番外編:ルイスと祖母
「ルイス」
元気になった祖母がルイスを呼んだ。
「お前、どうするんだい」
「どうするとは?」
祖母の言いたいことがわからず、ルイスは首を傾げた。
「はあ……鈍い子だねぇ。フィオナのことに決まってるだろう?」
「フィオナ?」
フィオナがどうかしたのだろうか。
「お前、あの子に惚れたんだろう? いや、前から惚れていたか。まあ今はそれはどうでもいい」
どうでもよくないことを流された気がしたが、ルイスはひとまず黙っていることにした。
「あの子、お前にまったく気がないじゃないか」
祖母の遠慮のない言葉がルイスの胸を抉った。
「おばあ様……」
「なんだい。本当のことだろう」
そうだとしてもそんなにはっきり普通の人は言わないのだと教えたい。
しかし言い返したら100倍になって返ってくることがわかってたからルイスは黙った。
「あれはいい女だよ」
祖母が酵母パンを手でちぎって食べる。
フィオナのおかげで祖母の容態は急激に良くなった。フィオナの指導の元、顎の筋力のトレーニングも始め、おかげで柔らかい物以外も食べられるようになった。
祖母は顔に出さないが、とても嬉しそうだ。
「なんだい、じっと見て」
「なんでもないです」
あまり見ているとまた不機嫌になる。祖母は気難しいのだ。
「とにかく、あの子を逃がしたら許さないよ。あの子のこと、気に入ってるんだからね」
祖母が牛乳を飲み干した。
「なんてったって、若い頃のあたしに似てるんだから」
一瞬時間が止まった。
「なんだいその顔は。何か言いたいのかい」
「いえ、別に」
「嘘を言うでないよ。どうやったらそんなに渋い顔になるのかというほどの渋い顔してたじゃないか」
思いっきり顔に出てしまったらしい。
でも仕方ない。一瞬フィオナと祖母を重ねてしまった。
ルイスは祖母を見た。
――大丈夫、フィオナはもっと愛嬌がある。
「お前、失礼なこと考えてるね」
「考えていません」
「あたしだって若い頃は可愛かったんだからね」
「そうですか」
「……信じてないね?」
「そんなことないですよ」
祖母がふんっ、と鼻を大きく鳴らした。
「あとで肖像画見せてやるから可愛かったら謝りな!」
「はいはい」
祖母を軽くいなすと、祖母も落ち着いたようでパンをちぎった。
「逃げられないように相手の喜ぶことをしてやりな」
「相手の喜ぶこと?」
ルイスはフィオナと過ごして彼女が喜んだことがあるものを探そうと記憶を遡った。
「……わかりません」
「はあ? わからない?」
祖母が呆れた声を出す。ルイスがいたたまれない。
「お前はどれだけフィオナに向き合わず蔑ろにしてきたんだい?」
「返す言葉もございません……」
「今のお前の好感度はマイナスだろうね」
祖母の言葉は飾らないからこそグサグサと胸に刺さる。
祖母の言う通りだ。フィオナと向き合わず、フィオナの事情も知らないで勝手に彼女を嫌った。彼女の体調についても、気付くチャンスはあったはずなのに。
落ち込んだルイスを見て、祖母はため息を吐いた。
「プレゼントの1つでも渡すんだね」
「プレゼント」
「どうせお前のことだからろくにあげてないんだろう?」
「……」
確かにあげていない。お互い仲が悪かったから誕生日など花束を義務的にあげるだけだった。
「例え気に入られなくてもいいから何かしらあげるんだ」
「気に入られなくてもいい?」
「ああ。『あなたを気にしています』と行動でまず示すのが大事だからね」
「なるほど……」
確かにプレゼントは分かりやすいアピールだろう。
「相手が好むものは接していくうちにわかるもんだ。今は仲良くないからね。話の取っ掛りにしたらいいさ」
いちいちルイスの傷つくことを挟んでくる祖母は意地悪である。それだけお気に入りのフィオナに厳しい態度をとっていたことに怒っているのだろうが。
だが、なんとかフィオナとの仲を修復させたいという思いも伝わってくる。
「どうせ結婚するとしても、思いが通じあっているかどうかで、その暮らしはだいぶ変わるものだよ」
祖母とおしどり夫婦だったという今は亡き祖父。祖母は祖父と思いが通じあって幸せだったのだろう。
「さてと」
食事を終えた祖母が立ち上がった。
「ちょっと待ってな」
祖母がルイスに言った。
「肖像画を見せてやるからね!」
……。
「気にしてたんですね」
可愛いと思っていなかったことを根に持っていたらしい。
祖母はドスドスと足音を立てて肖像画を探しに行ってしまった。
その足音の元気さに、ルイスはホッと安堵の息を吐くのだった。
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