第10章 『ツルツルツルリン! ひゃあ! 冷たい! 大作戦』
「バヒヒヒヒヒヒューン!!」
砂煙を上げながら、ついにブルハリが“ポイント2”にやってきた。
その姿はまさにハリケーンと呼ぶにふさわしく、ブルハリが走ってきた道は酷く荒れていて、そこに生命は一つも存在していなかった。
「ブルハリが来たぞ! みんな足を狙って、『アイス』の魔法を唱えろ!」
“ポイント2”の代表の合図を聞いて、魔法使い達は相手を凍らせる攻撃魔法『アイス』を次々に唱えた。
「『アイス』! 『アイス』! 『アイス』! ……ダメだ! 足の魔力が強すぎる! 俺達の魔力じゃ全然効果が無い!!」
「バヒヒヒヒヒヒューン!!」
まるで勝ち誇ったように鼻を鳴らすブルハリ。その足に携えた魔力は強力で、400人近い魔法使いの『アイス』の魔法攻撃でも、その足はまったく凍る気配はなかった。
「くそ! 足がダメなら胴体を狙え!」
“ポイント2”の代表の声を聞いた魔法使い達は、今度はブルハリの体目掛けて『アイス』の魔法を放った。
「バヒヒヒヒヒヒューン!!」
足に比べて胴体の魔力は弱く、『アイス』の魔法は効果があった。ブルハリの胴体に薄っすらと氷が幕を張り、わずかだがブルハリにダメージを与えることが出来たのだ。しかし、今だ足の動きは健在で、その進撃が止まる気配はなかった。
「くそ! このままでは“ポイント2”も突破されてしまう……」
“ポイント2”の代表があきらめかけたとき、クラリットが大声で叫んだ。
「みなさん! 地面です! 地面に向かって『アイス』の魔法を放ってください!!!」
どうにかしてブルハリ止めたい。そう思っていた魔法使い達は、わけもわからないままクラリットの言葉を信じ、地面に向かって『アイス』の魔法を唱えた。
「バヒヒヒヒヒヒューン!?」
突如凍る地面。今までにない地面の感触に困惑するブルハリ。“氷の上を走る”という今までに経験したことのない状況下、ブルハリはうまく地面を捉えることができず、ツルツルと滑り、体制を崩しかけた。
「やった! ブルハリは体制を崩して転ぶぞ! 俺達の勝ちだ!!」
このとき、誰もが自分達の勝利を“確信”した。ブルハリは転ぶ。それが現実になると誰もが疑いを持たないほどに、ブルハリは氷の上で無様に滑り、体制を崩していた。どうがんばっても、そこから体制を立て直すことはできないと“確信”できるほどに、ブルハリの体制は完全に崩れていたのだ。しかし、“確信”などという言葉は所詮、まだ実現していない未来を表す言葉であり、現実とは程遠いものであった。
「バヒヒヒヒヒヒューン!!」
次の瞬間、誰もがその目を疑った。なんと、体制を崩しかけていたブルハリが、見事なスケーティングを披露し、あろうことか“トリプルアクセル“を華麗に決めて、さらには”イナバウワー“で観客を魅了し、そのままグリーン王国目掛けて走り去っていった……。
その一連のありえないブルハリの動きを見て、クラリットは思わず『10点満点!』と書かれた札を挙げた。
後に魔法使い達はこう語る。
【あのトリプルアクセルは浅田真央の様だった】
~用語解説~
『アイス』
攻撃魔法の一つ。対象物を凍らせることができる。強力な魔力を持つ者であれば、海でも凍らすことができるという。ただ、アツアツバカップルの熱だけは、凍らせることはできないという。恋は盲目、鯉はお作り、故意はダメ。