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 蒼弥の両親が住むという屋敷は帝都の西側に位置していた。

 帝都のわりかし中心に建つ蒼弥の屋敷と比べ、自然が多く、緑豊かなところに大きな屋敷がぽつんと立っている。


(とても大きなお屋敷……)


 車を降りて早々、その大きさに和花は口をぽかんと開けて屋敷を見た。


「和花、こちらですよ」


「は、はい……」


 蒼弥に案内され、大きな玄関の扉の前に立つ。今更後戻りはできないが、緊張が最高潮に達そうとしていた。

 巾着を持つ手に自然と力が入る。


(粗相のないように、九条さま……いえ、蒼弥さんにふさわしい女性として認めて頂かなくては……)


 心の中でで呪文のように繰り返す。

 美しい言葉遣いや言動を頭の中で思い描き、今後に備えた。

 真剣に深呼吸する和花を見た蒼弥は、くすりと笑い、彼女の頭を撫でる。


「和花、大丈夫ですよ。母はあなたに会えることを楽しみにしていますから」


 蒼弥の優しさに心がほんの少しほぐれ、気が付けば不安を吐露していた。


「……蒼弥さんのお母さまは、私に会ってがっかりされないでしょうか……」


 扉を見つめながら、ぽつりと呟く。

 しかし、不安そうな和花をよそに蒼弥は、変わらず穏やかな笑みを浮かべている。


「そんなはずありません。……ただ違った意味でご迷惑をおかけしたらすみません」


「そ、それはどういう……?」


「さ、行きますよ」


 話半分で蒼弥は扉に手をかけた。違った意味とはなんだろう。不安に不安が重なり、和花は呼吸の仕方が分からなくなりそうになりながら、蒼弥の後に続いた。


 扉の先は、予想を遥かに超える豪華な造りだった。

 純和風な蒼弥の屋敷と違い、この家は洋風である。

 天井からは花型の豪奢な装飾照明が吊り下がっており、煌々とあかりが付いていた。さらに大きく華やかな生花が生けられた花瓶や絵画が出迎えてくれる。

 床や螺旋状になっている階段は、焦茶色で統一されており、華やかさの中に落ち着きが感じられる品の良い玄関だった。

 美しい光景に目を奪われていると、目の前の螺旋階段から人が降りてくる音がした。

 ごくり、と唾を飲み込む。


「蒼弥、おかえりなさい」


 高めの美声を放ちながら姿を見せた人物に、和花の目は奪われた。

 栗の皮のような黒みがかった赤褐色の長い髪は顔の横で一つに結ばれている。

 大きなぱっちりとした目と小さな形の良い唇。同姓である和花もうっとしりしてしまう美貌。

 そして、蒼弥によく似た綺麗な女性だった。


「ただいま戻りました」


「はい、おかえりなさい」


(この方はどなたでしょう?とてもお綺麗な方……)


 和花と蒼弥の目の前まで降りてきた女性は、蒼弥ににっこり微笑みかけ、蒼弥もそれに穏やかに応答する。


(……絵になる二人とはまさにこのことね)


 向かい合う二人は美男美女でお似合いで、和花の心は一瞬曇った。カナに綺麗にしてもらったとはいえ、目の前の美女には到底敵わない。

 それに、ただの美人ではないのが雰囲気で分かった。気品や人を惹きつける何かが彼女から漂っている。


 いつの間にか、蒼弥と女性の会話は途切れ、二人の視線は和花に向いていた。自分に注目が集まったことに気づき、和花はどうして良いのか分からず、狼狽える。

 そんな和花を愛おしい目で見つめていた蒼弥は、女性に向かって和花のことを紹介し始めた。その発せられた蒼弥の言葉に、和花の中のモヤモヤは一気に吹き飛ばされることになる。


「母さん、彼女が藤崎和花さんです」


(へ……?か、母さん……?この方が、蒼弥さんのお母さま……?!) 


 蒼弥の隣に立っても引けを取らない美しさに、勝手に同年代くらいかと思っていた和花は、目を回しそうになった。そう勘違いしてしまうくらい蒼弥の母はとても若々しい。

 和花は挨拶をしようと口を開いたが、驚愕やら緊張やらで声が出ない。

 笑顔を作ろうとしても、どうしてもぎこちなくなってしまう。和花は必死に口角を上げた。

 蒼弥の母は、和花の頭からつま先を見ると、手をぱちんと合わせ嬉しそうに笑った。


「まぁ!あなたが和花さんね!ずっとお会いしたかったのに蒼弥がなかなか連れてこないんだもの。だから速攻きてちょうだいって連絡しちゃった。私は蒼弥の母の九条かすみよ。これからよろしくね」


 和花の想像と百倍違う蒼弥の母、かすみの様子に和花は言葉を失った。

 いや、決して蒼弥の母を悪く思っていた訳ではない。しかし、名家九条家の婚約者になる者として、もう少し警戒されたり、見定められたりすると思っていた和花は拍子抜けした。


 蒼弥に良く似た麗しい容姿。かと思えば一度言葉を発すると、永遠と話しているのではと思ってしまうほど饒舌で可愛らしい印象を受けた。

「素敵な子を連れてきたわね〜」と蒼弥に告げるかすみは、脳内にお花畑が広がっているような柔らかい物言いである。

 かすみに圧倒され、固まっている和花に蒼弥は耳打ちした。


「心配ないと話したのはこういうことです。母はおしゃべり好きな陽気な人なんです」


 くくっと蒼弥はおかしそうに笑った。そこで和花はようやく息が吸えた気がした。

 今まで抱えていた不安が萎んでいき、代わりに温かいものが広がっていく。

 息がしやすくなった和花は、大きく深呼吸すると姿勢を正し、丁寧に頭を下げた。


「お初にお目にかかります。藤崎和花と申します。不束者ではございますが、これからよろしくお願い致します」


「和花さん、お顔を上げてちょうだい!」


 かすみは頭を下げる和花の肩にそっと手を乗せ起き上がらせた。


「あ、あの……」


 至近距離で穏やかな目と目が合う。蒼弥と同じ薄茶色の瞳に和花は引き込まれた。


「そんなに緊張しないでちょうだい。大丈夫よ、取って食べたりしないわ。私、和花さんに見せたいものがあったの。こちらに来てもらえるかしら?」


 隣に立つ蒼弥をちらと見ると、優しく頷いてくれた。


「分かりました」


「ふふふ、良かった。それでは行きましょう」


 かすみに手を引かれ、和花は屋敷の奥に進んでいった。

 

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