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18、フィオナの願い



「なんだい! まーた来たのかい! 暇なのか!?」


 元気すぎるわ……


 私はおばあ様が順調に回復しているか確認するために訪れたハントン公爵家で、健康チェックするはずだったルイスのおばあ様本人になじられていた。

 いや、彼女からしたらこれはただの挨拶なのだろう。上流階級なのに口が悪い。いや、上流階級だからこそ、咎める人もいないからこうなってしまったのか。それとも年齢もあるのか。

 とにかく口の悪いおばあ様とルイスとの気まずい昼食をとることになってしまった。


「お元気そうで何よりです」

「ふん、お前が余計なことをするから死に損なったわ!」


 そう言いながらしっかりご飯を食べているようで安心した。

 おばあ様が食事を取れなくなったきっかけは顎の筋肉の低下だったらしく、顎を鍛える運動も始め、また固いものが食べられるようにトレーニングをしているらしい。

 おばあ様は、チラッと私を見る。


「お前はどうなんだい?」

「え?」

「身体の調子はいいのかい?」


 おばあ様には、ルイスから私の身体の弱さは伝わっている。その方が今後何かといいかと思ったのだ。

 しかし……まさかあのおばあ様が、私を心配してくれているのだろうか。

 私は驚きながらも答えた。


「えっと……以前よりは体力も付いたかと」

「ふん」


 おばあ様が私を観察するようにじっと見つめる。


「まだまだ細いじゃないか。そんな身体で子供を産むつもりかい?」

「こ、子供!?」


 驚いてスプーンを落としそうになった。


「子供って……」

「曾孫まで見せてくれるって言ってただろう」

「聞いてたんですか!?」


 あの話をしていたのはルイスのおばあ様の部屋だった。てっきりおばあ様は眠っているとばかり思っていたのに。


「あたしはね、年はとってるが耳はいいんだよ」


 トントン、とおばあ様が指で自分の耳を突く。


「元気な曾孫を産んでもらわなきゃ困るね。しっかり食べな」

「え、あ、あの……」


 あの会話の曾孫を産むのは私ではなく、婚約破棄したあとに、他の人とルイスが一緒になったら、という前提の話でして……


 と言いたいが、機嫌の良さそうなおばあ様に話して機嫌が急降下したらと思うと今言えない。まだ病み上がりだし。


「お前でも食べられるように、ルイスに聞いて用意させたご飯だからたんまり食べな」

「あ、ありがとうございます」


 確かに肉も脂身が少ないもので、野菜多めのメニューにしてくれていた。病み上がりのおばあ様用かと思っていたが、私のためだったらしい。味もさすが公爵家お抱えのコック。素晴らしい味できっと王宮の料理にも勝るとも劣らない出来だ。


 と考えて頭にパッと我が家の料理長が「お嬢様~」と泣いてる姿が思い浮かんだ。料理長! 我が家の味も大好きよ料理長!


「それにしても、医者も匙を投げるような病を治しちまうなんて、さすがあたしが選んだ子だね」


 褒められている……と思っていいのだろうか。


「あの……おばあ様はなんで私をルイスの婚約者に……?」


 実はずっと気になっていた。

 ルイスの相手に見合う相手は何人もいたはずだ。公爵家と縁続きになりたい人間など山ほどいる。それこそ選り取りみどりだったはずだ。

 その大勢いる中から、なぜ私を選んだのか、ずっとわからなかった。


「ああ、それは……」


 おばあ様は私を見た。


「勘だね!」


 私はブロッコリーをフォークで刺したまま固まった。


「か、勘ですか……?」

「ああ。勘」


 おばあ様は頷いた。


「あのとき……ルイスの婚約者を決めるために、同年代の子供を集めたパーティーを開いた。みんな色めき立つ中、お前だけはツンとすました顔で立っていた」


 それたぶん体調悪かっただけじゃないかなあ~~!?

 そのパーティーが開かれたのは7歳のときだ。もう記憶もあまりないが、たぶん「辛い……早く終わらないかな……」と思ってたんだと思う。


「その姿を見て、お前ならしっかりした女主人になりそうだと思った。そしてあたしの勘は当たったようだね」

「そ、そうですか?」


 しっかりしていると言われて悪い気はしない。成人していた前世の記憶もあるんだからしっかりしていないとまずいだろうという気もするが、それはそれ、これはこれだ。


「それにルイスも」

「おばあ様」


 おばあ様が何か言おうとしたのをルイスが遮った。おばあ様は楽しそうに「まあいい」と続きは言わなかった。

 気になる。言ってほしい。

 しかし、おばあ様もルイスも続きを教えてくれる気はないようだった。


「生き長らえちまったものは仕方がないからね。お前たちの子供を見るまでは生きてやるとも」

「え、いや……」

「なんだい?」


 おばあ様がギロッと私を見た。


「まさか、ルイスが気に入らないのかい?」

「いいいいいえいえまさかそんな!」


 私がではなく、ルイスが私ではなくヒロインを選ぶんですよ!


 と言いたいが言えない。ヒロインが現れてない今、そんなことを言っても頭がおかしいと思われてしまう。


「ふん、ならもっと食べて体力を付けな! 元気な跡取り産んでもらわないといけないからね!」


 おばあ様に促されて料理をまた食べ進める。

 私はルイスへ視線を向けた。私に気付いたルイスが笑う。


「おばあ様なりに感謝を伝えているんだ。素直に受け取ってくれ」

「……わ、わかったわ」


 私たち険悪な仲だから、おばあ様がくっつけようとしてくるのが気まずいからフォローしてほしくて視線を送ったのだが、そう言われると素直に応じるしかない。

 せっかく元気になったのだ。いらぬ波風は今立てなくていいだろう。


「もうお腹がいっぱいなら、散歩でもしてきな。婚約者とは仲良くするもんだよ、ルイス」

「はい、おばあ様。じゃあ行こうか、フィオナ」


 ルイスがこちらに手を差し伸べる。

 え、困る。

 そう思うが、そんなことを言われて断れるはずもない。

 私はルイスの手を取った。



◇◇◇




「わあ~! 綺麗!」


 気乗りしなかったルイスとの散歩だったが、ハントン家の庭は素晴らしかった。

 色とりどりの花が咲き誇り、まるで妖精の国のようだ。


「おばあ様は庭が好きで、拘って手入れしているんだ」

「素晴らしいわ!」


 私は花に顔を寄せる。甘い香りが漂ってきた。

 我が家の庭は私のせいで畑になってるからなぁ……

 景観を楽しむということを思い出したわ。もう少し花が咲くハーブとか育てようかな。


「フィオナ」


 ルイスが私を呼んだ。

 私が振り返ると、ルイスが真剣な表情でこちらを見ていた。


「本当にありがとう」


 そして頭を下げた。


「祖母が元気になったのはフィオナのおかげだ」

「そんな……私はアドバイスしただけでその後はルイスが頑張ったじゃない」


 あの頑固なおばあ様だ。初めは提案した食事を食べたくないと言ったりしたに違いない。そのおばあ様を説得して食事を取らせたのはルイスだ。

 元気になるまでたまに様子を見に行ったが、食べたくないと駄々をこねるおばあ様を根気よく説得していた。ルイスの努力がなければ、おばあ様は今のような日常生活には戻れなかったはずだ。


「いや、あのまま原因不明だったらどうなっていたことか……そういえば」


 ルイスが首を傾げた。


「どうしてフィオナはあの病気を知っていたんだ?」


 ギクゥ!


「そ、それはその……」


 どう言い訳しようか。

 転生前の私が健康オタクを拗らせて偏った食事をするとどうなるかまで調べまくった結果だなんて言えない……!

 そもそも前世のこととか言ったら頭がおかしいと思われてしまう!


「む、昔本で読んだことがあって……」


 困った時のお手軽言い訳。「本で読んだ」

 1度ならず2度目もこの言い訳を使うことになろうとは……。


「へえ、どんなタイトルの本なんだ? 読んでみたいな」

「昔過ぎて忘れちゃったの」


 お手軽言い訳その2。「忘れちゃった」

 きっと私だけでなく転生者はこれをよく使ってるはずよ。知らないけど。


「そうなのか。残念だな」


 うっ、毎回言い訳する度に罪悪感が……! みんなが存在しない本を残念がってくれるから……!

 いっそいつか偽名で本を出そうかしら。婚約破棄したあとスネかじりするつもりだったけど、可能なら独り立ちはした方がいいし、いい収入源になるかも。


「まあ、本はそのうち探そう。それから」


 ルイスが私に近づいた。


「何か願いはないか?」

「願い?」


 なんで?


「祖母を助けてもらったお礼と言ったらなんだが……何か俺にできることがあったら言ってほしい」

「ルイス……」


 おばあ様を助けてから、今までの私への態度から一変、とても優しくなったと思っていたけど……


 まさか願いを叶えてくれるほどだったなんて!

 あるわよ願い! ルイスにしか叶えられない願いが!


「婚約破棄したいの!」



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