第20章 早計な歓喜
「どうなった? ブルハリは穴にちゃんと落ちたのか?」
大量の砂煙が舞っていて、誰もその目で確認できなかった。しかし、これだけは言える。ブルハリは今、その進撃を止めている。足音も、巨大な馬が迫ってくる気配も、全く感じられなくなったのだ。
「やった!!! ついに、ついにブルハリを止められたぞぉ!!!!」
はやくも勝利を確信した戦士がうなり声をあげた。
「あぁ! やったぞ! 俺達やったんだ!!」
「バンザーイ!」
「うひょーい!!」
戦士に続くように、次々と勝利を確信した人々が歓喜の声を上げた。ただ一人、ラミールを除いて。
「まだだ!! まだ“左後足”が穴に収まっていない!!」
砂煙の隙間から、ラミールは確かに見た。ブルハリの“右前足”“左前足”“右後足”がしっかりと穴に収まっているのを。そして、唯一“左後足”だけがわずかに穴から数メートルずれていて、収まっていないことを。おそらく、先ほどブルハリが体制を崩したときに、“左後足”の位置だけ、わずかにズレてしまったのだろう。
「このままじゃ、あの“左後足”を軸にして、他の穴から這い出てしまう!」
ラミールの危惧したとおり、ブルハリの強靭な“足”であれば、一本だけで体全体を支え、持ち上げることなど造作もないことだった。
「バヒヒヒヒヒヒューン!!」
ブルハリは“左後足”に力を込めて、他の3足を穴から出そうと、もがきだした。時は一刻を争う。何としても、迅速にあの“後左足”を穴に落とさなければ、ブルハリは穴から這い上がり、再びグリーン王国に向けて進撃してしまう。そうなれば、こんどこそ終わりだ。
「おい! みんな聞け! 俺の話を聞いてくれ!! あの“左後足”をズラして、穴に入れるぞ! すぐに攻撃の準備をしろ! おい! 聞いているのか!!」
しかし、早計の勝利に歓喜し、大声で叫んでいたハンターや騎士の耳に、ラミールの言葉は聞こえていなかった。
「くそ!」
気がつくと、ラミールは一人で、砂煙の中に突入していた。ラミール自身、この行為は無謀だと理解していた。それでも、母国を守りたいという“強い思い”を体で表現せずにはいられなかったのだ。
「バヒヒヒヒヒヒューン!!」
「うぉおおおおお!!」
ラミールは数十メートルある“左後足”目掛けて、捨て身の体当たりをした。
「ぐわぁ!」
しかし、小さな人間の体当たりくらいでは、ブルハリの足は全く動かなかった。そしてラミールは、必死にもがいているブルハリの“左後足”に強く、跳ね飛ばされた。
「く、くそぉ……」
ラミールの口から血が滲む。吹き飛ばされた衝撃と地面に激突したときの痛みで意識も朦朧としていた。それでも、ラミールは捨て身の突進をやめなかった。
「うぉおおおおおお!!」
何度も何度も
「ぐふぅ!」
“左後足”目掛けて突進した。
「ぐぉ……おおおお!」
体中血だらけで、おそらく骨もいくらか折れていた。それでも、ラミールは止まらなかった。
「げほぉう!!」
何度も何度も、巨大な足に吹き飛ばされて、地面に叩きつけられても、やめなかった。
「俺は、俺は……絶対に愛する母国を、守るんだぁあああああ!!!」
ラミールは必死に叫んだ。しかし、その叫びも虚しく、ブルハリがついに“左後足”の力を使って体全体を持ち上げ始めた。このままでは、うまく落ちてくれたほかの3足も、再び自由になってしまう……。もはや、敗北は決定的であった。誰もがあきらめるような状況だった。
「あきらめて、たまるかぁああああああ!!!」
しかし、ラミールは最後の最後まであきらめることをせず、叫び続けた。