削られて折られて、それでも誰かを支えたい 〜転生したら鉛筆でした〜
これは、ただ削られ、折られ、使われるだけの“鉛筆”に転生した一人の魂の物語です。声も出せず、動くこともできず、ただ消費されていく存在として生まれた主人公が、その短い一生の中で何を感じ、何を願ったのか。
静かで、残酷で、どこか切ない。そんな“モノの視点”から描く転生譚です。
ブラック企業で働き続け、心も体も限界だった。
深夜のオフィスで意識が途切れた瞬間、
「誰かの役に立ちたい」という最後の願いだけが胸に残った。
——気づくと、真っ暗な箱の中にいた。
動けない。声も出ない。
周囲には同じ形の何かがぎゅうぎゅうに押し合っている。
息苦しい圧迫感だけが、かろうじて“生きている”ことを知らせていた。
やがて光が差し込み、私は自分の姿を知る。
——鉛筆だ。
「なんで……俺が……?」
混乱と恐怖が胸を締めつける。
でも、どこかで納得している自分もいた。
誰かの役に立ちたいと願った結果が、これなのかもしれない。
次の瞬間、体がつままれ、金属の中へ押し込まれた。
ガガガッ、ガガガッ。
「痛っ……! やめてくれ……!」
木肌が裂け、芯がむき出しになる。
削られるたびに、自分の一部が確実に失われていく。
叫びたいのに声が出ない。
抵抗したくても、ただの棒でしかない。
その後は紙に押しつけられ、
ザリッ、ザリッと芯が削れていく。
喉を擦り切られているような痛みが走る。
「こんなはずじゃ……俺は、誰かを幸せにしたかっただけなのに……」
何度も折られ、削られ、短くなっていく。
寿命が目に見えて減っていく恐怖に、心が折れそうになる。
そんなある日——
小さな手が、そっと私を拾い上げた。
「この鉛筆、書きやすいな」
少年の声だった。
優しい手つきで、丁寧に私を使ってくれる。
折れそうになったらすぐに削り直し、
短くなっても捨てずに、大事に大事に使ってくれた。
「ありがとう……」
声にならない声で、私は何度も呟いた。
少年はやがて青年になり、
ノートにびっしりと物語を書き続けた。
私の芯はすり減り、体はどんどん短くなっていく。
それでも、彼の文字を支えるたびに胸が温かくなった。
——俺は、ちゃんと誰かの役に立てている。
最後の一日。
私はほとんど使い切られ、もう握れないほど短くなっていた。
青年はそっと私を机に置き、微笑んだ。
「この鉛筆が、僕の最初の物語を支えてくれたんだ」
その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥がじんわりと熱くなった。
——ああ、幸せだ。
私の意識は静かに薄れていく。
その後、青年は文豪と呼ばれるほどの作家になったという。
短く儚い一生でも、誰かの夢を支えられるなら——
これは、鉛筆に転生した主人公が見つけた“小さな幸せ”の物語です。
読んでいただき、ありがとうございました。
「もし自分が“物”として生まれたら」という発想から生まれた短編第2弾です。
削られ、折られ、使い捨てられる存在の視点を通して、
少しでも何か感じていただけたなら嬉しいです。
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