表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/90

65、カミラとジェレミー



「実は……カミラとはもっと前に会ってるんだ」

「え?」


 まさかの回答に、カミラは目を瞬いた。なぜならカミラはお茶会前にジェレミーに会った覚えがないからだ。


「カミラは俺だと気付いていなかったと思う」

「気付いていなかった?」


 ジェレミーは言いにくそうにしながらも、口を開いた。


「毎日次期王としての教育ばかりで息抜きをしたくなったときがあって……変装して街に行ったんだ」

「変装って……もしかして平民の格好なさっていたのですか?」


 ジェレミーが頷いた。

 カミラは驚いた。カミラの知っているジェレミーは品行方正で、そんなことをするとは想像もしたことがなかったからだ。

 カミラが驚いていることに気付き、引かれたと思ったのか、ジェレミーが必死に言い訳をした。


「君に出会ってからはしたことがないからな!? 君に会う前のことであって、それからはまったく!」

「いえ、別にそれぐらいいいとは思いますが……」


 カミラは驚いただけで、それが悪いことだとは思っていない。責任の大きな次期国王という立場であるジェレミーに、息抜きは必要だと思っている。ただ、今までのジェレミーはカミラの前でそんなことをする素振りをしたことがなかったから驚いてしまっただけだ。

 カミラの反応に、ジェレミーはほっとした様子で胸をなで下ろした。


「よかった……君は真面目な人だから、この話をして嫌われたらと思って……」

「そんなことで嫌いになったりいたしません」


 カミラのジェレミーへの思いを舐めないでほしい。


「いや、わかっている。君はとても誠実な人だと」

「ご理解いただきありがとうございます。それで、わたくしとはどのように会ったのですか?」


 カミラもたまに街に出ることはあった。ジェレミーと違い、貴族令嬢の格好をしての外出だったが。


「街に出たとき、破落戸ならずものにぶつかってしまったのだ。お忍びで出かけたから護衛はいないし、俺が王太子だとは誰も気付かず、破落戸に口汚く罵られて、手を振り上げられた」

「まあ! 殿下のことを殴ったのですか!?」


 カミラは今すぐその輩を見つけ出して厳重に罰せねばと思った。


「いや、殴られてはいない。君が助けに入ってくれたから」

「え?」


 カミラが助けた。ジェレミーはそう言ったが、やはりカミラはまだ思い出せなかった。

 人助けはしたことはある。カミラは理不尽を許すことができない。今の話を聞いていると、助けたと言うのなら、おそらく、幼い子どもを殴ろうとしている大人が許せなくて間に入ったのだろう。


「ちょうどそのときそこを馬車で通っていた君が、俺を見つけてわざわざ馬車を止めて出てきたんだ。そのとき君が言ったことも一語一句覚えている」


 ジェレミーはそのときのことを思い出しているのか、どこかうっとりとしながら言った。


「『大の大人が、力で適わぬ子どもに拳を上げるとは、恥を知りなさい』……カミラは恐れることもなく、俺と相手の間に立ち塞がりながら言ったんだ」


 ジェレミーはそのときのカミラを思い出した。すっと背筋を伸ばし、相手に臆することなくしっかり目を見て、堂々としていた。

 その姿は今まで見てきたどの人間よりも美しく、感動した。


「そして、思ったんだ。俺もこうでありたいと」


 高潔に、強く、誇り高く、民を守れる王になりたい。

 カミラの姿はジェレミーに目標を与えた。


「……申し訳ございません。覚えておりません」


 正確に言うなら、似たようなことがありすぎて、一個一個覚えていない。護衛には毎回怒られていた。だが、カミラは悪いことをしたとは思っていないし、今こうして当時助けた人間の話を聞いて、やはり間違っていなかったと思った。


「覚えていないのも無理はない。君にとっては日常の一コマだったのだろう」

「……面目ございません」


 覚えていないと伝えても、ジェレミーは気にした様子もない。カミラが覚えていないことを予測していたのかもしれない。


「それからその令嬢がどこの貴族か調べて、カミラを見つけた。あとはどうやって君に選んでもらえるかを考えていたよ」

「殿下が選んでくだされば、良いだけでは?」


 王太子殿下から婚約を申し込まれれば、断る家門は少ないだろう。


「いや、それでは意味がない。俺はカミラに選んでもらい、両思いで結婚したかったんだ」


 ジェレミーがなぜわざわざあんなお茶会を開いたのかがわかった。あくまで自然にカミラに出会い、カミラにジェレミーを選ばせたかったのだ。

 いきなり個人だけ呼び出したりしたらそれは自然ではないし、ジェレミーの言う通りだとしたら、確かにスムーズな作戦だったのかもしれない。

 だが、今の話だと疑問が残る。


「ならば、なぜわたくしを正式に婚約者にしてくださらなかったのです?」


 その流れなら、そのままカミラを婚約者にしてもいいはず。むしろそれが自然だろう。

 しかし、ジェレミーはカミラを婚約者にせず、あくまでカミラの立場は『筆頭婚約者候補』。そのおかげでカミラはいつも自身の危うい立場に不安を抱いていた。

 いつ誰に足元をすくわれるか。ジェレミーが誰か他の人間を選んだら……。

 ジェレミーがカミラを婚約者にしてくれていたら、そんな不安を抱かずに、心穏やかでいられたというのに。


「それは……カミラと俺の想いの強さが違うから」


 想いの強さ?


「できれば俺と同じぐらいカミラが俺のことを好きになってくれたらと思っていたんだ」

「わたくしは殿下をお慕いしております」


 カミラは初めからジェレミーへの想いを隠していない。おそらくほとんどの人間がカミラがジェレミーに懸想していることを知っているはずだ。


「うん。それは知っているんだ。知ってるんだけど……」


 ジェレミーは歯切れが悪い。


「ここまで来たらはっきり言ってくださいませ。たとえお互い想いあっていても何か結婚できない理由があるのならわたくしは身を引きます」

「身を引く……!?」


 今日一番の大きな声でジェレミーが叫んだ。


「ダメだ、それだけは! 君が俺と結婚してくれないなら死ぬ!」

「大袈裟すぎますわ」

「大袈裟じゃない!」


 カミラが呆れたように言うと、ジェレミーは真剣な声で否定した。


「君に嫌われるのが怖くて隠していたけど……」


 ジェレミーが、自室の中にあるもう一つの扉に手をかけた。


「頼むから嫌わないでくれ……」

「殿下を嫌うなどありえません」

「その言葉に責任を持ってくれよ……」


 ジェレミーはついに意を決して扉を開け放った。

 目の前に広がる光景に、カミラはポカンと口を開いた。


「……は?」


読んでいただきありがとうございます!

もしよければ、ページ下部の★★★★★クリック評価や、ブックマーク追加で応援いただけるととても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
病弱令嬢コミックス4巻発売!
 


『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』

コミックス4巻本日8/5発売!


描き下ろし番外編もあります!!

平置きしてない場合もあるのでこちらの実物写真ぜひご購入の際の参考にしてくださいね!

i00000


作品書影&情報はこちら⬇

i00000


『病弱な悪役令嬢ですが、婚約者が過保護すぎて逃げ出したい(私たち犬猿の仲でしたよね!?)』
コミックス4巻


発売日:2025年8月5日



あらすじ

健康オタクがバレた悪役令嬢×過保護が加速する公爵令息のラブコメディ

領民の生活改善を進めたことから、国全体の健康改善プロジェクトにスカウトされたフィオナ。
その主要メンバーは「きらめきの中に」の攻略対象の面々!
作中では彼らの前で断罪される運命であり、内心穏やかでないフィオナ。
ジェレミーはフィオナに好意的なものの、その側近・サディアス、婚約者・カミラからはそうでもないようで、ちょっと一筋縄ではいかない状況に…。
さらにジェレミーを意識するルイスからは「殿下のことが好きなのか?」と問われ!?



特典詳細はこちら↓

i00000


特典は4種類!
小箱ハコ先生の描き下ろし漫画に、
描き下ろしイラスト付きの私の書き下ろし特典SS!

それぞれ2種類ずつあるのでぜひお好みのものをゲットしてください!

ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたします!

あと下に、
『妃教育から逃げたい私』のグッズ通販情報と、
『せっかく令嬢に憑依したのにすでにやらかした後でした!』6巻の情報です!

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

『せっかく令嬢に憑依したのにすでにやらかした後でした!』

コミックス6巻8/2発売!


コミックシーモアさんで発売されてます!
(その後各電子書籍ストア配信予定)

なんと今なら6巻発売記念キャンペーンで
1~2巻無料で読めます!

気になってる方ぜひ読んでみてください!

元は縦読み漫画ですがこちらの単行本版は横読みになってます!

i00000


『せっかく令嬢に憑依したのにすでにやらかした後でした!』 コミックス6巻


発売日:2025年8月2日



あらすじ

社畜のように日々働いていた主人公は、ある日、目が覚めると異世界の令嬢クリスティナに憑依していた。
望んでいたような人生のやり直し、ではない。
記憶によればこの身体の持ち主はとんでもない悪女で、すでに色々『やらかしたあと』だった!
王太子からは「次はない」と脅され、抑制の手段という理由で監視役の公爵令息からは「一緒に住む」と言われ…!?
本気で抹殺の理由を得ようとしていると震えるクリスティナは、好感度を下げないために労働することを思いつく。一方、公爵は監視の他にも思惑があるようで……。

やらかし終えた元悪女と、監視役公爵との無自覚ロマンスファンタジー!



ヒーローの過去(子ども時代)出てきます!
そう、表紙の子どもはヒーローです!
ぜひお読みください!

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

『妃教育から逃げたい私』
POP UP SHOP 事後通販開始!


POP UP SHOP行ってくださった方ありがとうございます!
そして行けなかった方…もしくは買うか悩んでやっぱり買いたかった!と後悔している方…

8/4から事後通販始まってます!

i00000


こちらのグッズは菅田うり先生のイラストのものになります!

どれもとっても可愛いのでぜひ!
(私もキーホルダー追加で買おうと思ってます可愛い!)



ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたします!


― 新着の感想 ―
本当、はた迷惑なカップル(;^ω^) 生命の危機かも?なのに、ワインかけられ損です 親子(王と王子)揃って、ちょっと迷惑です
[一言] ジェレミーめんどくさいやつ カミラ逃げた方が良くない?
[一言] 殿下、かなり気持ち悪いw カミラも誰もが羨む淑女なのに、嫉妬にかられてワインかけちゃうんだもん。恋って怖いよね…嫉妬に狂ってやらかす人が王妃で良いのか…いっそ、利害関係の一致で恋愛感情ない人…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ