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58、カミラの招待状



 今さっき重要な話をしていたんだけど、気になるのそこなの?


「あいつはフィオナに近付きすぎる。次会ったらあのメガネを割る」

「やめてあげて」


 視力の弱い人のメガネを割るなんて横暴すぎる。


「国王陛下、納得してくれたかしら?」


 一歩引いてはくれたが、不安だ。


「ジェレミー殿下のほうは乗り気じゃないからな。国王陛下の独断だし、あれだけ脅したら強行はしないだろう。したら国を乗っとる」

「王城でそんな話しないでよ。誰かに聞かれたら大変じゃない」

「大丈夫だ。聞かれてもへっちゃらなぐらいの財力がある」


 ……お金の力って偉大なんだな。


「まあ、王になっても面倒なことが増えるだけだから、このままの関係を維持したいところだな」

「まあ、それはそうよね……」

「フィオナに王妃は負担が大きいしな」

「そうね……」


 下克上してルイスが王になるならそうなる。いや、まだ私とルイスが結婚すると決まってないけど。やっぱりアリスに恋しちゃう可能性もあるし!


「フィオナには公爵家でやりたいことをしてのんびり過ごしてもらえたらいいんだ。社交もしなくてもいい」

「社交もしなくてもいいの?」


 公爵家ともなれば、王族ほどでなくても、いろんなところに顔を出しパーティーを主催し、社交を行うものだ。しかし、ルイスはそれをしなくてもいいと言った。


「社交などしなくてもすでにコネクションはあるし、無理にする必要はない。フィオナが快適に過ごすのが大切だ」

「ルイス……」


 私のネックである社交もなくていいなんて……。

 感動しているとルイスが続けた。


「フィオナと俺の部屋でのんびり過ごして、たまに庭園の散歩をして、暇だったら屋敷の図書館で本を読んだり、劇団の人間を呼んで屋敷で演じてもらってもいいな」

「それは快適……」


 まさに私の夢ののんびりした暮らし。前世の社畜時代とは違う優雅な暮らしだ。


「ジャポーネの料理人を、公爵家で雇ってたまにジャポーネの料理を出してもらうのもいいな。あと温室もフィオナ用に作って、野菜なども育てられるようにしよう」

「素敵……!」


 私はその暮らしを想像した。

 好きな野菜やハーブなどを育て、日本食をたまに食べ、劇団を呼んで劇を見て、本を読んで。なんと優雅な暮らしだ。

 全部屋敷内でだけだけど。


「あの……ずっと家の中にいるんだけど」

「フィオナは身体が弱いから家の外に行くと心配だ。だから、家にいてほしい」


 にこりと微笑まれた。

 いや、引きこもりじゃない? その暮らしもいいけど、外にも出たいんだけど。


「外で遊んだり」

「危ないだろ外は。危険がいっぱいだ」


 ルイスは先程からいい笑顔だ。


「安心して暮らせるようにするから」


 過保護がすごい。大変だ。王族よりいいと思ったけど、ちょっと逃げたいかも。


「下克上とか、フィオナへの愛の言葉たちも、私がいないところでしてくれないかな……」


 そんな会話をしている私たちの後ろで父が呟いていたことに私は気付かなかった。

 馬車が家について、ルイスにエスコートされながら馬車を降りると、アンネが現れた。


「お帰りなさいませ、お嬢様。実はまた手紙が来まして」

「また!?」


 中世ヨーロッパ風の世界、連絡手段が手紙だから手紙がたくさん届く。私が生きてるうちに電話のようなものは開発されないだろうか。いや、スマホのような機能はできないだろうし、電話より手紙のほうがまだいいかな。


「誰だろう……」


 私は手紙を受け取り、驚いた。


「カミラ・ボルフィレ!?」


 それはもう一人の悪役令嬢、カミラからのお茶会への招待状だった。



          ◇◇◇



 私は一人、馬車に揺られている。

 招待状を握りしめながら、ため息を吐いた。


「どうしてカミラが……」


 カミラと私はあまり関わりのないキャラクターのはずだ。ゲームでも友達だった表現はなかったし、現実でもほぼ挨拶のみの仲。記憶を取り戻してからたまに関わったりしたが、仲が良くなったという印象はなかった。


 カミラ・ボルフィレ。

 彼女はジェレミー殿下のルートで登場する悪役令嬢だ。


 幼い頃からジェレミー殿下の筆頭婚約者候補として常に努力をしてきた淑女の鑑。私とは違い、社交界でも人気があり、公爵令嬢という地位もあり、妃教育も優秀だとお墨付きをもらうほど賢く、見た目も美しく、みんなの憧れのご令嬢だ。

 ジェレミー殿下の筆頭婚約者候補でなければ婚約の申し込みが殺到していたであろう。またジェレミー殿下の他の婚約者候補も、ジェレミー殿下はカミラと結婚するものだと思って、ほとんどが辞退している。つまりほぼ内定。


 ――なんでまだ正式な婚約者でないのかしら。


 彼女がジェレミー殿下の婚約者であれば、すでに相手がいるからと、国王陛下が私とジェレミー殿下を婚約させようとしなかったはずだ。

 ゲームのときも、どうして『婚約者候補』なんだろうと不思議だったのよね。

 どうせなら婚約者という設定にしたほうが、ヒロインに嫌がらせをする大義名分が持てる。婚約者候補と婚約者では立場がまったく違う。

 何か理由があるのかしら。


「……」


 まあ、考えてもしかたないか。

 今はこれからのことを考えないと。そう――。


「ようこそお越しくださいました。フィオナ様」


 このお茶会を乗り切らないと!

 馬車で到着した私を出迎えてくれたのは、お茶会を開いたカミラだった。カミラの後ろには、前にも見たご令嬢が三人控えていた。どの子も私を睨みつけている。


「お招きいただきありがとうございます。カミラ様」


 私は精一杯の笑顔を浮かべた。カミラは私をじっと眺めると、どうぞ、と席へ案内してくれた。私はほっとして息を吐く。


「本日のお茶は異国のお茶なんです」


 目の前に注がれたお茶を見る。緑色をしている。この国で飲まれるのは、紅茶が多い。私が広めたハーブティーも最近飲まれるようになったが、私が流通させているもので、このような色をしたものはなく、人が飲んでいるのも見たことがない。

 しかし私はこの色に見覚えがある。何より匂いが特徴的だ。


「緑茶ですか?」

「飲む前からわかるとは、さすがフィオナ様ですわね。そうです。ジャポーネの専門店で買いましたの」


 前世で慣れ親しんだお茶だ。この国にはなかったが、ルイスとともに行ってる事業で、レストランだけでなく、ジャポーネのものを販売することも始めた。売上は好調だと聞いていたが、まさかカミラが買っているとは。

 さすがに急須や湯呑みはなかったのか、ティーカップに緑茶が注がれていた。

 カミラは緑茶の香りを嗅いでから、一口口に含んだ。


「独特な味がしますが、すっきりしますね」

「さっぱりした味わいですよね。緑茶はカテキンというものが多く含まれています。カテキンは殺菌作用があり、風邪などを予防すると言われているのです。また、カテキンには脂肪の代謝を高め、糖質の吸収を抑える働きもあるので、ダイエット効果も期待できるんです。あ、でもカフェインも多く含まれているので、飲みすぎるとトイレが近くなったり、寝付けなくなるので、ほどほどにして、夜は控えたほうが――」


 ここまで喋ってハッとして周りを見ると、みんなこちらを見ていた。

 しまった! やってしまった!

 聞かれてもいないのに勝手に効能について説明してしまった。語りたくなるオタクの習性恐ろしい……気をつけようとあれだけ家で気合を入れてきたのに、早速やらかしてしまった。

 私はコホンと咳をして、こちらを見ている面々に笑みを浮かべた。


「そういうお茶なんですけど、これを買われるなんて、カミラ様はセンスがありますね」


 ははは、と笑いながら私も緑茶に口をつけた。


「味もとっても美味しいです」


 えへへへ。えへへ。へへ……。

 みんなの無反応に、乾いた笑みが出てしまう。気まずい。そもそもアウェイすぎる、私。

 カミラは手にしていたティーカップをテーブルに置くと、口を開いた。



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