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第15章 世界で一番最低な人間


「すいません遅れました! 途中で魔力が無くなって、魔車を使えなくなって、それで……」


 ようやくグリーン王国の城に到着したクラリットと牙は、どんよりとした場の雰囲気に困惑した。


「おぉ、ちょうど良い所に来てくれた。クラリットくんも知恵を貸してくれ。どうにかブルハリを止める方法はないか、みんなで知恵を出し合っていたのだが、なかなか良い案がでなくて困っていたのだよ」


 ラミールは牙のことを完全に無視して、クラリットだけに知恵を求めた。


「“ポイント3”も突破された……ということですね。賢者様でも止められなかったとなると、かなり絶望的ですが……。まだ時間はあります。僕も考えますね! ……あぁ、牙さんはてきとうに休んでいてください。邪魔なんで」


 冷たい態度でそう言うと、クラリットもみんなと一緒に策を考えた。そして、1000人のちっぽけ人間達による、大討論会が始まった。




「巨大なまきびしをまくのはどうでしょうか?」

「うーん、多少の障害物があってもブルハリの足の防御力は強いですから。効果はないでしょう」


「それなら、巨大な“ゴキブリホイホイ”を作るというのはどうでしょうか?」

「それも効果はなさそうだね。それに、あの馬力をとらえられるほど強力な粘着テープを用意できないしね」


「それなら毒による攻撃はどうですか?」

「うーん、ブルハリは走り続けているからね。一度に大量の毒を吸わせることは難しいかな」



 一人一人が真剣に頭を悩ませ、白熱した議論が展開されていた。そんな中、牙だけは全く別のことを考えていた。


『どうやったら俺のことをバカにするクラリットに、俺の頭の良さを知らしめることができるか?』


 牙はそのことだけを一生懸命考えていた。今まで、クラリットに頭の悪さや魔力が無いことを散々バカにされてきた牙。怒りに任せて暴力を振るえば「すぐ暴力を振るうから単細胞バカと言われるんですよ!」と反撃される。そんな酷い扱いを受けてきた牙は、どうにか“暴力”ではなく“言葉”でクラリットを負かしたい! と強く思っていた。


「うーん、あれもダメ。これもダメか……」


 そんな牙の目に、頭を抱えて悩むクラリットの姿が映った。


(クラリットのやつ、相当悩んでいるな! ざまぁーみろ! 俺のこと邪魔者扱いしたくせに、お前だって良い案思い浮かんでないじゃんか!! ……そうだ、悩んでいるクラリットをバカにしてやろう。それも、頭が良いと思われるような、カッコイイセリフでだ!)


 そう思った牙は、必死に考えた。一生懸命活路を見出そうと悩む真人間をバカにする。そんな最低なセリフを必死に考えた。牙は今、世界で一番最低な人間くずと成り果てていた。


(よし! 思いついたぞ!! 我ながら良いセリフだ)


 必死に悩んだ結果、牙の脳裏にあるセリフが浮かんだ。このセリフを言えば、「牙さんって文学的な言葉の表現ができる、博識高い人だったんですね!」とクラリットが言うに違いない。そう思った牙は、思いついたセリフを今一度 推敲すいこうすることなく、直ぐ口から出した。


「ふふふ、クラリットくん。どうやら君は思考の落とし穴にはまってしまったようだね! 僕のことを邪魔者扱いしておいて、妙案の一つも思い浮かばないなんて……まったく、君のバカさかげんにはあきれてものも言えないよ。ははははは……」


「バシン!」


「ぶへぇ!」


 突如、ラミールが牙の顔をぶん殴った。思いっきり、全力で、体重乗せて、ぶん殴った。ラミールのコブシは強く握られていて、そこから血が滲んでいた。


「ふざけるんじゃない!!! みんな真剣に作戦を考えているんだよ!!! お前、別のこと考えていただろ? お前みたいなクズがいると士気が下がるんだよ!!! 出て行け! 今すぐ出て行け!!!!!」


 ラミールは喉がつぶれるほどの大声で怒鳴った。ラミールはそれほど必死だったのだ。どうしても、愛する母国を守りたかった。自分の命と引き換えでもいい。刺し違えてでもブルハリを止めてやる。そこまで強く願う男にとって、牙の態度はどうしても、許せなかったのだ。


「……ごめん。少し頭冷やしてくる」


 そう言うと、牙は城から走り去って行った。


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