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48、ヒロインの生い立ち


「素敵……」

「え?」


 会話の流れから凡そ聞こえるはずがない声が聞こえてきて、私は声の主を振り返った。

 そこに感動した様子で口元に手を当てているアリスがいた。


「素敵です! お二人ってもしかしてお互い想い合って婚約したとか……!?」

「いや、親の決めた婚約者だけど」

「まあ!」


 アリスが瞳を輝かせた。


「政略結婚って仲悪い人が多いイメージでしたけど、印象が変わりました!」

「仲悪いイメージだったの?」

「だって大衆小説では、大体仮面夫婦なんですよ!」


 そ、そうかも……。

 私もこの世界の娯楽として大衆小説は読んできたけど、政略結婚や親の決めた婚約は冷めきった仲の設定が多かったかも……。それで他に相手を見つける、みたいな話が多いのよね。


「俺たちにとって無縁だな」


 ルイス……ニコッと笑いかけてきているけど、十年間喧嘩しかしてなかったわよね、私たち……。

 周りから見ても仲悪くて有名だったわよ、私たち……。


「いいですね~! 大衆小説のイメージがあったから政略結婚は嫌だなと思ってたんですけど、お二人みたいな関係もあると思うと怖くなくなってきました! 貴族だからきっといつか政略結婚しなきゃでしょうし……」


 テンションが高かったアリスが、途中から不安になったのか声を少し小さくして呟いた。

 アリス、その心配は大丈夫よ!

 ようやく見つけた可愛い娘の幸せのために、あなたのお父様はあなたが連れてきた相手を結婚相手にするつもりだから。

 もちろん、あなたが恋愛に興味なかった場合のために、婿を見繕ってはいるけど、どれも誠実で、仮面夫婦にはならなそうな相手よ! 誰とも結ばれないノーマルルートでは男爵の選んだ相手と結婚するけど、不幸ではなさそうだったわよ!

 でもそれはまだアリスは知らないから教えてあげられない。

 でも彼女について、事前に情報を知りすぎていて、うっかり漏らしてしまいそう……今後ボロが出ないように、少し今のアリスの環境を聞いておこう。


「口ぶりからの憶測だから間違ってたら申し訳ないんだけど、アリスさんは元は平民なの?」

「はい。……いえ、血の繋がった父は確かにウェルズ男爵らしいのですが、ウェルズ家のメイドだった母は、自分が平民だったことに気兼ねして、私を身篭ったときに父の前から去ってしまったらしくて……それで母と二人で下町で暮らしてたんですが、その母が死んだとき、父が迎えに来たんです。どうも、母が死んだら父に手紙が届くようにしていたようで……」


 ゲームと同じ設定だ。

 アリスは平民として育つが、母親が死んだ際に、ウェルズ男爵の庶子だったことが判明し、そのまま男爵家で引き取られるのだ。

 男爵は何度も結婚の話をもらったが、アリスの母を愛していて、それらの話をすべて断り、独身を貫いていた。当然浮気もしていないから、子どもはアリス一人だけである。

 男爵はアリスの母を愛しており、子供であるアリスのことも愛しているが、不器用でその愛が伝わらず、アリスは父に愛されていないと思っているのよね。

 どのルートでも、最後は父親の思いを知って和解するけど……父親と手を取り合って泣くシーンはこちらも号泣ものだったなあ。親子ものに弱いのよね、私。


「貴族らしいこともまだあまりできなくて……慰問もちゃんとできてるかどうか……」


 不安そうなアリスに胸がキュンとした。私は彼女の手を握った。


「大丈夫よ! あなたはちゃんとできてるわ!」

「フィオナ様……」

「慰問に直接出向くなんて、貴族の鑑よ。誇っていいわ」


 貴族はお金がある。でも見栄も人一倍だ。我々は慈悲深いと思われたくてお金を出すことはあるが、そこまでで、実際に自ら出向く貴族は少数だ。

 だから、アリスの行動は貴族も自分たちに関心を持ってくれていると、きっと安心を与えただろう。

 アリスは私の言葉に一瞬間を置いて、笑った。


「ありがとうございます」


 あ、ヒロインの表情だ。

 間違いない。この笑顔、あのゲームで見たヒロインだ。

 この笑顔で、ルイスのことを癒すのよね。

 胸が一瞬ズキリとしたが、気付かないフリをした。


「エリックは?」


 私は誤魔化すように話を変えた。


「『ただの働きすぎだね。あれほど休めと言ったのにバカなの? きちんと休んだら治るから、栄養のあるもの食べて寝てな。じゃ、僕忙しいから』と出ていった」

「エリックのモノマネが上手ねルイス」


 私以外に披露できないものだから残念だ。


「サディアスは?」

「王宮にフィオナが倒れたことを報告している」

「そんな、大袈裟な」

「大袈裟じゃない」


 ルイスは少し怒った様子だった。


「王家がフィオナに無茶をさせるからこんなことになるんだ。フィオナが言いにくかったら俺からもっと王家にガツンと……」

「お願いだから落ち着いて……」


 こんなことで王家に怒鳴り込みに行かれたら困る。


「お二人は仲が本当にいいんですね」


 アリスは私たちを見て何を思ったのか、楽しそうにそう言った。


「じゃあ、私は二人の邪魔になるからそろそろ行きますね」

「ふ、二人の邪魔って……」


 ふふふ、と含み笑いをしながらアリスは部屋の扉に手をかけて部屋を出ていこうとしたが、「あ」と何かに気付いたようで、もう一度こちらを振り返った。


「そういえば、最近できたジャポーネのレストラン、フィオナ様がやってると聞いたんですが本当ですか?」



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本気で抹殺の理由を得ようとしていると震えるクリスティナは、好感度を下げないために労働することを思いつく。一方、公爵は監視の他にも思惑があるようで……。

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