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第13話 白ダニ殿下はチョロかった

本日11話・12話・13話・14話と一気に掲載しております。

「こ、こんなもの、嘘だっ! 皆、だまされているんだっ!」

 オレンジ髪の王太子が、叫ぶ。

 ……ふーん、まだ頑張るかぁ。

「魔導だと、証明してあげたでしょう? ねえ、第二王子殿下。その身に魔導の力を浴びてみて、いかがでしたか?」

「いや、すごかったっ! この世にあのような魔導の力が本当にあるとは思わなかったっ! こう……なんというのか……。何も見えないのに、顔に何かが触れた感触があるっ! ふわっとというか、ぶわっとというか……、不思議な力が……。聞きたいのだが、その道具があれば、俺にも魔導とやらが使えるのか⁉」

うわあ、大興奮。

「この辺りは魔導元素が少ないので、わたしでも魔道具がないと、魔導の力を使うのは厳しいんですよ。それに、第二王子殿下のように、この近隣の国の人間では、魔導力を使えないでしょうね……」

 わたしはわざとらしく、くるくると、新聞紙製の空気砲をまわしてみる。

「おっと……」

 落としかけたふりをして、箱の穴が開いている部分を上にして、ビロードの布をかけなおす。つまり、布で穴をふさぐ感じね。

「まあ、でも、せっかくのお誕生日ですので。第二王子殿下、試しに、この魔道具、使ってみます?」

「お、おおっ! いいのか⁉」

 目がキラッと輝いた。

「今日は殿下のお誕生日ですもの」

 言いつつ、サラとロイに目配せをする。

「どうぞ手に取って、試してみてください」

 恐る恐る、手を伸ばす白ダニ殿下。

 会場の皆の注目が白ダニ殿下に向けられているうちに、サラとロイがさりげなく壁際に移動。そうして、そっと会場から退出する。

 ……頼むね、サラ、ロイ。

「あ、ちょっと待ってください。うまくいくように、わたしの魔導の力をここにかけ直しますね」

 ビロードの布の上から、空気砲を撫でて。そうしてから、恭しく、白ダニ殿下に空気砲を渡す。開けられた穴が、正面ではなく、打ち付けたとき、掌にあたる場所に、位置を変えた。

 手品のやりかた、みたいなものよね。仕掛けがバレないように、お客さんたちの視線を別のものに移しておいて、仕込む。

 会場の招待客だけではなく、使用人……メイドさんたちや護衛の人たちも、興味深そうに、壁際からわたしのほうを眺めている。出て行くサラとロイになんて、意識もしない。

 白ダニ殿下は新聞紙製の段ボールを受け取った。

「い、意外に軽いのだな……」

「はい。重さはあまりありません。詰まっているのは魔導の力、ですので」

 嘘です。紙と空気です。

「そ、そうか……」

 そして、わたしの真似をして、ポンと箱を叩くけど、何も起きない。

「なかなか難しいんですよ、魔導の発動やのコントロールっていうのは」

 諦めがたいらしく、白ダニ殿下は二度三度と、空気砲を叩くけれど、空気は出ない。

 がっかりと、肩を落とす。

「本当だ……。俺には魔導の才能がないのか……」

「いえ、このあたりの人たちでは、誰でも無理でしょう。だって、生まれたときから魔導の元素に触れていませんから。日本であれば、赤子のときから、元素を吸って吐いて、体の中に自然と溜めていますから、魔導も使えるんですよ」

もちろんこれも嘘だけどね。段ボール空気砲は穴の向きを間違えなければ、失敗することは少ないのよ。わざとそれをずらしたうえに、布でふさいでいるから、空気が出ないだけです。

「そうか……」

 残念そうな顔の白ダニ殿下から、箱を返してもらう。

 単純だな、白ダニ……。わたしの嘘、信じているよ。

 ホント、左右されやすい人だ……。さっきまでは、オレンジ髪サイドに立って、わたしを犯罪者扱いで、睨んでいたのに。

 おかげでわたしの描いたシナリオ通りに話が進んでいるわ。

 まあ、わたしがすごいんではなく、ブランドン殿下の見立てがすごいんだけどね。

 今日のこのシナリオを作るにあたって、ブランドン殿下が、これこれこういう話の持っていき方をすれば、こいつの性格ならこう動くだろうっていう予測、全部してくれたからね。

 ほんと、ブランドン殿下が味方で良かった……。

と、感心している場合じゃないわね。わたしはオレンジ髪を睨む。

「で、誰でしたっけ? イーディスなんとかって人? その人、わたしみたいに魔導が使えたの? もしも使えているんなら、間違われても仕方がないけれど。このあたりの近隣諸国では魔導を使える人間なんていないでしょうし。で? そこのオレンジ髪の人、わたしをそのイーディスなんとかって人と間違えたっていうのなら、わたしを詐欺師扱いしたこと、謝罪しなさいよ。間違ったら、謝る。これ、人間として当たり前よね」

白ダニ殿下もわたしの言葉に同意して、そうだとばかりに頷いている。

「ぐ……」

 悔し気に、奥歯なんかを噛みしめているオレンジ頭。

「だいたいねぇ、わたしが作った『計算具』も、このあたりの近隣諸国にはない知識でしょうに。計算方法、この国と日本国でも十進法っていうのは同じでも、解き方も違うし。イーディスなんとか嬢とわたし、顔が似ているだけの他人に、よくもまあ、我が国から国外追放になった犯罪者だとなんだの言えるわねえ。わたし、あなたの国も、あなたのことも、知らないわよ」

「うう……」

 このあたりでオレンジ頭に引いてもらえれば、それでもよかったんだけどね。

「だがっ! そこまで似ている人間がいるものかっ! お前の顔はイーディスと同じだっ!」

 まあ、体はね。でも中身は違うのよ。

「うちの国には、世の中には三人、似ている人がいるっていう言葉もあるのよ。似ているくらい、不思議じゃあないわ」

 似てる、同一人物だ、似ているだけの他人だという、不毛の言い争いを繰り返した後。

 アドウェール様が、すっと前に出た。

 はい、作戦第二弾の始まりです。アドウェール様、お願いします!

「グウィリム・モルダー・ラングトリー王太子殿下。少々尋ねたいのだが……」

「なんだっ!」

「確認したいのだが、貴殿の元婚約者であったイーディス・エミリィ・トラウトン侯爵令嬢……。彼女に関して、春ごろに我が国に貴殿の国から通達があったな」

 そうして、アドウェール様がポケットから取り出したのは、封書に入れられていた一枚の書状。手紙の封に用いられる封蝋には印璽が捺されており、ラングトリー王国の王族からの書状だとわかる。

「ラングトリー王国からのこの書状に書かれていることを、まず述べさせてもらおう。……イーディス・エミリィ・トラウトン侯爵令嬢は平民の罪人として、隣国フィングルトン王国へと追放される。煮るなりなくなり、我が国の法に従って処分してかまわない……とのことだった。故に、既に貴国とは無関係なはず」

「そ……うだが、その女はフィングルトン王国に迷惑をかけている罪人だ。引き取りに来て何が悪い」

「エミリはイーディス・エミリィ・トラウトン侯爵令嬢とは別人だ。迷惑どころか貢献しかしていない。無関係の、しかも、我が国に対してその有能さをいかんなく発揮してくれている才人にして、しかも、オレの婚約者を、あなたに引き渡す道理はない。難癖をつけて、オレの婚約者を……王族の婚約者を連れて行こうとするとは……」

「だ、だからっ! その女は偽名を使い、フィングルトン王国をだましているんだと教えてやっているだろうっ!」

 アドウェール様は笑った。

「騙されてなどいない。エミリはオレの愛しい女だ。既に死んでいるイーディス・エミリィ・トラウトン侯爵令嬢とは別人だ」

 死んでいる。

 アドウェール様の言葉に会場中が静まり返った。

「我がフィングルトン王国とラングトリー王国の間には川幅のかなり広い川が流れている。イーディス・エミリィ・トラウトン侯爵令嬢が国外追放となった春ごろではまだ川の水は冷たい。橋はかかっているが、そこには破落戸と思しき者たちがたむろしていて、橋を渡る者たちから通行料という名目で、金品を巻き上げている。国外追放になった侯爵令嬢は困っただろう。金など持っていないし、国境までついてきた護送の兵たちは、侯爵令嬢がラングトリー王国に戻ろうとしても、戻れば切り捨てるという。仕方なく、侯爵令嬢は歩いて川を渡ろうとする……が、川底に足など付かないほどに、そこは深い。泳ぐ? グウィリム・モルダー・ラングトリー王太子殿下。あなたにお尋ねしたい」

「な、なんだっ!」

「あなたの国の貴族のご令嬢は、泳ぎができるのか?」

「はあ? 泳げるわけないだろうっ!」

 足を見せるのも恥ずかしがるようなご令嬢が、人前で泳ぎの練習なんて、できないわよね。

 アドウェール様も、当然のように頷いた。

「では、イーディス・エミリィ・トラウトン侯爵令嬢はどうなのか? 国境の川を、泳いで渡れるのかな?」

 オレンジ髪の王太子は答えられない。

「あなたが答えないのなら、ご同行の紳士の方々にも聞いてみよう。公爵令嬢が、川を泳いで渡れるのか否か」

 ふさふさ髪たちも、口を閉ざしたまま。

「侯爵令嬢を、我が国に送るというこの通達を受け、オレは急ぎ、国境の橋まで向かった。そして、たどり着いたときにはもう遅かった。黄色の髪をしたご令嬢は……すでに溺れ死んでいた」

 アドウェール様の言葉を引きついで、ブランドン殿下が付け加えた。

「まあ。当然の結果だな。国境の川など、ご令嬢どころか、我が国の兵士でも泳いで渡れるはずはない」

 「ご令嬢に泳げるというのなら、グウィリム・モルダー・ラングトリー王太子殿下。あなたも川を泳いで帰国してみたらどうか? あなたが泳いで渡れないような川を、どうしてか弱い令嬢が、無事に泳いで渡ることができるのだろうか」

「く……っ!」

 ギリギリと、奥歯を噛みしめる音が、ここまで聞こえてきた。

「エミリ・イチノセは、イーディス・エミリィ・トラウトン侯爵令嬢ではない。確かに顔は似ているかもしれない。だが、エミリの持っている知識は、我が国及び近隣諸国にはないものだ。更に、今、皆の前で披露した魔導。それらもイーディス・エミリィ・トラウトン侯爵令嬢には当然ないものだ。それともイーディス・エミリィ・トラウトン侯爵令嬢は、貴国でも魔導士として名を馳せていたのか?」

「う……」

「グウィリム・モルダー・ラングトリー王太子殿下。言いがかりをつけて、無関係な他人、しかも我が国において有能な人物であり、かつ王族の婚約者である女性を連れて行くという恥知らずな真似はお止めいただきたい。……さて、国王陛下」

アドウェール様は、父親である国王陛下へ向けて、一礼をする。

「『エミリ・イチノセの計算具』そして、今の『魔導』。エミリ・イチノセは、オレの婚約者として、今後も我が国に様々な貢献をしてくれることでしょう。ただ、オレは、既に王位継承権を放棄している。離宮には住まわせていただいているが、王政には関与していない。だから、エミリの今後の発明や何やらは、ブランドン第一王子殿下を通じて、献上させていただきたい。それでよろしいか?」

陛下は一言だけ「ああ」と答えた。もうちょっとこう……なんか言えば? 思うけど、まあいっか。

「ブランドン兄上も、それでよろしいか?」

「ああ。アドウェールとエミリ嬢。二人で私を支えてくれるというのなら、ありがたい」

わたしは、アドウェール様と一緒に、陛下や王妃様ブレンドン殿下に向かって一礼をする。

それから、アドウェール様と一緒にオレンジ髪に向きなおる。

「さて、隣国の王子よ。オレの婚約者にして、我が国の多大なる利益をもたらすであろう魔導士、エミリ。そのエミリに対し、言いがかりをつけ、貴国に連れて行こうとするとは……我が国に対する敵対行為であるとみなす。ラングトリー王国の国王陛下に対して、我が国から正式に抗議させていたくが、その程度のことは覚悟の上だな?」

 わたしがエミリ・イチノセであってイーディス・エミリィ・トラウトン侯爵令嬢ではないよと納得してもらおう作戦。

 嘘だけど、わたしがこの世界にはない魔導を使える人間であるということ。イーディスは使えないから別人だよ。

 それから、イーディスは川を泳げないのだから、死んでますよ。だから、わたしとは別人ですよ。

 更に、わたしは隣国の罪人ではなくて、この国の王族の婚約者ですよって。国王陛下も認めているよ。だから、わたしは第三王子の単なる愛人なんかじゃなくて、正式な王族の一員扱いですよってね。

 ということで、オレンジ髪の愚行は、そっちの国王にも告げ口しちゃうよって、そういうことを言った。

 このあたりで納得して引き下がってくれればよかったんだけどね……。

 国と国は隣接しているから、今後もラングトリー王国とはお付き合いをしていかないといけない。まあ、このオレンジ髪が次代の王である必要はないんだけどさ。だけど、ブランドン殿下の治世に向けて、隣国と戦争状態なんて引き起こせない。戦争、ぜったい、ダメ。

 だから、このあたりで、オレンジ髪には引いてほしかった。

 でも、オレンジ髪の顔を見ると……、まだもう一発、何か必要かなあ……。

 仕方ない。

 あれをやるか……。

「わたしがイーディスなんとかという令嬢ではない。それが納得できないのであれば、彼女のお墓でも暴きますか? 見たら、彼女がもう死んでいること、納得できます?」

「え……」

 墓を暴くとの言葉に、さすがのオレンジ髪も戸惑ったらしい。

「ああ。川で溺れて亡くなったご令嬢は、我が国の墓地にきちんと埋葬をしている。せっかくのダニエルの誕生パーティだというのに、祝うこともせずに、理の通らないことを主張ばかりしているラングトリー王国の王太子及び随行の皆には、墓場に案内させていただこう」

 アドウェール様がブランドン殿下の方を振り向く。

「ブランドン兄上、それからダニエル兄上。パーティのほうは予定通り続けてください。オレとエミリはラングトリー王国の皆さんを、墓地へとご案内しますから。陛下や王妃殿下、オレとエミリは失礼させていただきます」




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