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第二話 この力、誰のために?なんのために?

https://ncode.syosetu.com/n7595il/

この小説は、こちらの作品の第四話から第六話をまとめたものです。


最新話は、こちらからどうぞ!

少女の手には、黒い槍が握られている。

 数秒前、彼女はあんなモノ絶対に持っていなかった。

 「やばっ」

 あれが何なのかはわからない。

 だが、本能が、私の本能がが訴えかけている。


 殺されるっ!


 私は、柵にかけていた片足を下ろし、少女がいない方の岸に向かって全力で疾走する。

 少女の標的は、確実に私。あんなのに刺されたらひとたまりもないだろう。


 ――あれ?私は、ここに死にに来たんじゃ?


 「あれれ?逃げちゃったかぁ。まぁいいや!」

 

 「どうせ、この能力(チカラ)には敵わないしね」


 「はぁ、はぁっ」

 キツい、肩で呼吸をするのがやっとだ。

 

 随分と走った。

 ここは森の中。そう簡単に見つかることは無いだろう。

 あいつは一体何なんだ?

 取り敢えず少し休んだら、そのまま家に――


 「あぐっ!?あっあぁ」

 

 私の視界に、数十センチの黒いとんがりが突如として生えた。

 

 ほとばしる痛みに耐え、ゆっくりと後ろを振り向く。


 そこに立っていたのは、恍惚の顔を浮かべる、さっきの少女だった。

 いたい、痛い、イタイ、痛いっ!

 あぁっ!あぁっ!死ぬ。死ぬのか?こんなことでっ!?

 

 グググッ

 少女は、モモから槍を引き抜く。


 「ギャゃゃアッアッあ!」


 「ざんねーん。油断大敵ってやつ〜?」

 「大丈夫だよ〜。普通の人だったら死んじゃうけどね、アナタは死なないよ!だから、そんなに痛がらなくてもいいって」

 「すぐにアナタも、あたし達の仲間になるんだからっ、さ。てゆーかアナタ近くで見るとやっぱカワイイねぇ。タイプだよタイプ」


 少女は、何かブツブツ言ってるけど、もう何を言っているかは分からない。

 槍が刺さっていたところからは、絶えず血液が流れ続けている。


 ダメだ、もう視界にもモヤがかかり始めた。


 嫌だ。こんなことで、こんなところで死にたくないッ。


 「生ぎっ、たいッ」

 明らかな矛盾。

 さっきまで死ぬほど望んでいた「死」が急速に迫ってきているというのに、私は「死」を拒否している。


 分かった。なぜこんな簡単なことが分からなかったのだろう。

 私は、死後の世界に縋り付くフリをして、ただ辛い現実から逃げようとしているだけだった。

 

 こんなことで…自分で死んだり、他人に殺されたり。そんな死に方で死ぬのを、シオンちゃんは許してくれだろうか?


 違うだろう!違うだろう!そんな死に方、シオンちゃんが許すハズがない!


 そんな死に方してみろ!シオンちゃんが悲しむだろう?

 「シオンちゃんを悲しませたくないッ」

 生きる意味なんてそれだけで充分だ。


 「私はッ!生きるッ」


 死にかけの体のはずなのに、体の奥の奥の方から力が湧き出る。


 「おっ!起きた!」


 胸に手を当てる。

 さっきまで胸開いていた穴は、気味が悪いほど綺麗に塞がっている。

 さっきまでよく見えていなかったけど、コイツ顔すんげーカワイイな。髪の毛は、赤と黄色が混じっていて、カチューシャ?もしている。

 しかもこの服。着物みたいな、なんかよく分からない服を着ている。これでよく動けるな…


 でも――


 タイプじゃあねぇな。


 「じゃあ〜!目覚めのキッスを…」

 「死ね」

 「は?」


 モモ拳から放たれた強烈な打撃が、少女の整った顔を歪めたのは、そこからたった0.1秒後のことであった。


 「グフォエっ」


 決まったッ。これ以上ないクリーンヒット!

 憎い顔に、渾身の一発をぶち込んでやった。

 少女の身体は、その勢いで宙を舞い、木にあたってそのまま地面に落ちてきた。

 

 「ゲホッ。なんで?なんでっ?私、さっき完璧に刺したよね!?槍!なんで攻撃してくるわけ!?」


 「しらねぇよ。いや、ごめん。知ってるわ。お前にはわからねぇだろうがなぁ!」

 

 死に際に見たあの力。多分コイツが使ってるのと同じ力だ。なら!


 落ち着け、冷静になるんだ。神経を自分の内側、魂に秘める力に全てを集中させろ!

 

 掴まえろ!魂を、力を!

 

 ――掴まえた!いけるっ!

 

 捉えた力を、魂から身体に流し、それを左手の中に集める。


 できた。私の能力の能力(チカラ)の結晶。

 紅く輝くそれが握られた拳を私は、前に突き出す。


 「『解放』」


 言葉を発した瞬間握られた結晶は、より輝きを増し、その輝きは、私を包む。

 

 あぁ。私の魂からどんどんと力が解放されていくのを感じる。


 結晶が力を使い果たして消滅するのと同時に、私の『解放』も完了する。

 

 さっきまで着ていた服はどこかへ消え、アイツが着ているような着物っぽい服へと変化する。毛量もちょっと増えたような。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。今は…

 「さぁ、これでパワーは同じだな」

 目の前にいる奴をぶっ飛ばすだけだ!

 


 ありえない!おかしい!

 だってアタシ刺したじゃん!ブスって。なんで攻撃してくるわけ!?しかも『解放』まだしてるし!


 さっき刺した槍――醒操鬼槍には、2つの効果ある。

 一つ目は、眠っている能力(チカラ)を目覚めせる。

 二つ目は、魂に鬼の能力(チカラ)を刻み、その能力で、新たな仲間を増やすように、精神と思考をコントロールする。

 通常、仲間になればお互い攻撃をすることはできなくなる。

 だけど…この娘は、攻撃をしてきた。

 この娘の場合、一つ目の能力だけが発動している。一体なぜ?


 「はぁ…しょうがないな、残念だけど」

 だが、効かないものはしょうがない。ここまできたら、仲間にするのは諦めて今後の障害にならないよう始末する他ない。

 タイプの子を手にかけるのは正直嫌だが、鬼の精神操作に抵抗することはできない。

 

 一つ目の効果は効いたんだ、全ての能力に耐性があるわけじゃないだろう。勝算は充分ある。

 私が元々持っていて、あの槍によって目覚めさせられた能力を使う。


 魂からの力の流れを操作し、手に力の結晶を作る。

 『解放』とは違う黄色に輝く結晶を。

 「『武創』正撲の杵」


 手の中にあった結晶が形を変え、巨大な杵へと変化する。

 

 「その勝負、受けてたとうじゃないか!」


 「今からモチでもつく気かぁ?一発でKOさせてやるよ。さっきみたいになぁ!」


 こうして、二人の戦いの火蓋は切られた。




 落ち着け。相手の能力は、まだ分からない。けど、『武創』を使ってきていないことから、武器は、使わずに、拳で殴るのが主なダメージソースとなるだろう。

 なら!それを封じてしまえば勝ち!

 今度は、緑色に輝く結晶が少女の手の中に生成される。


 「『付与』浸辛通痛(シンシンツウツウ)



 なんだ?今度は、緑色に光ったが、まぁいい。

 今は、ただ殴ることだけを考えるっ!


「いいよ、来な」


 二人の間の、静寂が破られた。


 最初に動いたのは私だった。この着物、予想外に動きやすい!たぶんこの格好のままでもマラソンが走れる。

 私は、全速力で相手との距離を詰る。だが、私もバカじゃない。そのまま真正面から行ったら、普通に避けられてしまうだろうし、あの、モチつくやつで、ぶん殴られてしまうかもしれない。

 「うっ」

 絶対に杵が当たらないであろうギリギリの地点で左前方へと飛ぶ。普通の人間には、できないだろうが、今の私なら届く!そのまま、体勢を整えて、目標とした木を、持てる脚力で全力で蹴るっ!

 木の位置は、アイツの後ろ。背後からの攻撃。

 ハッとしたような顔でアイツは振り向く。

 だが、もう遅い!

 『解放』による、身体強化と、木を蹴ったことによる加速を乗せた拳。ただでは、すまないだろう。


 「食らえッ!」

 拳の先で、頬の少し柔らかな感触を感じる。

 やった!当たっ、

 「クッっ。あガァぇ」


 モモのパンチをモロに食らった少女は、そのまま、また宙を舞い、吹っ飛ぶ。だが、今回は、空中で体を捻り、ギリギリ着地する。



 痛いッ。なんでだ?さっきは、こんなに…。加速したのが原因?だけど…


 少女の顔に拳が触れた瞬間、モモの体には、とてつもない激痛が走った。それは、さっき、槍を刺されたときに、匹敵する痛みであった。


 「アナタ、カワイイから特別に教えてあげる。さっき、私が『付与』…ほら、緑色のあったでしょ。あれの能力(チカラ)でね、他人が私の身体に触れた瞬間、焼けるような痛みが走るの」

 少女は、鼻血を流しながらの笑みという不気味な表情で言う。

 「殴る、つまり身体に、嫌でも触れなければいけない闘い方で、痛みに耐えながら闘える?まぁ、できないよねっ。」

 杵を、しっかりと構え直す。明らかな臨戦体勢。

 「じゃあ、大人しく倒されて♡」

 ついにきた。あちらから、こちらへ向けての攻撃。


 どうする?やせ我慢でこのまま殴り続けるか?いや、無理だろう。私は、そこまでイかれていない。


 だとしたら、どうすればいいか。


 簡単だ!直接殴らなければいいだけの話。


 さっき、アイツがやってるのを見た。見よう見真似だが、いけるか?


 今もなお、アイツは、私に接近し続けている。

 時間の余裕は、1秒たりともない。


 もう一度、全神経を集中させ、魂からの力を左腕に集める。

 

 「できたっ!」


 光り輝く黄色の結晶!


 「『武創』桃源刀・斬鬼!」


 言葉を放った瞬間、結晶は、一本の刀へと、姿を変えた。

 


 「『武創』使えんのかよ!」


 これは、反射的ででた本音だ。

 この速度からの急制動は、不可能!

 でも、あの娘の得物は刀で、使用は初めて、のはず。ならば、多少の危険は承知してこのまま攻撃する!

 「どりゃあ!」


 分かる!

 今まで刀なんか一回も触ったことないのに、扱い方が手に取るように分かる!

 合わせろ、合わせるんだ。敵の攻撃に!


 ふぅー、ふぅー。


 ここっ!

 

 タイミングを合わせ、刀を斜めに振り下ろし、相手の持っている杵の上の方に当てる。


 当たった!


 さらにそこから全力で振り下ろし、相手の体制を崩す。狙いは、これだ。倒れた所に、攻撃を加え、倒す。


 「やば!まずいっ。『発動』武愚無苦(ブクブク)っ」


 「うっ!?」

 追撃をするため、次の攻撃の予備動作に移った瞬間、今度は青色の輝きが現れ、突如として地面がぬかるみ、体勢を崩してしまった。

 「あぶなっ。死ぬ方と思った〜」

 その隙を突かれ、相手には、距離を取られてしまった。

 ちっ。今のは、ただ相手の体勢を崩しただけであり、崩した後の攻撃に重きを置いていたため、ろくなダメージを与えることができなかった。

 ぬかるんだ地点からは、抜け出すことができた。

 相手は小回りの効く技が多い…どうしようか。

 

 「はぁはぁ。何回も聞くけどさぁ。はぁ。なんでそんなに強いわけ?目覚めたばっかだよね?教えてよ!なんで強いかさ」


 「特別に教えてあげるよ。それはさ、愛だよ。愛。シオンちゃんへの。今、私は死ぬわけにはいかないの。悲しませたくないの。わかった?」

 

 「シオンちゃん〜?そんな理由か〜。ってか、その言い方っ!彼女いたのか〜。残念。君、めっちゃタイプなんだけどなぁ」


 「生憎、私はアンタみたいなのタイプじゃないんだわ。アンタ、恋人とかいなさそーだもんな」


 「やかましいわ!ん?ちょっと待って。シオンちゃん?そいつ、名字なに?」


 「あっ?そんなことは聞いて何に…。御仁島(おにしま)だよ。御仁島 紫媛(おにしま シオン)。それがどうし―」


 「知ってるわ、そいつ。」


 「は?」

 反射的にでてしまった。

 「なんで?」

 純粋な疑問をぶつける。」


 「えっ。だって、あたしの能力目覚めさせたの、そいつだもん。歩いてたらさ、急に槍でグサーって。んで、気づいたら体が勝手に…あれ?勝手に?てかなんで私は…うっ、ああっ、おはっ」


 ちょっと様子がおかしいが、今はそんなことはどうでもいい。シオンちゃんがどうしてそんなことを?


 「それって、いつの話?」


 「うっあぁ。ん?なんの話?あっ、いつの話かってね。確か一週間くらい前かな?」


 「一週間前!?」


 おかしい!おかしい。事件が起きて、シオンちゃんが、消息を絶ったのが三週間前。その間なんの情報も見つからなかった。なのに…


 「ねぇ、それ本当なの?」


 「ホントだよ。御仁島なんて名字珍しすぎて忘れるわけないよ。」


 コイツの言ってることは、本当なのだろうか。コイツは、シオンちゃんが、消息不明になっていることなど知らないはず。そんな、すぐバレるような嘘、わざわざつくのか?


 「シオンちゃんを最後に見たのは、どこ?」

 

 「うーん。これ以上は無理かなぁ。アタシのモノになってくれれば考えるかも〜」


 「誰が、お前なんかの。いいよ、力づく―」


 「力づくって言うけどさぁ。間違って殺しちゃいましたってなったらどうするの?悲しませたくないとか言ってたけどさぁ、大切なカノジョが人殺したら、悲しむんじゃないかなぁ?」

 

 「うっ」

 確かにそうだ。アイツの言っていることは、正しい。じゃあどうするか。どうすればいい?

 

 このチカラ、どう使えばいい?


 「まぁいいや。おしゃべりはおしまい。もう、本気でいっちゃおうかな!『付与』業火拳乱(ゴウカケンラン)!」


  緑色に輝き、今度は、少女の両手が、紅く燃え出した。


 「この手で触ったものは、全部燃えちゃうんだ。さらにさっきの、浸辛通痛の効果も合わさる。まともに食らって、意識を保てる人間はいないと思うよ。」


 相手は、またしてもこちらへと接近をしてくる。今度は、食らったら、本当に終わりだし、なんなら刀も燃えてしまうかもしれない。


 悲しませなあように、か。 

 槍を刺されたときの話をしてるときのことを考えれば、アイツのことも大体わかった気がする。そして、シオンちゃんもそれと多分同じ。


 私は、決めた。


 このチカラは――


 殺したり、人を傷つけるためのチカラじゃなく、人を救うために使うよ。私たちみたいな人間を作らないためにも。


 「シオンちゃん。と、その他の人たち。」

 

 そして…


「お前も、な」


 左手が、青く輝く。


 「『発動』桃源流 一桃両断」

 

 力を纏わせた刀を横へ全力で振る。


 「はっ!そこじゃ当らなっ…あっ!?」


 『発動』によって生じた斬撃波が、少女に直撃し、その身体を切り裂いた。


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