第5章 ダンシングソード
「さぁ、付きましたよ。ここが“ポイント1”です。報告では、今からおおよそ1時間後にブルハリがここを通過するらしいです」
「ふぁーあ……よく寝た。なに? あと1時間もあるの? それじゃ、少し準備運動でもするかな。『ゲート』!」
魔車からおりて直ぐ、牙は『ゲート』の魔法を唱えた。魔力を持たない牙だが、魔力を秘めた指輪の力で『ゲート』の魔法を使うことができるのだ。
「ゴゴゴゴゴ……」
牙が『ゲート』の魔法を唱えた瞬間、空が急に暗くなり、天が裂けた。そして、その裂け目から全長20メートルほどの巨大な剣が、轟音と共に落ちてきた。
「ズドーーーーーン!!」
その音はまるで雷鳴の様であった。
「相変わらず、すごいですね」
クラリットは巨大な剣の登場シーンに感服していた。
「よし、それじゃあちょっと素振りするから。危ないからどいていろよ。『スタンプ』!」
そう言うと今度は『スタンプ』の魔法を使い、上空へと飛び立った。魔力の無い牙だが、魔力を秘めたブーツのおかげで、空中に魔方陣の“足場“をつくることができる『スタンプ』という魔法が使えるのだ。
「『スタンプ』! 『スタンプ』! 『スタンプ』!」
さらに牙は『スタンプ』の魔法を数回唱え、巨大な剣のつばの上に降り立った。そして、おもむろに巨剣の柄を掴んだ。
「うぉおおおおおおおおおお!!!」
次の瞬間、牙は巨大な剣を持ち上げた。小さな人間では到底持ち上げることなど不可能に思える巨剣を、牙は軽々と持ち上げて見せた。
「ブン! ブンブン!」
「『スタンプ』! 『スタンプ』!」
「ブン! ブンブンブン!」
そして、『スタンプ』の魔法をうまく使い、空中を飛び回りながら、無尽蔵に巨剣を振り回した。
その姿を遠くから見ると、まるで巨剣が一人で楽しそうに踊っているように見える。だから、人々は牙のことをこう呼ぶのだ。
『ダンシングソード』と。
~用語解説~
『ゲート』
超魔法の一つ。時空に裂け目を作り、そこから物質を移動することが出来る。牙は魔力がないのだが、牙が装備している指輪に強力な魔力が込められているため、その指輪の力でこの魔法を使うことが出来る。ちなみに、指輪には“呪い”がかかっている。この話はまた今度。
『スタンプ』
高等魔法の一つ。空間に足場を創り、そこに乗ることができる魔法。この魔法も牙はその足に履いているブーツの魔力によって使うことができる。ちなみに、このブーツにも“呪い”がかけられている。
『超魔法』『高等魔法』
それぞれ、魔法のランクわけの用語として使われている。
高等魔法……高ランクの魔法。熟練の魔法使いでも高等魔法を扱えるものは稀である。高等魔法が使えるだけで”天才”と称されることも多い。様々な魔法を組み合わせた複合魔法であることが多い。
超魔法……歴史の中でも使えるものは数えるほどしかいない超魔法。超魔法を使えるものは皆、歴史に名を残す偉人ばかりである。