 小さくガッツポーズを取ると、すでに抜いておいた短剣を構えなおす。

 距離は10mあったが、ウサギはこちらを見ているわけではない。

 一気に接近して仕留めることにした。


 そう決めた瞬間、ぶつかる草の音など気にもしないでウサギ――ラージラビットとの距離を一気に詰める幼女なオレ。

 驚いたことに、10mの距離をほぼ一瞬で――ラージラビットが音に気づいてこちらに振り向く前に、接近は完了していた。



 これが、敏捷のステータスを上昇させた力か!?



 自身の驚異的な身体能力の向上。だが、それに振り回されるようなことはなかった。

 これも器用上昇の効果なのだろう。しっかりとラージラビットと自分の射程距離を測り、そして……一閃。



 走り抜けるようにしてラージラビットの横を駆け抜けつつ斬り付け、ある程度距離を取ったらすぐに振り返る。

 だが、ラージラビットからの反撃はなかった。


 慎重に近寄ってみると、斬りつけた部分――ラージラビットの前足の付け根から赤い瞳の部分までが大きく裂けて、生々しい中身を見せ付けている。

 血がほとんど出ていないので、内臓の様子がよくわかる。

 あまり見ていて気持ちのいいものではなかったので、まだ生きている可能性を考慮に入れつつ、止めの代わりに解体と念じてみた。


 すると一瞬で消滅し、残ったのは一房の毛だった。

 無事に一撃で倒せていたようだが、素材は毛。肉が欲しかっただけにちょっとがっかりだが、倒せる相手、しかも一撃でイケルということがわかっただけでも、よしとすることにした。

 残った素材の毛を回収して、鑑定を掛けてみる。



        ■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 ラージラビットの毛

 ランドール大陸西部に多く生息するウサギ型の魔物の毛。

 白色の毛。撥水力が多少ある。

 あまり品質もよくないが、安価なマントには使われる場合も多い。


        ■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 安いだろうが売れそうだな。

 たくさん集めて自分用のマントを作るのも、ありかもしれない。

 買うより自分で素材を集めて、依頼すれば安く上がるだろう。ゲームでは定番だ。

 というか商業の観点からしてみても、材料持込なら安く上がる場合が多い。


 そう考えれば、残った素材が毛でも損はない。


 ラージラビットの毛をアイテムボックスを出して収納して、次の獲物の場所まで進んでいく。

 もちろん音をあまり立てないようにして、だ。

 風が音をある程度消してくれるので、普通に歩く速度で接近できたのはありがたいことだった。


 気配のするところまで、先ほど同様10m弱。この距離ならほぼ一瞬で詰めるられることがわかっている。

 走り抜け際に一撃入れて――ヒットアンドアウェイで倒す。

 ネズミもウサギも一度倒せているだけあって、緊張も少ない。魔物という血もほとんど出ず、生物としての分類も怪しい存在だからだろうか、殺める罪悪感はまったく沸いてこなかった。


 先ほどのラージラビット同様一気に距離を詰める。

 足音と急接近する際の草の音で気づいた気配がこちらを向くと、そこにいたのはビッグマウスだった。


 心の中で舌打ちを1つして、相手が臨戦態勢に移行するまでもなく、走り抜けるように切り付ける。


 距離を取りすぐ構えなおすが、ラージラビット同様ビッグマウスは反撃どころか動くことすらなかった。


 近づくとなんと、10cm程度の大きさの頭部とその下の体――胴体が完全に分断されていた。

 確かに前かがみ――おそらく体当たりを仕掛けてこようとしたのだろう――になったところを、走り抜けるように首筋に短剣を叩き込んだ。

 だが、まさか切断に至るとは思わなかった。

 幼女の細腕でしかも片手で持った小さな短剣で、だ。

 筋力増加Lv5は相当な筋力量を向上させてくれるようだ。


 スキルのすごさに感心を通り越して呆れながら、2つになった死体のどちらに手を翳したらいいのか少し迷ったが、大きな胴体の方に向かって翳して解体と念じてみる。

 2つになった死体の両方とも一瞬で消えると、残ったのはまた肉だった。



 ネズミの肉はいらないんだがなー。



 今度は死体が倒した草の上に肉が出現したので、汚れはほとんどなくささっと叩いてアイテムボックスに回収。


 出しっぱなしだったステータスウィンドウを見てみると、50程度あったMPがマックスまで回復していた。

 そんなに時間が経った気はしていなかったが、思ったより緊張していて時間の感覚がおかしくなっていたようだ。

 戦闘はほとんど一瞬だったから、考えないとしても歩いて近づいていたので自然回復が1分だったとして、最低で20分はかかったことになる。


 2匹で20分……。

 意外と時間がかかった割には、目的のウサギの肉は手に入っていない。

 ここに留まって肉が出るまで頑張るべきなのか、移動しながら狩りを行うべきなのか。

 考えるまでもなかった。

 倒れるほどの空腹というわけでもない。そこまでになったら、嫌だがネズミの肉を食うという手もある。


 まだ大丈夫そうなので、移動しながら狩りをしていくことにしよう。



 アルが待っている空き地のような場所に戻ると、慇懃に頭を下げて迎えてくれる。



「ラージラビットは居たんだけど、肉は出なかったよ」


「それは残念にございます」


「とりあえず進みながらウサギが居たら狩って、肉が出たら空き地を探して焼いて食べよう。

 アルはお腹まだ大丈夫だよな?」


「答えは是。問題ありません」


「よし、じゃぁ行こう。北東はどっち?」


「こちらにございます」



 指し示された方向にさっそく複数転移Lv1で移動を開始する。

 一度転移し、さっき倒したウサギと同じような気配があるか探るが、近場にはいなかったのでもう一度転移する。


 今度は近くにウサギっぽい気配がしたので、アルには待ってもらい接近を開始する。

 音を殺して接近しながら、ふと思った。

 アルを待たせる必要性ってあるのかな? あいつチュートリアルクエストの時だって音一つ立てずに接近してきたし、ポーター役してもらうんだし……。


 そう思い直して、一旦アルのところまで戻る。



「アル、やっぱり待つのなしで着いて来て。隠密行動は得意なんだろ?」


「答えは是。音を殺して動くことは執事の基本にございます」


「執事ってそういう職業だっけ……?」


「答えは是。そういう職業にございます」



 彼の中では執事とは隠密行動が基本のようだ。どこの忍者だよ。

 まぁそういうわけなら、待っててもらう必要性は皆無だ。

 気配は動いていなかったので、そのまま一緒に接近を再開する。

 プランは同じ。高速接近からの一撃離脱。

 まぁ一撃で倒せるだろうけど、油断は禁物だ。雑魚だろうが、魔物は魔物。

 見た目がしょぼくても、一撃で倒してしまうほど弱くても、こっちは幼女なのだから。


 距離をある程度詰め、一気に接近。

 今度は気づかせることなく一撃を入れることが出来た。

 横薙ぎに払われた短剣が、骨を絶つ堅い感触を感じることなくすんなりと通り抜ける。


 少量の血を出して頭と胴体が永遠のお別れをしたラージラビットは、どこからどうみても絶命している。



「お見事にございます。さすが我が主。

 気づかせることなく、一撃で頭と胴を切り離すなど並の戦士には出来ぬことにございます」



 ゆっくりと近づいてくるアルが褒めてくれる。確かに今まで倒した奴らは接近に気づいて臨戦態勢に移行する直前、あるいは完全に移行していた。

 だが、今度は気づかせることなく倒すことができた。

 攻撃を加える位置、速度、タイミング……その他諸々がこの数回の戦闘でだんだんわかるようになってきていた。

 だがうまく出来たのだから、褒められると嬉しい。


 ついつい顔が緩んでしまうが、そんな主を放って置いてアルは2つになった死体に解体を使って素材にしていた。

 今度も肉ではなく、一房の毛が残っていた。残念。



「はずれかー。肉ってもしかしてレアなのか?」


「答えは否。確率の問題かと愚考致します」



 ラージラビットの毛を受け取り、アイテムボックスを出して突っ込みながら聞くが、やはり確率のようだ。

 運増加が欲しくなる。お腹がやばくなる前には出て欲しいものだ。


 その後も、移動を続けながら魔物を狩っていく。

 気づかれないように接近して全て一撃で沈める作業を続けるが、一向にウサギの肉は出なかった。

 代わりといってはなんだが、ネズミの肉はそれなりに出た。他にもビッグマウスの歯なんてのも出たが、食えそうにはない。はずれだ!



 2つの太陽がずいぶん傾き、もう少ししたら緑の海が赤に染まるだろう頃合。

 空腹もかなり限界に達してしまったオレは……決断を迫られていた。




けっつだん決断だんだんだん。


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