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冬の童話祭2024

ヤムイモの復讐~ティッキ・ピッキ・ブン・ブンとヤムたちは迫る

作者: 六福亭(さみ)

ほのぼのしたお話です。


 トラは、夢を見ていました。


 それは、ぶった切られたヤムイモが、トラにも同じことをしてやろうと追いかけてくる夢でした。


 一本足のヤム、二本足のヤム、三本足のヤム、四本足のヤム。みんな勢揃いして、足音を響かせながらトラに迫るのでした。


「やめてくれー!」

 そう大声で叫んだところで、トラは目を覚ましました。周りにヤムイモたちはいません。自分が安全なねぐらにいることにほっとして、トラはため息をつきました。


「どうしたんだい、トラどん」

 友だちのサルが、トラの悲鳴を聞きつけてやってきました。

「ああ、サルの奴か。実はな、怖い夢を見たんだ。あの忌々しいヤムイモが、襲いかかってくる夢さ。ぞっとするよ」

 トラは、身震いしてみせました。

「何だね、トラどんともあろうものが、イモなんかを怖がっているのかい」

「それが、ほんとうに恐ろしい連中なんだよ。アナンシの畑で採れたイモなんだが、ぶったぎってやったら追いかけてきたのさ。あの時はヤギどんのおかげで助かったが……」

 すると、サルはからからと笑いました。

「もしもおれのところにヤムイモがやってきたら、まとめて焼いて食ってやるさ」

 そう言って、自分のねぐらに帰っていくのでした。


 次の日の夜中、サルは騒々しい物音で目を覚ましました。なにやら、沢山の足音と声がきこえてくるようです。

 ねぐらから出ると、数え切れないほどのヤムイモが、群れを成してまっすぐこっちに向かってくるのが見えました。

 ヤムイモたちがたてる物音は、ちょうどこんな風に聞こえました。


 ティッキ・ピッキ・ブン・ブン! ティッキ・ピッキ・ブン・ブン!


 サルは悲鳴を上げてねぐらを飛び出し、一目散に駆け出しました。ヤムイモは、サルを追いかけました。サルは、飛ぶように逃げました。ヤムイモも、飛ぶように追いかけました。

 サルは逃げて逃げて、眠っていたトラの元へたどり着きました。トラを無理に起こし、サルはさけびました。

「トラどん! たいへんだ! ヤムイモが追いかけてくる!」

 トラは飛び上がり、ヤムイモが、近づいてくるのをみとめると、サルよりも速く逃げ出しました。サルも、その後をあわてて追いかけました。ヤムイモも、変わらずぴったりとついてきます。紛れもなく、あの時のヤムイモたちに違いありません。



 トラは、目に入った背が高いバナナの木に無我夢中でよじ登りました。サルも、するするとトラより上手に昇っていきました。

「ああ、恐ろしかった。だが、ヤムたちは、木の上までは追ってこれまい」

 トラはぶるぶる震えながら言いました。ですが、サルは下を指差しました。

「見てくれ! ヤムが、はしごを作っている!」

 その通り、ヤムイモたちは、順番に積み上がってヤムばしごを作っているのでした。

「だめだ! すぐに、追いつかれちまう!」

 あまりの恐怖に、トラは、木から転げ落ちてしまいました。ヤムたちが、すかさず襲いかかります。顔のないイモが、トラをぶったぎろうと猛り狂っていました。トラは、何度も叫び声を上げました。……


「トラどん! トラどん! 何してるんだ、声を出さないどくれ!」

 サルに揺り起こされ、トラどんははっと気がつきました。二頭は、ふかふかのわら塚の中に隠れていたのでした。

 トラは、わら塚に隠れている間に、恐ろしさのあまり気を失ってしまったのでした。塚から顔を出すと、ヤムたちが集まってくるのが見えました。

 サルが、トラに怒りました。

「せっかく隠れていたのに、トラどんのせいで台無しだ! もうつきあいきれないよ」

「待ってくれ!」

 トラは必死で引き留めましたが、サルはさっと抜け出して、逃げていってしまいました。

 

 さあ、ヤムイモたちの前に取り残されたのは、トラだけです。


 ティッキ・ピッキ・ブン・ブン! ティッキ・ピッキ・ブン・ブン! 


 ヤムたちは、あの時の復讐を果たさんと、だんだん近づいてきます。トラはもう、おかしくなってしまいそうでした。とうとう、わめきながらヤムイモの群れに飛び込んで転がり回りました。


 その時、サルの声がきこえました。

「トラどん! しゃがむんだ!」


 トラは、それを聞くなりその場にさっとしゃがみました。そこへヤムイモたちが、いっせいに飛びかかりました。そこで待ち構えていたサルが、抱えていた網をヤムイモの群れに投げかけ、すっかりからめとってしまいました。


 サルは、逃げたと思いきや、アナンシが夜のうちにせっせと張った蜘蛛の巣を巻き取って、戻ってきてくれたのでした。


「どうするんだい、トラどん。またこのヤムイモを食うのかい?」

 蜘蛛の巣の中ですっかり動かなくなったたくさんのヤムイモを見下ろして、サルが聞きました。

「とんでもない。ヤムイモなんか、もう見るのもごめんだ。お前にそっくりやるさ」

 そう言われたサルも、そのヤムイモを食べる気にはどうしてもならなかったので、近所に住んでいた「五」という名前の魔女に売りつけました。そしてそのお金で、トラとうまいものをたらふく食べたのでした。


 おしまい。


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― 新着の感想 ―
[一言] 美味しいお芋さん。 まさか芋に追われるなんて。 最後のオチが面白かったです!
2024/01/02 18:22 退会済み
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