表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/90

77、エリックの過去



 フィオナの捜索が暗礁に乗り上げた。


「どうして見つからない!」


 俺は机を大きく叩く。俺の怒りの行動を、咎める者はいない。婚約者が誘拐されたのだ。みんな痛ましい目で俺を見ている。

 もう誘拐されてから数時間は経過した。時間が経てば経つほど誘拐された痕跡を探すのは難しくなる。

 フィオナはどこにいるんだ!

 最後に消えたのは劇場のトイレだ。丁寧に他の人間が入らないように『掃除中』の立て札がされていて、目撃者はいない。

 唯一の手がかりはその近くに落ちていた国旗だ。


「リビエン帝国関連の船はない?」


 今まで何か考え事をしていたエリックが口を開いた。


「あの国旗があったから、真っ先に疑って調べた。怪しいものは出てこなかった」


 ジェレミー殿下が答える。


「友好国は?」

「友好国?」

「あの国は友好国という名目の属国がある。その中でもリビエン帝国に従順なのは――アルメニアだね」

「! 今すぐアルメニア関連の船を調べろ!」


 エリックの一言で、場が動いた。


「なぜもっと早く言わなかった!」

「今のリビエン帝国と関係している国がどこか考えていたんだ。僕が国を出たときとまた情勢が変わっているからね。だから、王太子殿下の部下に新聞の調達をお願いしたんだ」


 エリックの周りには新聞が散乱していた。

 もう少し早ければ、すぐにフィオナを見つけられたのではという思いからエリックを責めてしまうと、エリックは淡々と事情を説明した。

 そうだ。エリックだってわかっていたらすぐに言っていたに決まっているのに。


「悪い……」

「いや、気持ちはわかるよ」


 エリックがポツリと言った。


「僕も家族を奪われたから」


 エリックの言葉に、俺は彼を見たが、感情のわからない表情を浮かべていた。


「奪われたってどういう――」

「見つけました!」


 そのとき、兵士が叫んだ。


「アルメニア行きの船が一隻ありました!」

「よし、すぐにその船に行こう」

「い、いえ、それが……」


 兵士が気まずそうに声を出す。


「すでに出航してから五時間経っています……」


 その言葉に、その場の全員が言葉をなくした。

 五時間。とても縮められる距離ではない。


「クソッ!」


 俺は壁を殴った。フィオナが連れ去られたというのに、俺はなんて無力なんだ。


「諦めるには早いよ」


 みんなが気落ちしている中、エリックが地図を指さす。


「この海域、潮の流れが速くて、みんな避けて通るけど、実はこの部分だけうまく抜けられるようになってる。ここを通ればかなりの時間短縮になる」


 エリックが説明する。


「どうしてそんなことを知ってるんだ?」

「帝国から追われているとき、ここしかバレずにいく海域がなかった。一か八かでいったら、この海流を見つけたんだ」

「追われているとき……?」

「……」


 エリックは悩んだようだが、意を決したように口を開いた。


「みんなよく聞いてほしい。これから言うことは真実だ」


 みんながエリックに注目し、口を閉ざした。


「リビエン帝国は、国家主導で人攫いをしている」

「なんだって!?」


 エリックの告白に、その場がざわついた。国家主導の人攫いなど、あっていいはずがない。にわかに信じ難いが、エリックが嘘を吐いているとも思えない。


「そんな話は聞いたことはないが」


 ジェレミー殿下が困惑した表情を浮かべてエリックに確認する。


「僕がいたころは帝国内だけで行われていたんだ。ある特定の人間だけ、国に捕えられる……だから露見しなかったんだと思う。捕らえられた人は逃げたら家族を殺すと脅され、家族は口外したら捕らえた人を殺すと脅される。……きっと、帝国内では狩り尽くしたから、他国にも手を伸ばしているんだろう」

「そんな……」


 衝撃的な真実に、みんな言葉を失った。カミラ嬢は青い顔をして、ジェレミー殿下にしがみついている。


「僕の家族も攫われた。僕の父で、僕に医学のすべてを教えてくれた人だ」


 エリック自身が被害者だったのだ。


「僕も……本当は対象ではなかったけど、父の知識を持っているからという理由で捕まりそうになったんだ。父が身を挺して助けてくれて、一人だけ逃げることができたけど、父はそのまま捕まってしまった」


 エリックがギュッと拳を握った。


「これから話すことは、さらに信じられないことだと思う。だけど、きっと腑に落ちると思うから、聞いてほしい」


 エリックは息を吸い込んで、一度吐く。


「帝国は、『転生者』を攫っている。――そして、フィオナ嬢もその一人だ」



読んでいただきありがとうございます!

もしよければ、ページ下部の★★★★★クリック評価や、ブックマーク追加で応援いただけるととても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病弱令嬢コミックス4巻発売!
 


『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』

コミックス4巻本日8/5発売!


描き下ろし番外編もあります!!

平置きしてない場合もあるのでこちらの実物写真ぜひご購入の際の参考にしてくださいね!

i00000


作品書影&情報はこちら⬇

i00000


『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』
コミックス4巻


発売日:2025年8月5日



あらすじ

健康オタクがバレた悪役令嬢×過保護が加速する公爵令息のラブコメディ

領民の生活改善を進めたことから、国全体の健康改善プロジェクトにスカウトされたフィオナ。
その主要メンバーは「きらめきの中に」の攻略対象の面々!
作中では彼らの前で断罪される運命であり、内心穏やかでないフィオナ。
ジェレミーはフィオナに好意的なものの、その側近・サディアス、婚約者・カミラからはそうでもないようで、ちょっと一筋縄ではいかない状況に…。
さらにジェレミーを意識するルイスからは「殿下のことが好きなのか?」と問われ!?



特典詳細はこちら↓

i00000


特典は4種類!
小箱ハコ先生の描き下ろし漫画に、
描き下ろしイラスト付きの私の書き下ろし特典SS!

それぞれ2種類ずつあるのでぜひお好みのものをゲットしてください!

ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたします!

あと下に、
『妃教育から逃げたい私』のグッズ通販情報と、
『せっかく令嬢に憑依したのにすでにやらかした後でした!』6巻の情報です!

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

『せっかく令嬢に憑依したのにすでにやらかした後でした!』

コミックス6巻8/2発売!


コミックシーモアさんで発売されてます!
(その後各電子書籍ストア配信予定)

なんと今なら6巻発売記念キャンペーンで
1~2巻無料で読めます!

気になってる方ぜひ読んでみてください!

元は縦読み漫画ですがこちらの単行本版は横読みになってます!

i00000


『せっかく令嬢に憑依したのにすでにやらかした後でした!』 コミックス6巻


発売日:2025年8月2日



あらすじ

社畜のように日々働いていた主人公は、ある日、目が覚めると異世界の令嬢クリスティナに憑依していた。
望んでいたような人生のやり直し、ではない。
記憶によればこの身体の持ち主はとんでもない悪女で、すでに色々『やらかしたあと』だった!
王太子からは「次はない」と脅され、抑制の手段という理由で監視役の公爵令息からは「一緒に住む」と言われ…!?
本気で抹殺の理由を得ようとしていると震えるクリスティナは、好感度を下げないために労働することを思いつく。一方、公爵は監視の他にも思惑があるようで……。

やらかし終えた元悪女と、監視役公爵との無自覚ロマンスファンタジー!



ヒーローの過去(子ども時代)出てきます!
そう、表紙の子どもはヒーローです!
ぜひお読みください!

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

『妃教育から逃げたい私』
POP UP SHOP 事後通販開始!


POP UP SHOP行ってくださった方ありがとうございます!
そして行けなかった方…もしくは買うか悩んでやっぱり買いたかった!と後悔している方…

8/4から事後通販始まってます!

i00000


こちらのグッズは菅田うり先生のイラストのものになります!

どれもとっても可愛いのでぜひ!
(私もキーホルダー追加で買おうと思ってます可愛い!)



ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたします!


― 新着の感想 ―
[一言] やはりエリックの父親も転生者だったか。
[気になる点] 王国へ拉致実行者を差し向けられる帝国なら、とっくに、逃亡したエリックを捕えることが出来たのでは? エリックは偽名で、男子の姿に変装しているけど実は女の子だったとか? それなら、帝国の…
[一言] 内部事情に詳しいとはいえエリックが新聞(一般公開情報)から判断できることを、王城上層部の面々が即座に上奏できないのは、この国は情報部門どころか外交部門もまともに機能してないってことになるので…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ