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第15話 「ご注文は『異世界転生』に『悪役令嬢』ですね。 (最終回)

わたしはオレンジ髪に近寄っていく。

 オレンジ髪は後ずさる。

 だけど……何かおかしい。

 オレンジ髪は、わたしを見ていない。

 彼の目線は……わたしの頭より、少し上。

「や、やめろ、来るな……っ!」

 オレンジ髪は、両手をぶんぶん振り回し、何かを払っているような動きをした。

「来るな、イーディスっ!」

 叫び声をあげたかと思えば、いきなりわたしに背を向けて、走り出した。

 随行の者たちが、慌ててオレンジ髪を追いかける。

 イーディスって……まさか、オレンジ髪にはわたしの頭上にイーディスが見えていた?

 ははははは、まさか……ね。

 それじゃあ本当にホラーじゃない。

 とりあえず、アドウェール様にも確認してみる。

「あのオレンジ髪の王太子殿下、わたしではなくわたしの頭の上を見ていましたけれど」

「あ、ああ。そのようだったな……」

「なにか、見えていたのかしら? アドウェール様にも何か見えました? たとえば、黄色い髪のご令嬢とか」

「いや……、オレには何も見えなかったが」

「そうですか……。脅かしすぎたかな……? 幻覚でも見たかな……?」

「どうだろうか……」

 アドウェール様のお顔もどことなく引きつっている。

「まあ、本当に、本物のイーディスがいたのかもしれませんけど……」

 イーディスの体に、わたしの魂。

 じゃあ、イーディスの魂はどこに行った?

 婚約破棄を、あのオレンジ頭に言われたときに、イーディスの心が死んだ……と思っていたけれど。

 体から出て、この世界を彷徨っていただけ……だったのかしら? 

 もしも、本当に、あのオレンジ頭の王太子に、イーディスの魂が見えていて、イーディスが王太子に取り憑くとかなんとかするのだったら。

 ご注文は『異世界転生』に『悪役令嬢』ですね。ご一緒に『ざまぁ』はいかがですか? 

 なんていう転生の女神様の、実にかるーい感じの三点セットじゃあなくて、

『異世界転生』に『悪役令嬢』ですね。ご一緒に『ホラー』もいかかですか? 

 になってしまう。

 ちょっと怖いかな?

 んー、でも、死して憑りつくほどに、イーディスはあのオレンジ頭の王太子のことが好きだったのなら、今、イーディスは……幸せ、かなっ⁉

 それとも逆かな?

 恨み骨髄に達していて、それで、憑りついた?

 まあ、好きでも恨みでも、オレンジ髪に執着しているってことで、一緒にいられれば、それはそれでいいんじゃないかな? 

「いや、ホント。せっかく転生するんだから、しあわせ目指してね。あ、でも無理しないで、気楽にのんびりやってー」

 女神様もそう言っていたし。

 オレンジ髪を撃退してわたしは幸せ。

 イーディスも、恋か恨みかはわからないけれど、執着するほどの相手と一緒に居られてきっと幸せ……か、どうかはわからないけれど、満足はしてくれていると良いな。

 オレンジ髪を生かしたまま、憑りつき続けるもよし。

 死後の世界で、本当にオレンジ髪とイーディスでダンスを踊るもよし。

 イーディスの人生よ、思う存分楽しんで!

 あ、この言い方ちょっと女神様っぽかったかしら?

 とりあえず、予定外に早くカタが付いちゃったなあ……。

 ホントまだまだいろいろ仕込みをしていたのに。

 あ、そうだ。

「ロイとサラに、もういいよって言いに行かないと」

 ロイとサラは、まだまだ仕込み継続中なはず。外は寒いから、風邪ひかないといいんだけど……。

 ホント今日は大活躍してもらいました。ありがとう、サラ、ロイ。あとでちゃんとお礼言おう。

「そうだな……。王太子の様子は後で使用人にでも確認させよう。まずはサラとロイが仕込みをしている場所へ向かうか。あの様子なら、もう彼が我が国に、というかエミリに手を出すことは、今後ないだろうし」

「そうですね」

 オレンジ髪が、自国に帰って。その後真っ当に王太子ができるかどうかもわからないしね。隣国に来ること自体、無理になるかもしれないし。

 レナとかいうご令嬢との真実の愛を選んで、その真実の愛の相手が王太子妃として真っ当に政務もできず、礼儀作法も知らず。そんな彼女を娶ったオレンジ髪の評判が落ちて……、王太子の座を別の誰かに明け渡すかもしれないし。

 イーディスの魂に憑りつかれた、もしくは憑りつかれたという妄想によって、まっとうな生活も送れなくなるかもしれないしね。

 まあ、わたしがオレンジ髪に会うことは二度とないかな?

 仮に、今後また、何かいちゃもんをつけてきたとしても。

 また撃退すればいいだけの話だ。

 思わず悪い笑みを浮かべたら、アドウェール様が、わたしの帽子をわたしにかぶせてくれた。

 さっき扉を開けた時に、オレンジ髪の頭上から降ってきた髪の毛。

 あれ、本当にわたしの毛なの。

 ロイとサラに、扉に挟んでおいてもらったのよね。

 オレンジ髪たちが、扉を開けて会場の外に出て行くときに降ってくるようにって。

 やっぱり、本物のイーディスの髪の毛が降ってきた方が、ニセモノ感がないし、怖さが増すだろうって。

 だから、わたし、髪がすんごく短くなっちゃた。いいけどね。だけど、この国の習慣として、ご令嬢はやっぱり短い髪はいないってことで、わたし、長い髪のカツラを被っているの。それがカツラだと知られないように、わざと奇抜なというか魔女っぽいこの帽子をかぶっていたのです。

 オレンジ髪、わたしが髪を切ったところまでは正解していたのよね。だけど、髪を切って、その上からカツラをつけて、更には帽子までかぶったところまでは考え付かなかったみたいね。

 で、廊下も暗くしておいてもらったのは、扉に髪の毛が挟まっているのがばれないようにするためと、それから窓ね。

 少し離れた位置にある窓を一か所、ほんの少しだけ開けておいて、そして、ロイとサラには外に回ってもらって、タイミングを見計らって、長い棒で、外から窓を叩いて開けてもらうっていうのをしてもらったの。

 で、今頃はきっと二人は偽装の墓地のほうへと向かっているころだと思う。

 事前に、偽装のお墓の近くに、人が一人隠れるくらいの落とし穴を掘っておいたのよ。そこに、黄色の髪のカツラを被ったロイに隠れてもらって、上から木の葉とか被せておいて、見えなくしておく。オレンジ髪が通ったら、オレンジ髪の足をそこから掴んでもらう予定だった。

 まあいろいろホラー要素のある仕込みをしておいたのよね。

 でも、本物のホラー展開になるとは思ってもみなかったわ。

 あー、イーディスの魂が、オレンジ頭を追いかけて、取り憑いたのかどうかなんて、本当のところはわからないけれど。

「まあ、いろいろありましたけど、オレンジ頭は撃退したし、わたし、ちょっとだけとはいえ国王陛下にご挨拶もできたし」

 さすがにね、仮とはいえ婚約者。

 アドウェール様が国王陛下から放置状態だとは言え、アドウェール様のお父様にご挨拶程度はしないとダメじゃないのかしらって、ちょっと気になっていたものだから。

「それに白ダニ……じゃなかった。ダニエル殿下も魔導に興味津々だったから。成果は全てブランドン殿下に差し上げていますって言えば……」

「……ブランドン兄上の下に、つくかもしれないな……」

 うん、単純だからね。

 王位なんかよりも、魔導に興味を持っちゃったかもしれないね。

 半分とはいえ、兄弟なんだから、王位をめぐって敵対じゃなくて、円満にやってほしいな。

 あとはうまく側近やなんかを、こう……なんて言うのかな、変えていったらいいんじゃないかな。そりゃあ王妃様や王妃様のご実家のほうから、白ダニ殿下を次代の王にって画策するのはやめてくれないかもしれないけれど。

 それ以上に、ブランドン殿下が功績をあげちゃえば。

「では、ブランドン殿下の利になるような、何か面白い知識でも、そのうち大々的に披露しましょうか。それとも見た目で分かりやすい理科実験のほうがいいかな、魔導っぽくて」

 例えば……そうね、ブランドン殿下ご主催で、最大的にお茶会なんかを開いてもらって、白ダニ殿下もご招待。で、わざとらしく切ったばかりの白薔薇を手にわたしがお茶会の会場に行く。サラに花瓶を用意してもらって、その中には色水を入れておくのね。色水を吸った白薔薇は、お茶会が終わるころには、色がついている……なんていうのはどうかな?

 きっと白ダニ殿下はびっくりするよね。

 他の招待客も、驚くよね。

 まあ、そんなネタならいくらでも……というわけではないけど、浮かぶ。

 数学のネタとかも面白いよね。

 予備校の授業で、いろいろな面白い話を聞いたし。

 あ、別に面白くなくても、円周率とか、植木算とか、この世界に広めるのもいいかもね。役に立ちそう。

 そんなことをつらつら話しながら、アドウェール様と一緒にサラ達の元へと向かう。

「エミリは……本当にすごい知識を持っているんだな……」

 アドウェール様は感心してくださったけど、わたしが発見とか発明したものではなくて、転生前のあちらの世界での当たり前の知識だもの。円周率なんて、小学生でも知っているよね。

「そりゃあ、向こうの世界では、フツーに習うことですから。でも、知っているだけでは無意味でしょ。活用しないとね」

「活用……」

「そう、活用。何のために知識があるかって言うと、生活を便利にしたり……、幸せを目指したりするため……」

 あれ? 似たようなことをどこかで聞いた……。

 ああ、そうだ。

 転生前の、女神様だ。

「とある数学者は言った。『数学とは人生を幸せにするためのものである』と。大学に合格すればしあわせ。『悪役令嬢』が逆転『ざまぁ』をすればしあわせ。数学もしあわせを目指すもの。ほら、ぜーんぶ同類項」

 なんなのそのテキトウな理論っ! とその時は思ったけど。

 理不尽な困難や苦難を乗り越えて、明るい未来を目指す。

 自分のしあわせを目指して進んでいく。

 ……じゃあ、わたしはどんな幸せを目指そうか。

「『断罪』を乗り越えて、『ハッピーライフ』とか、善いことを推奨して、悪いことを懲らしめるとか。理不尽な相手に鉄槌をとか。復讐に燃えるのもいいと思う。あたしの好みはすっきりさっぱり爽快感のある『ざまぁ』だけど。でも、お客様のしあわせはお客様が決めていいよ」

 幸せは、わたしが決めていい。

 自由に。

 だったら……。

 わたしのしあわせは……。

 日は沈み、空には一番星が輝いている。

「アドウェール様。ほら、見てください。一番星です」

「ああ、もう夜か」

「暗い夜にでも、星は瞬く。そして、必ず朝が来る。ねえ、あの星が、願いを一つだけ叶えてくれると言ったら、アドウェール様は何を願いますか?」

 なんとなく聞いただけだったのに、アドウェール様は真剣に考えこんだ。

 そして、そっとわたしの手を取って、そして、その手の甲に、唇を落とした。

 わあ、心臓がドキッとなってしまったわっ!

「エミリ・イチノセ嬢。仮の婚約ではなくて、あなたと一生、共に歩みたい。そう、願う」

 真冬なのに、一瞬でわたしの体はかっと燃え上がるように熱くなった。

 一生、共に、歩みたい。

 嬉しいと、反射的に思ってしまったのはなぜなのか。

 ……ううん、なぜ、なんかじゃない。もう答えは出ているの。

 とっくに。もしかしたら、最初から。

「はい」

 だから、わたしは、素直に答えた。

 女神様に「お客様のしあわせはお客様が決めていいよ」と問われた時のように。


「ご注文は『異世界転生』に『悪役令嬢』ですね。ご一緒に『ざまぁ』はいかがですか?」


 それが、一番最初の女神様からの問いかけ。

 軽い感じで、まるでファーストフードの店員みたいな感じに言われたそれ。

 わたしは異世界転生をして、物語の悪役令嬢みたいに婚約破棄を告げられて、国外追放になった。

 だけど、

『ざまぁ』は、もう、いらない。

 ご一緒にいかがと問われるのなら、わたしは『アドウェール様との幸せな未来』を選ぶ。


 重々しくならずに、気負わずに。

 軽い感じで、だけど、気持ちだけは正直に。

 春の野原を、はだしで歩くような気軽さで、わたしは未来へ踏み出そう。


「はい、アドウェール様」


 どんな困難だって、乗り越えて、そうして一緒に幸せになりましょう。





 ‐ 終わり ‐







お読みいただきまして、ありがとうございました☆


[日間] 異世界〔恋愛〕ランキング - 完結済 

2024年6月21日 29位 ありがとうございます☆

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