第二話 この力、誰のために?なんのために?
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この小説は、こちらの作品の第四話から第六話をまとめたものです。
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少女の手には、黒い槍が握られている。
数秒前、彼女はあんなモノ絶対に持っていなかった。
「やばっ」
あれが何なのかはわからない。
だが、本能が、私の本能がが訴えかけている。
殺されるっ!
私は、柵にかけていた片足を下ろし、少女がいない方の岸に向かって全力で疾走する。
少女の標的は、確実に私。あんなのに刺されたらひとたまりもないだろう。
――あれ?私は、ここに死にに来たんじゃ?
「あれれ?逃げちゃったかぁ。まぁいいや!」
「どうせ、この能力には敵わないしね」
「はぁ、はぁっ」
キツい、肩で呼吸をするのがやっとだ。
随分と走った。
ここは森の中。そう簡単に見つかることは無いだろう。
あいつは一体何なんだ?
取り敢えず少し休んだら、そのまま家に――
「あぐっ!?あっあぁ」
私の視界に、数十センチの黒いとんがりが突如として生えた。
ほとばしる痛みに耐え、ゆっくりと後ろを振り向く。
そこに立っていたのは、恍惚の顔を浮かべる、さっきの少女だった。
いたい、痛い、イタイ、痛いっ!
あぁっ!あぁっ!死ぬ。死ぬのか?こんなことでっ!?
グググッ
少女は、モモから槍を引き抜く。
「ギャゃゃアッアッあ!」
「ざんねーん。油断大敵ってやつ〜?」
「大丈夫だよ〜。普通の人だったら死んじゃうけどね、アナタは死なないよ!だから、そんなに痛がらなくてもいいって」
「すぐにアナタも、あたし達の仲間になるんだからっ、さ。てゆーかアナタ近くで見るとやっぱカワイイねぇ。タイプだよタイプ」
少女は、何かブツブツ言ってるけど、もう何を言っているかは分からない。
槍が刺さっていたところからは、絶えず血液が流れ続けている。
ダメだ、もう視界にもモヤがかかり始めた。
嫌だ。こんなことで、こんなところで死にたくないッ。
「生ぎっ、たいッ」
明らかな矛盾。
さっきまで死ぬほど望んでいた「死」が急速に迫ってきているというのに、私は「死」を拒否している。
分かった。なぜこんな簡単なことが分からなかったのだろう。
私は、死後の世界に縋り付くフリをして、ただ辛い現実から逃げようとしているだけだった。
こんなことで…自分で死んだり、他人に殺されたり。そんな死に方で死ぬのを、シオンちゃんは許してくれだろうか?
違うだろう!違うだろう!そんな死に方、シオンちゃんが許すハズがない!
そんな死に方してみろ!シオンちゃんが悲しむだろう?
「シオンちゃんを悲しませたくないッ」
生きる意味なんてそれだけで充分だ。
「私はッ!生きるッ」
死にかけの体のはずなのに、体の奥の奥の方から力が湧き出る。
「おっ!起きた!」
胸に手を当てる。
さっきまで胸開いていた穴は、気味が悪いほど綺麗に塞がっている。
さっきまでよく見えていなかったけど、コイツ顔すんげーカワイイな。髪の毛は、赤と黄色が混じっていて、カチューシャ?もしている。
しかもこの服。着物みたいな、なんかよく分からない服を着ている。これでよく動けるな…
でも――
タイプじゃあねぇな。
「じゃあ〜!目覚めのキッスを…」
「死ね」
「は?」
モモ拳から放たれた強烈な打撃が、少女の整った顔を歪めたのは、そこからたった0.1秒後のことであった。
「グフォエっ」
決まったッ。これ以上ないクリーンヒット!
憎い顔に、渾身の一発をぶち込んでやった。
少女の身体は、その勢いで宙を舞い、木にあたってそのまま地面に落ちてきた。
「ゲホッ。なんで?なんでっ?私、さっき完璧に刺したよね!?槍!なんで攻撃してくるわけ!?」
「しらねぇよ。いや、ごめん。知ってるわ。お前にはわからねぇだろうがなぁ!」
死に際に見たあの力。多分コイツが使ってるのと同じ力だ。なら!
落ち着け、冷静になるんだ。神経を自分の内側、魂に秘める力に全てを集中させろ!
掴まえろ!魂を、力を!
――掴まえた!いけるっ!
捉えた力を、魂から身体に流し、それを左手の中に集める。
できた。私の能力の能力の結晶。
紅く輝くそれが握られた拳を私は、前に突き出す。
「『解放』」
言葉を発した瞬間握られた結晶は、より輝きを増し、その輝きは、私を包む。
あぁ。私の魂からどんどんと力が解放されていくのを感じる。
結晶が力を使い果たして消滅するのと同時に、私の『解放』も完了する。
さっきまで着ていた服はどこかへ消え、アイツが着ているような着物っぽい服へと変化する。毛量もちょっと増えたような。
まぁ、そんなことはどうでもいい。今は…
「さぁ、これでパワーは同じだな」
目の前にいる奴をぶっ飛ばすだけだ!
ありえない!おかしい!
だってアタシ刺したじゃん!ブスって。なんで攻撃してくるわけ!?しかも『解放』まだしてるし!
さっき刺した槍――醒操鬼槍には、2つの効果ある。
一つ目は、眠っている能力を目覚めせる。
二つ目は、魂に鬼の能力を刻み、その能力で、新たな仲間を増やすように、精神と思考をコントロールする。
通常、仲間になればお互い攻撃をすることはできなくなる。
だけど…この娘は、攻撃をしてきた。
この娘の場合、一つ目の能力だけが発動している。一体なぜ?
「はぁ…しょうがないな、残念だけど」
だが、効かないものはしょうがない。ここまできたら、仲間にするのは諦めて今後の障害にならないよう始末する他ない。
タイプの子を手にかけるのは正直嫌だが、鬼の精神操作に抵抗することはできない。
一つ目の効果は効いたんだ、全ての能力に耐性があるわけじゃないだろう。勝算は充分ある。
私が元々持っていて、あの槍によって目覚めさせられた能力を使う。
魂からの力の流れを操作し、手に力の結晶を作る。
『解放』とは違う黄色に輝く結晶を。
「『武創』正撲の杵」
手の中にあった結晶が形を変え、巨大な杵へと変化する。
「その勝負、受けてたとうじゃないか!」
「今からモチでもつく気かぁ?一発でKOさせてやるよ。さっきみたいになぁ!」
こうして、二人の戦いの火蓋は切られた。
落ち着け。相手の能力は、まだ分からない。けど、『武創』を使ってきていないことから、武器は、使わずに、拳で殴るのが主なダメージソースとなるだろう。
なら!それを封じてしまえば勝ち!
今度は、緑色に輝く結晶が少女の手の中に生成される。
「『付与』浸辛通痛」
なんだ?今度は、緑色に光ったが、まぁいい。
今は、ただ殴ることだけを考えるっ!
「いいよ、来な」
二人の間の、静寂が破られた。
最初に動いたのは私だった。この着物、予想外に動きやすい!たぶんこの格好のままでもマラソンが走れる。
私は、全速力で相手との距離を詰る。だが、私もバカじゃない。そのまま真正面から行ったら、普通に避けられてしまうだろうし、あの、モチつくやつで、ぶん殴られてしまうかもしれない。
「うっ」
絶対に杵が当たらないであろうギリギリの地点で左前方へと飛ぶ。普通の人間には、できないだろうが、今の私なら届く!そのまま、体勢を整えて、目標とした木を、持てる脚力で全力で蹴るっ!
木の位置は、アイツの後ろ。背後からの攻撃。
ハッとしたような顔でアイツは振り向く。
だが、もう遅い!
『解放』による、身体強化と、木を蹴ったことによる加速を乗せた拳。ただでは、すまないだろう。
「食らえッ!」
拳の先で、頬の少し柔らかな感触を感じる。
やった!当たっ、
「クッっ。あガァぇ」
モモのパンチをモロに食らった少女は、そのまま、また宙を舞い、吹っ飛ぶ。だが、今回は、空中で体を捻り、ギリギリ着地する。
痛いッ。なんでだ?さっきは、こんなに…。加速したのが原因?だけど…
少女の顔に拳が触れた瞬間、モモの体には、とてつもない激痛が走った。それは、さっき、槍を刺されたときに、匹敵する痛みであった。
「アナタ、カワイイから特別に教えてあげる。さっき、私が『付与』…ほら、緑色のあったでしょ。あれの能力でね、他人が私の身体に触れた瞬間、焼けるような痛みが走るの」
少女は、鼻血を流しながらの笑みという不気味な表情で言う。
「殴る、つまり身体に、嫌でも触れなければいけない闘い方で、痛みに耐えながら闘える?まぁ、できないよねっ。」
杵を、しっかりと構え直す。明らかな臨戦体勢。
「じゃあ、大人しく倒されて♡」
ついにきた。あちらから、こちらへ向けての攻撃。
どうする?やせ我慢でこのまま殴り続けるか?いや、無理だろう。私は、そこまでイかれていない。
だとしたら、どうすればいいか。
簡単だ!直接殴らなければいいだけの話。
さっき、アイツがやってるのを見た。見よう見真似だが、いけるか?
今もなお、アイツは、私に接近し続けている。
時間の余裕は、1秒たりともない。
もう一度、全神経を集中させ、魂からの力を左腕に集める。
「できたっ!」
光り輝く黄色の結晶!
「『武創』桃源刀・斬鬼!」
言葉を放った瞬間、結晶は、一本の刀へと、姿を変えた。
「『武創』使えんのかよ!」
これは、反射的ででた本音だ。
この速度からの急制動は、不可能!
でも、あの娘の得物は刀で、使用は初めて、のはず。ならば、多少の危険は承知してこのまま攻撃する!
「どりゃあ!」
分かる!
今まで刀なんか一回も触ったことないのに、扱い方が手に取るように分かる!
合わせろ、合わせるんだ。敵の攻撃に!
ふぅー、ふぅー。
ここっ!
タイミングを合わせ、刀を斜めに振り下ろし、相手の持っている杵の上の方に当てる。
当たった!
さらにそこから全力で振り下ろし、相手の体制を崩す。狙いは、これだ。倒れた所に、攻撃を加え、倒す。
「やば!まずいっ。『発動』武愚無苦っ」
「うっ!?」
追撃をするため、次の攻撃の予備動作に移った瞬間、今度は青色の輝きが現れ、突如として地面がぬかるみ、体勢を崩してしまった。
「あぶなっ。死ぬ方と思った〜」
その隙を突かれ、相手には、距離を取られてしまった。
ちっ。今のは、ただ相手の体勢を崩しただけであり、崩した後の攻撃に重きを置いていたため、ろくなダメージを与えることができなかった。
ぬかるんだ地点からは、抜け出すことができた。
相手は小回りの効く技が多い…どうしようか。
「はぁはぁ。何回も聞くけどさぁ。はぁ。なんでそんなに強いわけ?目覚めたばっかだよね?教えてよ!なんで強いかさ」
「特別に教えてあげるよ。それはさ、愛だよ。愛。シオンちゃんへの。今、私は死ぬわけにはいかないの。悲しませたくないの。わかった?」
「シオンちゃん〜?そんな理由か〜。ってか、その言い方っ!彼女いたのか〜。残念。君、めっちゃタイプなんだけどなぁ」
「生憎、私はアンタみたいなのタイプじゃないんだわ。アンタ、恋人とかいなさそーだもんな」
「やかましいわ!ん?ちょっと待って。シオンちゃん?そいつ、名字なに?」
「あっ?そんなことは聞いて何に…。御仁島だよ。御仁島 紫媛。それがどうし―」
「知ってるわ、そいつ。」
「は?」
反射的にでてしまった。
「なんで?」
純粋な疑問をぶつける。」
「えっ。だって、あたしの能力目覚めさせたの、そいつだもん。歩いてたらさ、急に槍でグサーって。んで、気づいたら体が勝手に…あれ?勝手に?てかなんで私は…うっ、ああっ、おはっ」
ちょっと様子がおかしいが、今はそんなことはどうでもいい。シオンちゃんがどうしてそんなことを?
「それって、いつの話?」
「うっあぁ。ん?なんの話?あっ、いつの話かってね。確か一週間くらい前かな?」
「一週間前!?」
おかしい!おかしい。事件が起きて、シオンちゃんが、消息を絶ったのが三週間前。その間なんの情報も見つからなかった。なのに…
「ねぇ、それ本当なの?」
「ホントだよ。御仁島なんて名字珍しすぎて忘れるわけないよ。」
コイツの言ってることは、本当なのだろうか。コイツは、シオンちゃんが、消息不明になっていることなど知らないはず。そんな、すぐバレるような嘘、わざわざつくのか?
「シオンちゃんを最後に見たのは、どこ?」
「うーん。これ以上は無理かなぁ。アタシのモノになってくれれば考えるかも〜」
「誰が、お前なんかの。いいよ、力づく―」
「力づくって言うけどさぁ。間違って殺しちゃいましたってなったらどうするの?悲しませたくないとか言ってたけどさぁ、大切なカノジョが人殺したら、悲しむんじゃないかなぁ?」
「うっ」
確かにそうだ。アイツの言っていることは、正しい。じゃあどうするか。どうすればいい?
このチカラ、どう使えばいい?
「まぁいいや。おしゃべりはおしまい。もう、本気でいっちゃおうかな!『付与』業火拳乱!」
緑色に輝き、今度は、少女の両手が、紅く燃え出した。
「この手で触ったものは、全部燃えちゃうんだ。さらにさっきの、浸辛通痛の効果も合わさる。まともに食らって、意識を保てる人間はいないと思うよ。」
相手は、またしてもこちらへと接近をしてくる。今度は、食らったら、本当に終わりだし、なんなら刀も燃えてしまうかもしれない。
悲しませなあように、か。
槍を刺されたときの話をしてるときのことを考えれば、アイツのことも大体わかった気がする。そして、シオンちゃんもそれと多分同じ。
私は、決めた。
このチカラは――
殺したり、人を傷つけるためのチカラじゃなく、人を救うために使うよ。私たちみたいな人間を作らないためにも。
「シオンちゃん。と、その他の人たち。」
そして…
「お前も、な」
左手が、青く輝く。
「『発動』桃源流 一桃両断」
力を纏わせた刀を横へ全力で振る。
「はっ!そこじゃ当らなっ…あっ!?」
『発動』によって生じた斬撃波が、少女に直撃し、その身体を切り裂いた。




