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【コミック6巻2026年8/5発売】病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)【ボイコミ2026年8/19開始!】  作者: 沢野いずみ
第二章

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75、誘拐犯の正体



「でもこれならどう?」


 私は短剣を自分の喉元に近づけた。


「な、何を考えてるの!?」


 ミリィが慌てている。まさか私がこんな行動をすると思っていなかったのだろう。貴族令嬢が武器を持っているとは考えもしなかったはずだし、自らの首に当てるなど、考えたこともなかったはずだ。

 しかし、フードの男はミリィと違い冷静だった。


「剣を下ろせ。死ぬ気か?」

「必要なら」


 私は短剣を構えたまま答える。


「私が死んだら困るのでしょう? 私の知識が必要なら、きっと生きて連れてこいと言われたはず。違う?」


 死んでたら知識も何もない、ただの死体だ。そんなものを連れていけば、きっと彼らもただでは済まないだろう。


「……向こうに行けば少なくとも死ぬことはない」

「人間として扱われるかも疑問なところに喜んでいくバカはいないでしょう」

「だから今ここで死ぬと?」

「名誉の死よ」


 男がスッと私を見据える。彼の赤い瞳がこちらを探っている。

 私はごくりと唾を飲み込んだ。


 さあ、どうか、騙されて。


 フードの男が、ふう、と息を吐いた。


「わかった……」


 こちらに向けていた剣を下ろし、私はほっとした。よかった、信じてくれた。

 あとはそちらの罪を問わないから、私を逃がすように言うだけ――。

 そう考えていたとき、短剣を持っていた手に痛みが走った。


「え……?」


 何かを投げられたのだと気付いたときには短剣は私の足元に落ちていた。

 慌てて拾おうとするも、フードの男のほうが早かった。

 あっという間に距離を縮めたフードの男は、私の足元の短剣を足で遠くに蹴り飛ばした。

 その短剣と私の間にフードの男が立つ。


「くっ……」


 私は後退るが、フードの男は私が動いたのと同じ距離を近づいてくる。


「私が死んだらどうしていたの!?」

「コインの角度を調整した。首に当たらないようにしたからその心配はない」


 先程手に当たったのはコインだったらしい。


「万が一があるでしょう? それに、気付いて私が自分でやっていた可能性も――」

「それはない」


 はっきりとフードの男に言い切られて、私は口を噤んだ。


「君は自分を傷付ける気など毛頭なかった。あれがハッタリなのは気付いていたし、俺は訓練された人間だ。ミスはしない」


 男が一歩ずつ近づいてくる。狭い倉庫では逃げ道がない。すぐに壁に追いやられ、私は男に手を掴まれた。


「くっ……離して!」

「悪いが二人とも連れていく約束だ」

「――え?」


 二人、と言われてミリィが反応した。


「ちょっと待って……二人って……まさか私じゃないわよね?」

「ここに他に人がいるか?」


 ミリィの顔から血の気が引いた。


「は、話が違うじゃない!」

「俺は一度も一人だけを連れていくとは言っていない。どんな知識を持っているかも知れない人間を、帝国がみすみす逃すと思うか?」


 ミリィがわなわなと身体を震わせている。そしてバッとその場を逃げようと走り出した。しかし呆気なく捕まる。


「離して!」


 腕を掴まれたミリィが激しく暴れ、その動きで男のフードが取れた。


「え?」


 現れた男の顔に驚いた。黒い髪、赤い瞳。私はこの人を知っている。



「アーロン……?」



 それは、グラリエル王国の王宮に仕えているはずの、アーロンだった。


「どうしてあなたが……」

「転生者の情報を得るには、国の中核で働くのが一番手っ取り早い」


 すでに隠す気がないのか、アーロンは私の疑問に答えてくれる。


「転生者ということを隠していても、彼らは自ずと自分の知識を使ってしまう。そして、それは当然国に影響を及ぼす。君がいい例だ」


 スッと目線で私を見る。

 確かに、私も当然のように前世の知識を使ってしまった……。図らずも、それで国王陛下の目にも止まり、国の施策にも関わることとなった。

 確かにアーロンの言う通り、転生者の情報を得るには、王宮という場ほどいいものはないだろう。


「帝国のスパイとして紛れ込んでいたということね」

「そういうことだ」


 念の為、グラリエルの国王が関わっているのか知りたくて、ハッタリで確認すると、アーロンは帝国のスパイであることを認めた。

 よかった。国が率先して帝国に転生者を送っていたわけではなくて。

 しかし、それなら、他の国にもアーロンのような者がいて、各地から転生者を攫っているということだろうか。


「ちょっと、離してってば!」


 もっと色々聞きたかったが、ミリィが再び暴れだした。アーロンはふう、と息を吐くと、ミリィの首筋に手刀を入れた。

 ミリィは途端にだらんと力が抜け、アーロンがその身体を支える。きっと、さっき私もこうして気絶させられたのだろう。

 アーロンはミリィを手頃な木箱に入れる。


「抵抗はするな。するならまた気絶させる」


 アーロンの言葉に、私は抵抗するのをやめる。気絶させられたら、逃げられる瞬間を逃してしまうかもしれない。


「これを噛め」


 アーロンは手ぬぐいのようなものを私の口に噛ませ、それを後頭部に巻いた。猿轡さるぐつわだ。


「入れ」


 私にも木箱に入るように指示する。私の細腕でアーロンに勝つことは不可能だ。分が悪いと判断した私は素直に従い、木箱に入った。

 蓋を締められると、数人人が倉庫に入ってきた気配がした。アーロンには仲間がいるらしい。まあ、こんな大それたこと、一人でやるには無理があるか。

 誰かに担ぎ上げられ揺れる木箱の中で、私はどうしたものかと、途方に暮れた。

 色々なことが起きた精神的負担もあり、私の体力は限界だった。せっかく気絶させられずに済んだのに、結局私は木箱の中で眠ってしまった。



読んでいただきありがとうございます!

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『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』6巻8/5発売&ボイコミ化お知らせ
 


『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』

コミックス6巻
本日
8/5発売!


今回も描き下ろし小箱ハコ先生の番外編もあります!
また特典もありますよー!
頑張って書いたので楽しんでいただけると嬉しいです!

特典など諸々詳細はこちら⬇

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『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』
コミックス6巻


発売日:2026年8月5日



あらすじ

王太子妃にと求められた悪役令嬢×過保護を譲らない公爵令息のラブコメディ

正ヒロイン・アリスと気脈を通じたのも束の間。フィオナは、国王から才能を認められ王太子妃――つまりジェレミーの妻になるよう求められる!
ジェレミーには既にカミラをはじめとする婚約者候補がいる…。
それにフィオナの婚約者ルイスも黙ってはいないが、さすがに王家に逆らえるのだろうか…。
そんな不安を抱えたまま、フィオナの爵位授与パーティーが行われて…!?

原作沢野いずみ先生書き下ろしの特別ストーリーのオーディオドラマが聴ける二次元コード付き♪
キャストは人気声優が出演!

◆キャスト◆
ルイス:千葉 翔也さん
フィオナ:ファイルーズあいさん

※オーディオドラマの視聴期限は【2027年8月4日】まで



なんと今回、オーディオドラマついてます!

期日内に楽しんでいただけると嬉しいです!

そして

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ボイスコミック化決定!

フィオナ役は ファイルーズあい さん
ルイス役は 千葉翔也 さん

とっっても素敵な演じてくださってるのでぜひ!

ボイスコミックについては開始されたらまたお知らせします!
(予定ではYouTubeのキトラチャンネルで8/19開始です!)

実物の写真もあります!
背表紙など書店で探す際の参考にどうぞ!

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コミカライズはカドコミさんで連載中!



ぜひお読みいただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたします!


― 新着の感想 ―
[気になる点] 王太子殿下の近臣はダメな人ばかりですね。 側近2人(サディアスとニック)は、主君の変態ぶりを目の当たりにしながら、諫言するでもなく傍観するのみで、次期国王の両翼となるべき立場にありな…
[一言] まあそら、このグダグダな国なら他国のスパイやりたい放題だろうな。
[気になる点] 「国が率先して帝国に転生者を送っていたわけではなくて」? 自国にとって有益な人間を、他国に率先して渡す国が有りますか?
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