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36、学校事業打ち合わせ


 一ヶ月後。私は王城のある一室に来ていた。


「よしっ!」


 私は手にした自作の資料たちを手に、気合いを入れていた。

 今日は学校事業についての話し合いをする日だ。


「何度も一緒に確認したから、大丈夫だ」


 緊張している私に、ルイスが優しく声かける。


「そうだよ。天才の僕も見たんだから大丈夫だよ」


 エリックも付いてきている。


「そ、そうよね。大丈夫よね」


 不安は消えないが、私は勇気を出して扉を開けた。

「スチル~~!」と叫ばなかった自分を褒めたかった。

 部屋の中には三人の人物がいた。私はその三人を全員知っている。


「突然呼び出してすまないな。フィオナ嬢」


 三人のうちの一人が私に話しかけてくる。彼とは国王陛下に会った際も話したことがある。

 金色の長髪に、緑の瞳。王族らしい神々しさ。

 ジェレミー王太子殿下だ。


「フィオナ嬢、よく来てくれた」


 ジェレミー殿下が立ち上がって出迎えてくれた。身分が高い方だから、座ったままでいいのに優しい。

 やはり私の推し、できる!


「フィオナ……?」


 ついジェレミー殿下をにやけた顔で見てしまったら、ルイスがこちらに鋭い視線を向けた。

 はっ! しまった! 仕事に来たのよ私は!

 コホン、と咳をして「先日ぶりでございます」と挨拶をする。


「ああ。先日はいきなりですまなかった。話を受け入れてくれて感謝する」

「いえ、こちらこそ」


 手当はたっぷりもらえるので。

 なぜジェレミー殿下と会っているかというと、彼がこの事業の責任者だからだ。国王陛下はこの事業で彼に王族として手柄を上げてほしいようだった。

 確かに成功したらジェレミー殿下に箔が付くのは間違いない。

 ジェレミー殿下に案内されて、私は部屋に入った。この部屋はジェレミー殿下の執務室らしく、殿下が執務を行う机以外に、来客用なのか、ソファーとテーブルがあった。すでに部屋にいたジェレミー殿下以外の二人はソファーに座っている。ジェレミー殿下に促されて私たちは対面のソファーに座った。

 ジェレミー殿下は私の横にいるルイスに声をかけた。


「ルイスも来たんだな」

「婚約者が呼ばれたのだから付き添うのは当然でしょう」

「以前のお前だったら来なかっただろう」

「もうあの頃とは関係性が違います」

「ほう……」


 ジェレミー殿下が面白そうに笑みを深めた。


「どれ、詳しく……」

「ジェレミー殿下」


 ジェレミー殿下の声を遮ったのは部屋にいたもう一人の人物だ。

 さらりとした青色の髪を後ろに束ね、薄紫色の瞳をした、メガネをかけた人物。知的さが外見からもわかる彼は、メガネを手でクイッと押し上げた。


 サディアス・ベレンティー。

 宰相の息子で、ジェレミー殿下の右腕であり――そして攻略対象の一人である。


 ちなみに前回の国王陛下との話し合いのときもいた。一言も話していなかったけれど。


「雑談は先に仕事の話を終えてからにしましょう。時間は限られているのですから」

「それもそうだな」


 そう、時間は限られている。何せ私が病弱だから。

 サディアスに諭されて、ジェレミー殿下は素直に聞き入れた。この素直さもジェレミー殿下のいいところよね!


「それで、どのように学校運営をするか、考えてきてくれたのか?」

「はい。こちらの資料をご覧ください」


 私は手にした資料をみんなに配った。


「まず試験的に運営する学校を作るべきです」

「試験的?」


 私は頷いた。


「いきなりあちこちに学校を作ってやっても上手くいかないことが多いと思います。国民の中でも、本当にこれが必要かわからない人から見たら税金の無駄遣いに思われるだろうし、問題点もわからないまま学校運営を開始してしまったらトラブルばかりになってしまって、各学校への対処が追いつかないでしょう」


 だから、と私は言葉を続けた。


「一箇所でまずやってみて、その結果を踏まえて改善点など探していき、また国民にも学校というものを周知させるのです」


 学校というものを知らなければ、まず通おうとは思わない。平民にとって子供も労働者の一人として数えられる。そんな貴重な働き手を学校というよくわからないところに入れたら、その分家庭の稼ぎが減る。当然反発が起きるはずだ。

 だからまず子供を学校に通わせた方が得だと言うことを国民に教えなければいけない。


「以前この近辺にあった学校の跡地を見つけたので、そこを再利用したら一から建てるより安く済ませられます」


 資料を見ながらみんな感心したように口から息を吐き出した。


「確かにこれなら当初の予定より早く取りかかれるな」

「あなたにこんな知恵があったとはな……」


 サディアスが私を少し小馬鹿にしたような発言をした。


「それはどういう意味だ?」

「そのままの意味です」


 私は気にしてなかったのにルイスが聞き捨てならなかったらしい。

 いがみ合ってしまった二人を慌てて止めるように私は次の議論に移った。


「あとは、教材作りをどうするかですね」


 これも中々難しい。一般教養というものを卒業までに身につけられるように計算して作らなければならない。その上個人的な主観が入らないようにしないといけない。


「そのことだが……」


 ジェレミー殿下が私を見た。


「君に栄養についての教材作りを願いできるかな?」

「え……」


 私が教材作り……? 何の? 栄養の?


「ムリムリムリムリ!」


 私は慌てて拒絶した。当たり前だ。私の健康知識はあくまで趣味だ。本格的に学んだものでもないのに、そんな責任重大なことはできない。


「だが、君以外に適任がいない」


 しかし、私の拒絶はバッサリ切り捨てられてしまった。


「健康のことなどあまり意識せずに生きてきた人間がほとんどの国なんだ。君は健康について知恵を付ければいいと言ったが、その知恵を教えられる人間がいない」


 確かに栄養の専門家など、この国にいるとは思えない。

 思えないが、だからといって素人レベルである私がやってしまっていいのだろうか。


「難しいことまで教えなくてもいい。君の思う必要最低限の知識を教えてくれればいいんだ」


 義務教育レベルぐらいということだろうか?

 小中学校の家庭科レベルなら私でもいけるかも……。

 真剣な表情で頼み込むジェレミー殿下を見て、私は覚悟を決めた。


「わかりました! やります!」

「ありがとう、フィオナ嬢!」


 私が健康について知識をつけたほうがいいと言ったのだ。乗りかかった船だ。やってみよう。


「それからエリック。君も手伝ってくれないか?」

「僕も?」

「君の国の知恵を貸してほしい。君もこの国は遅れていると思うだろう?」


 ジェレミー殿下の言葉に、エリックは首を横に振った。


「いいや、この国だけでなくて、どの国もリビエン帝国に比べたら遅れてるよ。あの国はこの世界でも異例だからね」


 そうなんだ。頭一つ抜き出た先進国というところなのだろうか。


「少しでいいからその知識をわけてくれないか?」

「……」


 エリックは少し逡巡した。


「今の僕の仕事のメインはフィオナ嬢の主治医だ。……だから、それに支障が出ないなら、いいよ」

「ああ! もちろんだ!」

「それと」


 エリックが手を差し出した。


「金ね」

「……わかった」


 エリック……しっかりしてるわ……。


「剣術などは」

「俺!」


 難しい話だと思ったのか、部屋にいながら窓の外を見ていたニックが手を挙げた。


「剣術はもちろん俺がやる!」

「適任だな」


 揉めることなくニックに決定した。

 ニック……色々言ってやりたいことはあるけど、あとでまとめて言ってあげるから待っててよね。

 私の視線を感じたのか、ニックがゾクリと背筋を震わせた。


「あと残りは……」

「私がやります」


 サディアスが手を挙げた。


「だが量が多いぞ」

「私は勉学には自信がありますし、問題ありません」


 サディアスが私に視線を向けた。


「フィオナ嬢より良い教材を作ってみせます」


 ……ん?

 要所要所で気になる言い方をする。だが、今のはきっと気のせいではないだろう。

 サディアスは私に対抗意識を持っている。らしい。

 なぜだかわからないが、今睨まれていることから間違いない。

 なんでだ。今まで彼と絡むことなどなかったのに。


「必ず彼女よりいいものを作ってみます」


 燃えるサディアスにジェレミー殿下は気づく様子もなく「そうか、頑張ってくれな」と答えた。

 ……そういえば、ジェレミー殿下はちょっと鈍感なキャラだった気がする。察しがよく、先回りしてヒロインを溺愛するルイスと違い、すれ違ったりするハラハラドキドキ感を楽しむのがジェレミー殿下の攻略ルートだった。


 これは、ちょっと面倒くさいかも。

 そう思う私を尻目に、ニックは「腕立て二千回させて、走り込みも必要だ!」とサディアスとは別の意味で燃えてしまって、これをどう止めるかを私は考えていた。



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