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第11話 段ボール箱

本日11話・12話・13話・14話一気に掲載しております。

欲しいもの、段ボール。

 正確に言うと、段ボール箱。

 いや冗談とかじゃなくて。わたしにはそれが必要なの。

 日本だったら、スーパーとかに行けば、ご自由にお使いくださいなんて積み重ねてあるようなそれが、今わたしの欲しいもの。

「そ、その……、エミリ?『段ボール』とは一体何なのだ?」

「えーと、厚い紙ですね。平らな紙と波状の紙が接着剤で貼り合わされて、一つの構造体となっているもので……。荷物の梱包などに使うんですけど」

 うーん、やっぱりないかな? 

 段ボールってたしか、十九世紀のイギリスで、シルクハットの内側の汗を吸い取るものとして開発されたんだよね……。この世界……わたしの元居た世界に比べるとどうなんだろう? 一概に何世紀ごろだから、なになにがあります、これはないですなんては言えないだろうけど。少なくとも数学的な発展レベルからすると、フィングルトン王国って、十七世紀とかそのあたりの文明? さすがに段ボールはないかな……。でも、新聞はあるし……。書籍だってある。だったら、段ボールもあるかな……。どうかな……って思ったんだけど。

 うーん、アドウェール様の頭の上にもブランドン殿下の頭の上にも、ハテナマークが浮かんでいる……。

 とりあえず、段ボールという単語は、ない、らしい。

 類似の物なら、あったりしないかな……。

「ええと、紙、なんだよな? ノートや新聞の紙などではいけないのか?」

 戸惑いながらも、アドウェール様がいろいろと考えてくれている。

「まあ、紙なんですけどね。ひらひらぺらぺらじゃなくて、もっと強いというかなんというか……」

「つ、強い、紙?」

 あ、戦って勝つみたいな強いじゃなくて、強度があるって意味ですが。

「紙に強いなどという形容をつけるなど初めて聞いたぞ……」

 あ、やっぱりないのかな……。うーん、どうしよう。

「紙が必要と言いますか、その、段ボールの紙でできている箱が必要なんですよね」

「は、箱?」

「はい。二リットルのペットボトルのお水が六本入っているくらいの大きさの段ボール箱でいいんですけど……。あ、もうちょっと大きい方がいいかな……。大きいと威力が増すし……」

「す、すまん。エミリが何を言っているのか、まったくわからん……」

 更に訳が分からなくなった……とばかりに、二人ともが、眉根を寄せていた。あら、そんな表情をすると兄弟そっくりね、なんて、わたしは思ってしまった。


 とにかく、段ボール。

 それが欲しい。

 ないなら作るしかないということで、わたしは東の離宮に戻ってから段ボール制作を始めた。

 サラやみんなが手伝ってくれて、あーでもないこーでもないと頭をひねった。

 で、研究の間、やっぱり、ラングトリー王国のほうからごちゃごちゃ言ってきたけど、それはブランドン殿下がのらりくらりとごまかしてくれていた。

 なのに、あの阿呆がっ!

 白髪頭のダニエル第二王子の野郎がっ!

「親交のあるラングトリー王国の王太子であるグウィリム・モルダー・ラングトリー殿下やその婚約者たちを、俺の誕生パーティに招待した」

 とかなんとか言いやがったのよっ!

 はあ? ほんと空気読めないなあの男っ! いや、ブランドン殿下の弟で、アドウェール様の兄にあたるんだけど、あの第二王子っ!

 わたしのことをアドウェール様の愛人扱いしたり、拒否っているラングトリー王国の人間をフィングルトン王国に招待したり。

 あああああ、もうっ!

 なにやってんのあいつっ!

 段ボール制作がなかなかうまくいかないのを八つ当たりではないけど。

 ダニエル・A・フィングルトン第二王子っ! 

 お前などもう白ダニ殿下と呼んでやるっ!

 せっかくブランドン殿下が、わたしを国外に出さないようにって頑張ってくださっていたというのに、あいつらをこの国に呼び寄せやがってっ!

「とりあえず、第二王子殿下の誕生パーティっていつですかっ!」

 制作の見通しが付かないうちに締め切り……だったらどうしよう。

 わたしは焦った。

「ああ、二か月ほど先だ」

「二か月……ってことは、真冬? そんなときに、わざわざ隣国からやってきます?」

 ラングトリー王国の王都から国境までだって五日くらいはかかったわよ。

 王族乗せて走る馬車だったらもっと時間をかけるだろうけど。

「普通なら、いくら隣国の王子の誕生パーティだろうと来るはずはないが。今回は、誕生パーティに来るというのを理由にして、エミリをラングトリー王国に連れていくためというのが目的だろうから……なにがなんでもやってくるだろうな」

 来る途中で風邪でも引いて、熱でも出せばいいのにっ!

 呪いでもかけてやろうかしら……なんて。できないけどね!

 ああ、あと二か月で、なんとかなるのかしら……。

 だけど、人間追いつめられると、火事場の馬鹿力的パワーを生むのかもしれない。

 平らな紙のほうは、新聞紙を重ねて、接着剤で張り合わせればオーケーだった。

 問題は波状の紙が上手く作れないってことだったのよね。

 ガッチガチの硬い紙では、できないこともないけどやっぱり、うまくいかないかもしれないって思っていて。なんとか波状の紙を作りたかった。

 で、無理だった。

 圧縮されてプレス、みたいになってしまっていたの。

 で、発想を転換というか、別の方法を思いついた。

 波状の紙を作るのではなくて、新聞紙を細いストロー状にしたものを大量に作って、それを、広げた新聞紙の上に横一列に並べて。それを接着剤で貼って、さらに上からもう数枚、広げた新聞紙を乗せて、張り付ける。

 強度的に、段ボールと似ている。

「うわあっ! できたっ! 段ボールっぽい紙っ!」

 飛んで跳ねて、喜んだ。

「よくわかりませんが、できて良かったですね……」と、サラに言われたけど。これで完成ではないの。

 箱を、作るのだ。

 折ったり切ったり張ったり。そして、箱型に成型した後、更に新聞紙を張って、空気の漏れをなくすようにする。お水のペットボトルが入っている段ボール箱、というよりも、両手で抱えるほどの、大きなサイコロ……立方体みたいになってしまったけど、まあいいか。

 できたその立方体の一つの面だけを、丸い形にくり抜く。

「これで完成っ! できたあああああああっ!」

 喜んでいるのはわたしだけで、作るのを手伝ってくれたサラやロイたち、それから、アドウェール様も「これが、なに?」みたいな顔をして、立方体の箱を眺めている。

「で、これはなんだ? なにかを入れるなら木箱とかでもよかったのではないか……?」

「木箱だと、叩けないんですよ」

「叩く……」

「百聞は一見に如かず。まあ、見ててください。えーと、ロイ、わたしからまっすぐ……そうね、十歩ぐらい離れた位置にまっすぐ立ってくれる?」

「はいっす。……ええと、この辺でいいですか?」

「うん、じゃあ、驚かないでね」

 わたしは段ボールの箱の、一か所だけ丸くくり抜いた面を、ロイの顔あたりに向ける。

「エミリちゃんの一大魔術っ! はいっ!」

 思い切り、箱の後ろを叩く。

ボンッと大きな音がして、待つこと1、2、3。

 すると……。

「え、えええええええっ! な、なんですかこれはっ!」

 ロイがびっくりしてのけ反った。

 ……うーん、そこまでの強さじゃないと思うんだけど、派手なリアクションをありがとうロイ。

「な、なんか、顔に当たりましたっ! 当たりましたよなんだこれっ! なにも見えないのに、何かの塊みたいなのが、僕の顔にぶわってっ!」

ロイの顔が驚きで青くなっている。アドウェール様も驚愕の表情だ。

「びっくりした?」

「お、驚いたなんてもんじゃないですよ。なにをしたんですかエミリ様。まさか本当に魔術……」

「これ、『空気砲』っていうの」

 はい、テレビの、小学生向け理科実験番組なんかでおなじみの、段ボール空気砲です。

 科学館とかのイベントでも、よくやっているよね。

 段ボールとガムテープさえあれば、すぐにできる。

 あれをね、作りたかったの、わたし。

 だって、ちょっと魔術っぽいでしょ?

「魔術じゃなくて、科学? 理科実験工作かなあ……」

 魔術も科学も、この世界ではきっと区別なんてつかないよね。

 そもそも科学って言葉自体、ないかもしれないし。

「わたしは日本の魔術師、エミリ・イチノセ……なーんてね。嘘よ。でも、イーディス・エミリィ・トラウトンは魔術なんて使えない。もちろんラングトリー王国にもフィングルトン王国にも、魔術を使える人なんていない。魔術なんて、物語の中だけのものでしょう。だけど、わたしには使えるとしたら……?」

まあ、似非魔術だけどね。それっぽければいいのよ。

「エミリの価値が上がるだけだが……」

「そうね。だけど、わたしがイーディス・エミリィ・トラウトンではないという証明の一端にはなるでしょう? わたしはイーディスじゃない。似ているだけの、別人。だから、ラングトリー王国に行かなくてはならない理由なんかない。それに……」

 ……上手くいくかな。

 正直、この程度では別人の証明として弱いかもしれない。

 だけど……。

 なんとかうまくいきますように。

 願い、それから、いろいろと実験を重ねて。

 わたしは、第二王子の誕生日、ラングトリー王国の王太子たちがやってくる日を待った。






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