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【完結】株式会社SETA異世界派遣部~眠れる魔王と勇者の子孫~  作者: BIRD
第4章

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第34話:無に還る者

母の霊が消えた後、フォンセはしばし無言でその空間を見詰めていた。

今更謝られても幼少期に負った心の傷が癒えるわけではない。

言うだけ言って成仏していった霊に腹立たしさも感じる。


「嫌な思いをさせてごめんね。私がそうしたかったから連れて来たの」

それを理解しているロミュラは、フォンセを抱き締めたまま優しく頬を寄せた。

フォンセもロミュラの事は拒まず、静かにその抱擁を受けている。


「ロミュラ、俺が捕らえられた後の事を教えてくれ」

896年間眠らされていた男は、心を委ねる魔族に情報を求めた。

「私は多分、貴方が捕らえられた頃には死んでいたわ」

紫水晶を思わせる美しい魔族の女性は、穏やかな口調で告げる。

「…殺されたのか」

抱き締められたままの腕の中、フォンセが自分の手をグッと握り締める。

「それで転生したから今こうしてここに来てるのよ」

怒りが湧き始めた彼を宥める為、ロミュラはその背を撫でた。

「魔王様も殺されたのか?」

最後に見た魔王の姿を思い出しつつ、フォンセは問う。


何者かが放った強烈な神聖力を浴び、存在力(エナジー)を全て失った魔王。

虚弱な身体に生まれ、意識を保つ事もままならなかった子供。

勇者たちが攻め込んで来た時に転移魔法で逃がしたが、同じく逃がしたロミュラが見つかって殺されたのなら、魔王も殺されたのだろうと推測した。


「いいえ。魔王様は殺されず、勇者に連れ帰られたそうよ」

「殺されなかった? …ああ、そうか。これと同じ物に封じたのか」

ロミュラの言葉にフォンセは一瞬意外そうな顔をしたが、自身が今座っている魔道具に目を向けて状況を把握した。

転移者の賢者シロウが創る魔道具。

フォンセが性能を理解出来るものではなかったが、死んだロミュラが転生してくるまで数百年以上、それと再会した自分が生きている事から推測は出来る。


「それで、ロミュラは魔王様を救出したのか?」

「魔王様は勇者の子孫の使い魔になったわ」

「は?!」

しかし想定外の情報に、フォンセは目を剥く。

極大魔法1発で国を滅ぼす魔王を従属魔法で従えるなど、人間の魔力で出来るとは思えない。

攻め込んで来た黒髪の勇者と茶髪の双剣士は転移者だが、魔王に提供し続けられる程の魔力ではなかった。


「そして、私も同じ主の従魔になったの」

ロミュラは前髪を掻き分けて、額にある小さな印を見せる。

「あと、黒竜と魔道兵1人と犬神も従えられているわ」

「その勇者の子孫は人間か?」

従魔術は闇魔法なので、フォンセも使える。

よく知るからこそ、5体、それも魔王や竜のような超常のものを従属させられる者に戦慄した。


「会わせてあげるわ」

ロミュラは微笑み、隠れて様子を見ているエリシオとルシエに念話を送る。

人型に戻ったルシエを抱き、チビ黒竜のクーロ、犬神の白雪、魔道兵のザグレブを従え、転移魔法で現れる少年エリシオ。

「!!!」

人間とは思えぬ膨大な魔力に、フォンセは驚愕した。

その黄金の髪から、1人の人物を思い出す。

「…トワの勇者…か?」

呟きに、エリシオがキョトンと首を傾げる。


あの時、勇者は2人いた。

転移者である黒髪の勇者と、初代の転生者と噂された金髪の勇者。

目の前に現れた少年が放つオーラは、その金髪の勇者に似ていた。



「魔王様は今のこの世界を滅ぼさず、この少年と共に見守る事を望まれているわ」

呆然とするフォンセを抱き締めたまま、ロミュラが穏やかに話す。

「貴方に辛い思いをさせた闇属性への嫌悪は、貴方の母が子孫の属性を全て闇にしていたから、今のペンタイア家には無いわ」

ロミュラの言葉に、フォンセはまた驚く。


ペンタイア家の呪いは、フォンセの母の霊が一族に与えたものだった。

聖女を生み出す光の一族、彼等に受け入れてもらえなかった我が子への、贖罪の為に。


フォンセは、深く溜息をついた。

全ての思いを吐き出すように。


「ロミュラ、俺に存在力強奪(ロブエナジー)を使ってくれ」

彼は望んだ。

魂も消滅させられる魔法を持つ、唯一の魔族に。

「このくだらない世界に転生などしたくない。俺を(ゼロ)にしてほしい」

灰色の双眸から流れて落ちる雫は、悲しみと悔しさが混じるもの。


「そうね。今の貴方には、そうしてあげる事が救いとなるのでしょう」

使う必要が無くなった生命維持の管を取り外しながら、ロミュラは言う。

身体の動きや魔法を封じていた真珠の揺り籠(パールクレイドル)との接続から開放されたが、フォンセは暴れ出したり魔法を発動したりはしなかった。

エリシオたちはそっとその場を離れた。

フォンセの傍にはロミュラだけが残り、その腕の中で最期の時を迎える。


「俺の魂は、ロミュラが貰ってくれ」

「それは、あの日から私のものよ」

それが、最後に交わした言葉となった。

フォンセは安らいだ笑みを、ロミュラは慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。


ロミュラはフォンセと唇を重ねながら、魔法を発動させる。

肉体も魂も、全存在を奪う魔法。

それはかつて、多くの人々を消し去った力。

今は自らを慕う相手に、安らぎをもたらす為に使う。


フォンセの肉体と魂は消え、紫色の光と化してロミュラの胸に吸い込まれた。



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