第16章 最後の策
「そうです! 『落とし穴』を掘ればいいんですよ! 牙さん、ナイス助言です! “思考の落とし穴”っていまいち意味わからない言葉ですけど…………って、あれ? 牙さんは?」
牙が城を出て直ぐ、クラリットはある作戦を思いついた。
「クラリットくん、君は私が牙を叩くところを見ていなかったのかい? ここにいる全員が目撃したというのに。『バシン!』という大きな音も聞こえなかったというのかい?」
「はぁ……すいません。集中していたもので」
「まったく、君の集中力の高さにはあきれてしまうよ」
ラミールは皮肉めいた言葉と共にため息をついた。そして、先ほどのクラリットの発言に対して言及した。
「ところで、さっき『落とし穴を掘ればいい』と君は言っていたけれど、それは無理だと思うな。ブルハリは体長40メートルを超える。そんな巨大なブルハリを落とすことが出来るほどの大穴を、今から約3時間で掘るのは無理だ。1000の人力を合わせても間に合わない。それに、例えそれだけ巨大な穴を掘れたとしても、ブルハリの強靭な足腰なら、穴から這い出ることなど造作もないだろう」
ラミールはクラリットの頭脳に少なからず期待していた。しかし、その期待していた頭脳から出てきたのは、『落とし穴』という、まさに穴だらけの愚作であり、ラミールは落胆した。
「それが大丈夫なんですよ!」
落胆するラミールとは裏腹に、クラリットはやけに自信たっぷりに話を続けた。
「まず、掘る穴はそんなに大きな穴じゃなくていいんです。ブルハリの足がすっぽり入る程度の穴を4つ掘ればいいんです。落とすのは4本の足だけでいいんですよ。体まで落とす必要はありません。それなら、1000人が力を合わせれば、3時間あればギリギリ可能ですよね?」
「う、うむ。確かにそれなら時間内に落とし穴を掘ることは可能だろう。……しかしだ、そんな小さな穴にブルハリの足が運良く落ちるとは、到底思えないのだが……」
ラミールの意見は当然であった。足がすっぽり入るサイズの穴4つに、時速20キロほどの速さで走るブルハリの足4本が、寸分のくるいもなく、同時にそれぞれの穴に落ちる。そんなの天文学的な確率になると、数学を知らない凡人でも予想がつく。
「大丈夫です! 僕に任せてください! 少し時間をください。残り時間はあとどれくらいですか?」
ラミールは時計を確認した。
「残りは3時間半だ」
「わかりました。20分で戻ります。それまでに穴を掘る準備をしておいてください。魔車を使いたいので、魔力の残っている人はついてきてください!!」
そう言うと、クラリットは無理やり魔法使い3人を引き連れて、城から出て行った。