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75、誘拐犯の正体



「でもこれならどう?」


 私は短剣を自分の喉元に近づけた。


「な、何を考えてるの!?」


 ミリィが慌てている。まさか私がこんな行動をすると思っていなかったのだろう。貴族令嬢が武器を持っているとは考えもしなかったはずだし、自らの首に当てるなど、考えたこともなかったはずだ。

 しかし、フードの男はミリィと違い冷静だった。


「剣を下ろせ。死ぬ気か?」

「必要なら」


 私は短剣を構えたまま答える。


「私が死んだら困るのでしょう? 私の知識が必要なら、きっと生きて連れてこいと言われたはず。違う?」


 死んでたら知識も何もない、ただの死体だ。そんなものを連れていけば、きっと彼らもただでは済まないだろう。


「……向こうに行けば少なくとも死ぬことはない」

「人間として扱われるかも疑問なところに喜んでいくバカはいないでしょう」

「だから今ここで死ぬと?」

「名誉の死よ」


 男がスッと私を見据える。彼の赤い瞳がこちらを探っている。

 私はごくりと唾を飲み込んだ。


 さあ、どうか、騙されて。


 フードの男が、ふう、と息を吐いた。


「わかった……」


 こちらに向けていた剣を下ろし、私はほっとした。よかった、信じてくれた。

 あとはそちらの罪を問わないから、私を逃がすように言うだけ――。

 そう考えていたとき、短剣を持っていた手に痛みが走った。


「え……?」


 何かを投げられたのだと気付いたときには短剣は私の足元に落ちていた。

 慌てて拾おうとするも、フードの男のほうが早かった。

 あっという間に距離を縮めたフードの男は、私の足元の短剣を足で遠くに蹴り飛ばした。

 その短剣と私の間にフードの男が立つ。


「くっ……」


 私は後退るが、フードの男は私が動いたのと同じ距離を近づいてくる。


「私が死んだらどうしていたの!?」

「コインの角度を調整した。首に当たらないようにしたからその心配はない」


 先程手に当たったのはコインだったらしい。


「万が一があるでしょう? それに、気付いて私が自分でやっていた可能性も――」

「それはない」


 はっきりとフードの男に言い切られて、私は口を噤んだ。


「君は自分を傷付ける気など毛頭なかった。あれがハッタリなのは気付いていたし、俺は訓練された人間だ。ミスはしない」


 男が一歩ずつ近づいてくる。狭い倉庫では逃げ道がない。すぐに壁に追いやられ、私は男に手を掴まれた。


「くっ……離して!」

「悪いが二人とも連れていく約束だ」

「――え?」


 二人、と言われてミリィが反応した。


「ちょっと待って……二人って……まさか私じゃないわよね?」

「ここに他に人がいるか?」


 ミリィの顔から血の気が引いた。


「は、話が違うじゃない!」

「俺は一度も一人だけを連れていくとは言っていない。どんな知識を持っているかも知れない人間を、帝国がみすみす逃すと思うか?」


 ミリィがわなわなと身体を震わせている。そしてバッとその場を逃げようと走り出した。しかし呆気なく捕まる。


「離して!」


 腕を掴まれたミリィが激しく暴れ、その動きで男のフードが取れた。


「え?」


 現れた男の顔に驚いた。黒い髪、赤い瞳。私はこの人を知っている。



「アーロン……?」



 それは、グラリエル王国の王宮に仕えているはずの、アーロンだった。


「どうしてあなたが……」

「転生者の情報を得るには、国の中核で働くのが一番手っ取り早い」


 すでに隠す気がないのか、アーロンは私の疑問に答えてくれる。


「転生者ということを隠していても、彼らは自ずと自分の知識を使ってしまう。そして、それは当然国に影響を及ぼす。君がいい例だ」


 スッと目線で私を見る。

 確かに、私も当然のように前世の知識を使ってしまった……。図らずも、それで国王陛下の目にも止まり、国の施策にも関わることとなった。

 確かにアーロンの言う通り、転生者の情報を得るには、王宮という場ほどいいものはないだろう。


「帝国のスパイとして紛れ込んでいたということね」

「そういうことだ」


 念の為、グラリエルの国王が関わっているのか知りたくて、ハッタリで確認すると、アーロンは帝国のスパイであることを認めた。

 よかった。国が率先して帝国に転生者を送っていたわけではなくて。

 しかし、それなら、他の国にもアーロンのような者がいて、各地から転生者を攫っているということだろうか。


「ちょっと、離してってば!」


 もっと色々聞きたかったが、ミリィが再び暴れだした。アーロンはふう、と息を吐くと、ミリィの首筋に手刀を入れた。

 ミリィは途端にだらんと力が抜け、アーロンがその身体を支える。きっと、さっき私もこうして気絶させられたのだろう。

 アーロンはミリィを手頃な木箱に入れる。


「抵抗はするな。するならまた気絶させる」


 アーロンの言葉に、私は抵抗するのをやめる。気絶させられたら、逃げられる瞬間を逃してしまうかもしれない。


「これを噛め」


 アーロンは手ぬぐいのようなものを私の口に噛ませ、それを後頭部に巻いた。猿轡さるぐつわだ。


「入れ」


 私にも木箱に入るように指示する。私の細腕でアーロンに勝つことは不可能だ。分が悪いと判断した私は素直に従い、木箱に入った。

 蓋を締められると、数人人が倉庫に入ってきた気配がした。アーロンには仲間がいるらしい。まあ、こんな大それたこと、一人でやるには無理があるか。

 誰かに担ぎ上げられ揺れる木箱の中で、私はどうしたものかと、途方に暮れた。

 色々なことが起きた精神的負担もあり、私の体力は限界だった。せっかく気絶させられずに済んだのに、結局私は木箱の中で眠ってしまった。



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王太子からは「次はない」と脅され、抑制の手段という理由で監視役の公爵令息からは「一緒に住む」と言われ…!?
本気で抹殺の理由を得ようとしていると震えるクリスティナは、好感度を下げないために労働することを思いつく。一方、公爵は監視の他にも思惑があるようで……。

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― 新着の感想 ―
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[一言] まあそら、このグダグダな国なら他国のスパイやりたい放題だろうな。
[気になる点] 「国が率先して帝国に転生者を送っていたわけではなくて」? 自国にとって有益な人間を、他国に率先して渡す国が有りますか?
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