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策略家エリー

第26話までのエリーさんのお話です。

ちょっとネタバレも含まれています。

ネタバレが嫌な方は、本編を先に読んでください。

 私の名前はエリー。ベイツ冒険者ギルドの看板受付嬢です。


 冒険者は男性が多く、気が短い人が多いのです、そんな冒険者の受付をこなすには臨機応変な対応と、冒険者に気に入られるような容姿が必要になります。

 更に毎日入れ替わる依頼の把握や受付など、多岐にわたることができなければいけません。

 大変なお仕事ですが、その分お給料は高く、人気の職業のひとつがこの冒険者ギルドの受付嬢なのです。

 運が良ければ高ランクの冒険者と結婚なんかも夢ではないかもしれません……


 そんな人気職の受付嬢になれた私ですが、おかしなことになっています。

 配属先がベイツの街なのです。ベイツの街は危険な魔物が目撃されることはまずなく、冒険者に不人気の街です。なので、私のお仕事は一日中イスに座って入り口を笑顔で見つめ続けます。いつだれが入ってきた時でも問題ないように、気を抜くわけには行けません。それにしても……私がベイツの街に配属? 評価が良くなかったのでしょうか?




 ある日、ある男性が入り口から入ってきました。

 これはきっと私の初仕事になる! そう確信した私は、背筋を伸ばし、深呼吸をし、いつでも対応できるように万全の態勢に入りました。


 しかし、男性は迷うことなく隣のルイーダ先輩の元に行ってしまいました。

 どうして? 私に魅力がないのでしょうか? これでも高倍率の試験を合格し、受付嬢になっているのですよ? ベイツの街に配属になったので、成績は良い方ではなかったのでしょう? それでもどうしてそちらへ?


 ルイーダ先輩には「男性の冒険者は若い受付嬢で受付をします。私は隣でサポートするので出来る限り頑張ってください」と言われていました。でも、あの男性はルイーダ先輩一直線に向かっていきます。出来る限り営業スマイルをしていますが、全然効いているそぶりも見せません。いえ、こっちすら見ていません。あの方は年上の女性が好きな男性だったのでしょう、稀にお母さんが大好きな男性もいると聞きます。




 結果的にですが、あの男性は私の手に負える人ではありませんでした。あの男性がこっちに来たとしても、私はルイーダ先輩をこちらへ呼ばなければいけなかったでしょう。スタッフ~ スタッフ~! それくらいひどかったです。

 まさか、職種欄に『大魔法使い』と真顔で記載しようとするなんて正気の沙汰でありません。ルイーダ先輩もさすがに呆れながら職種欄の注意事項を説明してました。

 男性の名はアタルと言うそうですが、彼はビックリした表情をしたあとに、深く考えたあと『管理職』という職種に変更しました。ビックリしました、『管理職』って何? 聞いたこともないですし、明らかに戦えない職業ですよね? 大丈夫ですか? ここは冒険者ギルドですよ?


 説明を盗み聞きしていると、全然だいじょばなかった……いえ、大丈夫じゃないでした、ビックリしすぎて動転してしまいました。彼が言うには「人を使うには自信がある」とおっしゃっています。人を使うのに自信? 人を雇うことがあっても、使うってどういうこと? 頭がおかしくなりそうです。この方、さっきまで山奥で二人暮らしで外の世界を知らないということを話していたんですよ? その流れで人を使うのに自信があるという自信は一体どこから出てくるんですか? まさか……人を操るスキルを持っているとか? 危なすぎます。


 ルイーダ先輩はアタルの職種は『管理職』でギルドカードを作っていました。私なら怖くて作れない……さすがベテランの受付嬢です。あとから話を聞くと「人を操れるなら、ギルドカードを作るときに私たちは操られているでしょ?」とのことだった。さすがルイーダ先輩、こんなに優秀なのになぜベイツの街に居るの?




 それからも彼の異常行動が続きました。

 彼は毎日欠かさず冒険者ギルドに訪れ、ルイーダ先輩に話しかけているのです。ベイツの街には冒険者が現在彼しかいないので、追い返すわけにもいきません。そもそも私たちも暇なので、話し相手くらい問題ないでしょう。私は盗み聞き専門ですが……

 彼の話はほとんど世間話程度の物でした、よく受付嬢を口説いてくる冒険者が多いと聞きますが、彼からはその手の話題はさっぱり出てきません。あえて言うなら宿泊している宿の料理がおいしい、自分が獲った魚も使われているから今度食べに来てみて程度でしょうか? そこには一緒に食事をしようとかそういう感じは全くありません。むしろ隣の窓口のエリーさんも一緒に誘ってきてよ! くらいの勢いでした。


 そんなある日、ギルドにたくさんの指名依頼が届きました。今まではほとんど依頼なんてなかったのに突然の出来事です。そしてこれが私の本格的なお仕事になりました。

 指名依頼は家の修繕、依頼する冒険者は『アタル』と記載されています。ルイーダ先輩から、彼の泊まっている宿がきれいになったというのは聞いていましたが、私の宿舎は逆方向でどれくらい綺麗になっているかはわかりません。実は、私は彼がちょっと苦手なので食事にも行ってません。毎日ギルドに来ているのに私に話しかけてこないところを察すると、彼も私に苦手意識があるのでしょう。


 指名依頼の内容自体は問題ありませんでした、彼は建築関係のスキルがあるのかもしれません。人を使うというのは大工達を使うということだったのでしょうか? 現在、大工は全員街を離れたと聞きましたが……

 問題は、指名依頼の報酬に関することでした。なんと彼は、依頼主とギルドで話し合って報酬金額を決めるようにて言っているそうなのです。ギルドで設定するだけではなく、依頼主とも相談……私には難しいです。スタッフ~ スタッフ~!


 ルイーダ先輩の窓口にも指名依頼に来た人がたくさんいましたが、私の力不足の為に窓口が一つになりました。本当に申し訳ありません。しかし、街の人達からは不満の声がひとつもあがりません。彼は……アタルは一体何をしたのでしょう?


 さすがルイーダ先輩です! 『ギルドと街の人との相談で報酬を決定する』という難問題を解決するために、依頼主以外を離れた場所で待機する対応を行いました。順番がわかりやすいように、番号を書いた紙を皆さんに配るという発想をとっさに考え付くなんてすごいです。


 街の皆さんの話を聞いていて、彼がなぜこんな不思議な依頼方法をするようにしたのかがわかってきました。いえ、言い方が悪いですね、ルイーダ先輩の対応を見て知りました。

 ルイーダ先輩は、街の人の経済状況を確認しながら報酬金額を設定していました。収入が少ない人には報酬を安く、収入が多く生活に余裕がある人には高く。もちろん報酬を安くと言っても、生活がギリギリ続けられる程度の金額まで報酬を上げているので、生活が苦しい人たちにとっては高額な報酬でしょう。それでも大工を街に呼び、旅費や宿泊費も負担しながら家の修繕をすることと比べたら破格の値段でしょう。

 結果、誰からも不満が出ずに指名依頼は受理されていきました。ルイーダ先輩は「アタルさんから依頼を受けてもらえるかはまだわからないので、その時はまた報酬額を見直しましょう」とみなさんに声掛けしていた。彼が言うように話し合って金額は決めたが、全員が格安設定になっています、彼がやらないと言ってしまえば白紙になってしまうので不安が大きいです。


 お昼過ぎ頃に彼がやってきた。彼は「指名依頼はありますか?」とルイーダ先輩に聞き、指名依頼をながめていた。そして「ここから近い家から直したいので選んでください」と言い、先輩が選んだ依頼書を持って外に出て行った。依頼料には触れられなかった……そもそも、彼は依頼料を見ていた? 見ているようには全く見えなかった。


 毎日彼は指名依頼を受け取り、依頼をこなしていった。家の修繕が1日で終わるなんて考えつかないが、どうやらスキルで直しているようです。スキルの代償が素材、推奨されているのが流木だそうで、街の人達は、毎朝早起きをして流木を探しに行っているということを、指名依頼をしに来たおばあさんから聞きました。おばあさんは足腰が弱く、小さな流木の欠片しか集められないが、小さいけれども誰もが捨てている流木の欠片をコツコツ拾いながら集めたそうです。足りない分は薪で補う予定の様と話していました。


 ちょうどその依頼を受けた時にアタルがやってきました。彼は依頼主をチラッと見た後に、今からこの依頼を受けると言い出したのです。


「材料が流木の欠片で、報酬もこの金額ですが確認しなくていいんですか?」


 とっさに私は聞いてしまった。だってずっと気になっていたのだ。あきらかに裏がある……いくらお金がない人からは多くもらわないといっても限度があるでしょう。


「欠片を集めたんですか? 素晴らしい発想ですね! 皆がやっていることの網目を搔い潜って利益を得る。優秀な方なのですね」


 彼はおばあさんの方を見てこう話した。おばあさんからしたら持てるものを持って帰っただけなのだから褒められても困るでしょう。


「報酬額はギルドと依頼主が相談して納得した金額なんですよね? それなら問題ありません」


「でも……安すぎないですか?」


「安いと思ったらギルドで上げてくださいよ。でも……毎日早朝に早起きして流木を探してくれたんですよね? お金がある人は人を雇えばいいし、お金がない人は自分の足で集める。特に生活に不自由している方が、朝の時間を効率が良くない流木採取に充ててるんですよ? 本来なら相応の報酬が必要になります。俺はその報酬を払うことができないので、自分の報酬から還元しているだけです。ギルドと依頼主が話し合って決めた金額で今のところ不満はないですよ」


 そう言って彼とおばあさんはギルドを出て行った。


 翌朝、昨日のおばあさんのことが気になり、私はおばあさんの家を確認しに行った。おばさんの家はギルドの寮のから近い。出勤前に依頼がしっかりされているのか確認しても問題ないでしょう。

 おばあさんの家は綺麗に修繕されていました。あの金額でこの出来栄えは破格でしょう、街の人々がこぞって流木を集めて依頼してくるのがわかりました。

 それと共に、彼は何のためにベイツの家を修繕して回っているのかわからなくなりました。このような腕があるのなら王都などで大きく稼ぐことが可能でしょう、なのにどうしてこんな最北端のベイツの街にこだわるのか……ただのお人好しならいいのですが。



 数日後、ルイーダ先輩が切れた。修繕の依頼が途切れることなく入り、私は依頼を受けるのには慣れてきたが、相変わらずアタルはルイーダ先輩の窓口に直行するので、冒険者を担当する業務の教育が彼のせいで全く進まないからだ。彼は私の窓口の方があきらかに空いているのに、ルイーダ先輩の窓口に並んでいたから……


「若い受付嬢の窓口に向かってください! これからはアタルさんの担当はエリーがします!」


 そう言ってルイーダ先輩は彼を強制的に私の窓口に向かわせた。

 不満そうに歩いてきた彼は小さな声で「アタルさんって呼んでね」って言ってた……もしかしてそんなことを気にして先輩の窓口に並んでいたの?


 ルイーダ先輩に聞いたのだけど、アタルさんが毎日ギルドに顔を出し、受付嬢と話すのは口説いているわけではなかったようです。依頼の確認の他に会話をすることで、自分でも気が付かない変化を受付嬢に気づいてもらえるのではないか? との期待から話しかけていたと聞きました。

 たしかに受付嬢は戦えないけど、冒険者を守らないといけない。無謀な依頼は受けさせないように促すのも業務の一環です。でも、まさか毎日の会話の変化で体調やメンタルの変化に気が付く可能性が有るなんて、今まで聞いたことがありません。しかし、ルイーダ先輩は絶賛していたので、思う所が今まであったのだと思います。



 ある日、ギルドにやせこけた少女がやってきました。

 少女は依頼掲示板をぼーっと眺めた後、私の元へやってきて「私ができるお仕事はありませんか?」と尋ねてきたのです。ベイツには危険な依頼はありません、ですが彼女ができる仕事もありません。次々入ってくる依頼は家の修繕で、彼女の仕事では間違いなくないのです。

 助けてあげたいけど、受付嬢が特定の冒険者に肩入れするわけにはいきません。1食くらい食事を共にする程度なら見逃してもらえそうですが、1食だけ食べさせてあげても問題は解決するとは思えません。


 そういえば、今日はまだアタルさんがギルドへ顔を出していないですね。もし、本当に彼がお人好しなら……人を使うのに自信があるというのが本当なら、彼女を仲間に引き入れるかもしれない。だって彼はまだソロの冒険者だから。


「すごく疲れた顔をしているわ……ギルドの入り口を自由に使っていいから、体を休めて行くことをお勧めするわ。あそこなら悪い人が近寄ってきても私が気が付くし、横になってても大丈夫よ」


 本当は食堂を勧めたいけど、自分から食堂に向かわないところを見るとお金もないのでしょう。はやくアタルさん来ないかな……いつもは別に来なくてもいいんだけど。いや、来なかったら体調不良を心配する、そこに気が付いて欲しくてアタルさんは毎日顔を出してるんだから。

 あ、毎日顔を出すだけで、顔を出さない日があればこうやって気が付くのか……冒険者の多い王都では効果はわからないけれど、ベイツのギルドには会った方法なのかもしれません。


 来た! アタルさんが来た。

 アタルさんは首をかしげながら窓口にやってきて、新しい依頼がないか確認してきました。どうして玄関の少女よりも依頼を気にするのですか! 私は玄関の少女が気になり、ついアタルさんに少女のことを聞いてしまったのです。本来なら関わらないほうが良いこと、受付嬢の仕事でもない。王都なら痩せた人間がたくさんいた、ベイツの街でそんな人を見たことがなかったから……つい口走ってしまったのかもしれない。


 アタルさんは食堂を使って良いか確認し、少女と一緒に食堂へ向かった。

 



「エリーさん、おはようございます! いい天気ですねぇ、新しい依頼は入ってますか?」


 気持ちいい朝、気持ちいい天気、そして気持ちいいほど元気なスピナさんの挨拶がベイツ冒険者ギルドに響く。

 スピナさんは毎日冒険者ギルドに来て、依頼の確認と元気な顔を見せてくれる。

 あんなに瘦せこけていたのに……日に日に良くなる顔色、健康的な身体に戻り快活になっていく様、は毎日見ていて嬉しいし安心します。スピナさんの挨拶と笑顔がないと朝が始まった気がしないほど、私は今、充実しています。


 私はベイツの街冒険者ギルド看板受付嬢エリー、この街の冒険者ギルドは最高の職場です。

第26話が最初のメンバー、スピナさんが仲間になります。

おじさんは管理職というタイトルなのに、仲間が26話まで出ないなんてどうかしてますよね!

26話までを、受付嬢エリーさんを通してダイジェストにて書いてみました。

気になった方は本編の方もよろしくお願いします。

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