表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/90

67、割れ鍋に綴じ蓋



 壁には一面カミラカミラカミラ! これでもかというほど年代それぞれのカミラの肖像画。そしてなんだかよく分からない雑貨類。ストローがガラス張りのケース中に展示されてるんだけど、ゴミじゃないの? これ何?


「俺のカミラコレクションだ」

「カミラコレクション……?」


 何それ……え、本当に何それ……。


「俺が集めたカミラに関係した品だ」

「え……」


 待ってつまり……。


「カミラが口をつけたストロー。カミラが書いた落書き、カミラが壊れたから捨てるように指示した靴、カミラが使ったハンカチ、カミラが使った――」


 ひ、ひえええええええ!

 ジェレミー殿下が品を説明してくれるが、私はドン引きしている。つまり、この部屋全部、ジェレミー殿下が集めたカミラが使ったか触ったかしたものってこと!?


「ス、ストーカー……?」

「違う、愛を求めただけだ」


 思わず漏れてしまった言葉にジェレミー殿下がすかさず訂正した。

 いや、どう考えてもストーカーだよ。だって使用済みストローをカミラが嬉々として渡すとは思わないもん。絶対秘密で集めてたでしょ? こんなこと知ってたらカミラが私とジェレミー殿下のことで不安になることもなかっただろうし。

 いや、それよりも、ゲームのジェレミー殿下はカミラはもちろんのこと、ヒロインにもこんなことはしてなかったはずだ。爽やかイケメン王太子だった。なにがどうしてこうなった。ああ、さようなら、私の推し……。

 ガラガラガラと、音を立てて私の推し像が崩れていく。


「カミラ様……訴えたほうがいいですよ……」


 王太子に対してこの国の法が動いてくれるかは定かではないが。

 私のドン引きした発言に、カミラ様は頬を赤らめて言った。


「そ、その……確かにわたくしもドン引きはしましたが」

「え、引いてたのか……これからも集める気だが」

「おやめください」

「……」


 ジェレミー殿下はやめるとは言わなかった。やめないな、これは。


「ドン引きはしましたが、その……殿下がここまでわたくしを思ってくれたのは嬉しくて」


 嬉しくなったの? これを見て? 私はルイスがこんなことしてたら鳥肌立っちゃうよ……。


「まあ、つまり、俺はカミラが死ぬほど好きで好きで堪らなかったわけだったんだが、どうせならカミラに俺と同じぐらい俺を愛してほしかった」


 これと同じぐらいってなかなか難しいのではないだろうか。


「まだカミラが俺と同じぐらい俺の事を好きになってくれているとは思えないが、カミラはこれを見ても受け入れてくれた。それはつまり、俺自身を受け入れてくれるということ」


 そうですね。これを受け入れてくれる人は器が大きいから、すごく有能な妃になると思います。


「というわけで、カミラと婚約することになったんだ」

「そうですか……」


 私としては、収まるところに収まってくれて嬉しい限りだ。


「ジェレミー殿下はカミラ様のこといつから好きなのですか?」


 ジェレミーがカミラを好きだとはまったく気づかなかった。


「六歳だな」

「六歳!?」


 そんなに早くから!? ならもっと早く婚約してあげてよ! いや、両想いになりたかったんですね! 理解できない!


「俺が平民に変装しているときに助けてもらったんだ」


 ん? ……平民に変装……?


「それは……王宮での暮らしに息苦しさを感じて息抜きにお忍びで街に出たやつですか?」

「ああ、そうだ。どうして知っているんだ?」


 どうしても何も、それはゲームでのアリスとのエピソードだからだ。


 ゲームでは幼い頃に城を抜け出して平民に変装したジェレミー殿下が、破落戸に絡まれた際、破落戸にリンゴをぶつけて彼らがよそ見をしている間にジェレミー殿下はアリスとともに逃げ出すのだ。

 そのときのことが忘れられなくて、そして大きくなってアリスに再会し、あのときの子だと気付き、アリスへの恋心を再燃させるのだ。


 幼い頃から好きだったとか、純愛だよね、と好きな設定だった。

 そのシチュエーションが、カミラと成り代わった。どうして?


 そこでハッと私は気付いた。そうか、アリスが転生者だからだ!

 前にアリスが手紙で「子どもの頃はしょっちゅう裏山に行ってました! だってドラゴンの卵とかあるかもしれないでしょう!?」と書いていた。ジェレミー殿下がお忍びで街に来ていたときも、きっと裏山にいたんだ。そして、そこにアリスの代わりに、偶然通りかかったカミラがジェレミー殿下を助けたのだろう。


 でもジェレミー殿下、ゲームでもヒロインにここまで執着してなかったんだけど……いや、もしかしてゲームでは出ない裏設定であったのかな……。

 と、いけない、ジェレミー殿下の質問に答えないと。


「その……平民に変装と言ったらそうかなと思って!」

「ああ。なるほど」


 ジェレミー殿下も深く考えて質問したのではなかったのだろう。あっさり受け入れてくれた。


「そのときからカミラのことが好きで、カミラを観察すればするほど好きになって、カミラのものに囲まれると幸せで」

「……そうですか」


 完全に危ない人の思考だと思うが、相手は私ではないので軽く返す。


「……カミラ様、本当にいいんですか?」


 今ならまだ間に合うのではないかと思い訊ねる。

 カミラは長年ジェレミー殿下の相手と見られてきたので、表立って彼女にアプローチをかける人間はいなかったが、もしカミラがジェレミー殿下の婚約者を辞退したら、大勢の独身男性がカミラ様に求婚することだろう。

 彼女はこの国の公爵令嬢だし、見目麗しい若い女性だ。身体も健康そのもの。そして知性と品性を兼ね備えた才色兼備。まさに高嶺の花。

 そんな彼女がフリーになったとなれば、我先にと申し込みが殺到することは想像に難くない。

 王家から命じられても断る余地がある程度には、彼女の家は権力がある。つまり嫌なら嫌で断っても彼女はあまり困らないのだ。

 わざわざストーカーを選ばなくても、と思って訊ねると、カミラはポッと頬を赤らめた。……赤らめた?


「……引きはしたのですが……」


 カミラはモジモジと手を擦り合わせた。


「それだけわたくしを思ってくれてると思うと嬉しく思って……愛されてるな、と……」


 照れた様子でそう言うカミラに、ジェレミー殿下が感激した様子で「カミラ!」彼女の名を呼ぶと、彼女がモジモジ動かしていた手を握った。


「君が俺の愛を受け入れてくれて嬉しいよ」

「わたくしこそ、こんなに愛してくれて嬉しいです」


 両思いになり、二人の世界を展開するカミラとジェレミー殿下を見て、破れ鍋に綴じ蓋だと思った。



読んでいただきありがとうございます!

もしよければ、ページ下部の★★★★★クリック評価や、ブックマーク追加で応援いただけるととても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病弱令嬢コミックス4巻発売!
 


『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』

コミックス4巻本日8/5発売!


描き下ろし番外編もあります!!

平置きしてない場合もあるのでこちらの実物写真ぜひご購入の際の参考にしてくださいね!

i00000


作品書影&情報はこちら⬇

i00000


『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』
コミックス4巻


発売日:2025年8月5日



あらすじ

健康オタクがバレた悪役令嬢×過保護が加速する公爵令息のラブコメディ

領民の生活改善を進めたことから、国全体の健康改善プロジェクトにスカウトされたフィオナ。
その主要メンバーは「きらめきの中に」の攻略対象の面々!
作中では彼らの前で断罪される運命であり、内心穏やかでないフィオナ。
ジェレミーはフィオナに好意的なものの、その側近・サディアス、婚約者・カミラからはそうでもないようで、ちょっと一筋縄ではいかない状況に…。
さらにジェレミーを意識するルイスからは「殿下のことが好きなのか?」と問われ!?



特典詳細はこちら↓

i00000


特典は4種類!
小箱ハコ先生の描き下ろし漫画に、
描き下ろしイラスト付きの私の書き下ろし特典SS!

それぞれ2種類ずつあるのでぜひお好みのものをゲットしてください!

ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたします!

あと下に、
『妃教育から逃げたい私』のグッズ通販情報と、
『せっかく令嬢に憑依したのにすでにやらかした後でした!』6巻の情報です!

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

『せっかく令嬢に憑依したのにすでにやらかした後でした!』

コミックス6巻8/2発売!


コミックシーモアさんで発売されてます!
(その後各電子書籍ストア配信予定)

なんと今なら6巻発売記念キャンペーンで
1~2巻無料で読めます!

気になってる方ぜひ読んでみてください!

元は縦読み漫画ですがこちらの単行本版は横読みになってます!

i00000


『せっかく令嬢に憑依したのにすでにやらかした後でした!』 コミックス6巻


発売日:2025年8月2日



あらすじ

社畜のように日々働いていた主人公は、ある日、目が覚めると異世界の令嬢クリスティナに憑依していた。
望んでいたような人生のやり直し、ではない。
記憶によればこの身体の持ち主はとんでもない悪女で、すでに色々『やらかしたあと』だった!
王太子からは「次はない」と脅され、抑制の手段という理由で監視役の公爵令息からは「一緒に住む」と言われ…!?
本気で抹殺の理由を得ようとしていると震えるクリスティナは、好感度を下げないために労働することを思いつく。一方、公爵は監視の他にも思惑があるようで……。

やらかし終えた元悪女と、監視役公爵との無自覚ロマンスファンタジー!



ヒーローの過去(子ども時代)出てきます!
そう、表紙の子どもはヒーローです!
ぜひお読みください!

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

『妃教育から逃げたい私』
POP UP SHOP 事後通販開始!


POP UP SHOP行ってくださった方ありがとうございます!
そして行けなかった方…もしくは買うか悩んでやっぱり買いたかった!と後悔している方…

8/4から事後通販始まってます!

i00000


こちらのグッズは菅田うり先生のイラストのものになります!

どれもとっても可愛いのでぜひ!
(私もキーホルダー追加で買おうと思ってます可愛い!)



ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたします!


― 新着の感想 ―
[一言] 寝る前に読むんじゃなかった… カミラコレクション  夢に見そう  笑笑
[一言] 綴じ蓋なんて見当たらないよ
[良い点] ノーミソ空っぽになる感じが楽しい~♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ