第16話:従魔契約
呆気なく降伏した黒竜は、ロミュラがいる異空間牢に収容された。
「お前も捕まったのね」
ロミュラはさほど驚かなかった。
「魔王様があちら側についていますし、圧倒的に強い相手に喧嘩を売るほど愚かではありません」
同じ空間に入ったチビ黒竜は、ロミュラに近付いてゆくとその膝の上に乗った。
「他の者もそなたのように物分かりが良ければ助かるのだが」
透明な壁の向こう側からエリシオに抱かれた猫ルシエが話しかける。
「っていうか黒竜がこんなにしおらしいのは初めて見たよ」
その横にいる神竜シアンが言った。
「無抵抗過ぎて拍子抜けしたわ」
シアンの隣にいるセイラも言う。
「転生を繰り返している古代人は何人いるの?」
エリシオがルシエに問う。
彼はあえて魔族とは言わず古代人と呼んだ。
「転生の秘術を付与されたのは我と側近、魔道兵たち。合わせて10万ほどであったが、多くは我に存在エネルギーを提供して魂ごと消滅したゆえ、今はおらぬ」
答えたルシエは、永久消滅した配下を憂えて目を伏せる。
「986年前は魔王様が力をお使いにならなかった故、魂を捧げた者はおりません」
ロミュラが告げる。
その膝の上で丸まったチビ黒竜は、彼女に撫でられて心地よいのかウトウトし始める。
囚われの身にしては随分と落ち着いているのは、降伏した時点で覚悟を決めたからかもしれない。
「それでよい。もう我は滅びの魔法など使わぬ」
ロミュラと黒竜に穏やかだが憂いのある眼差しを向け、ルシエは言った。
「随分変わったわね」
そんなルシエを見詰めて、セイラが言う。
「この国を見て悟ったのだ。戦力よりも生活力を高める方が民の幸せになる、とな」
ルシエはセイラにも穏やかな眼差しを向けた。
そこには世界や人類を滅ぼそうとした頃の表情は全く無かった。
「ロミュラはどうだ? まだ我らの文明を復活させたいと思うか?」
ルシエは再びロミュラに視線を向ける。
「………いいえ」
ロミュラはしばし俯いて思案し答えると、エリシオに視線を向けた。
「神の如き魔力の持ち主よ、私も貴方の使い魔にして頂けるかしら?」
「え?!」
唐突な要望に、驚くエリシオ。
「な、何言い出すのよ! あんたまで光抵抗を持つ気?!」
セイラも慌てて言う。
「その姿のままだと騒がれるから、何か動物の姿になった方がいいわ」
ソレミアは冷静で、ストレージから変身アクセサリーを出すと、ロミュラの方へ転移させた。
変身用の生体情報の中から、ロミュラはルシエと同じ猫の姿を選ぶ。
ロシアンブルーのような光沢感のある銀青色の被毛、目の色はアメジストのような紫の美しい成猫となった。
「また増えちゃった」
エリシオは苦笑しながら言う。
ナイフで指先に小さな傷をつけて血を垂らす、額にそれを受けるのはロミュラ。
「従魔契約」
契約魔法が起動する。
猫ロミュラを赤い光が包み、それが消えると額に赤い小さな魔法陣が描かれた。
牢の中にポツンと取り残されているのはチビ黒竜。
猫ルシエはそれをチラッと見て、エリシオに提案する。
「エリ、あれもついでに」
「え?」
「ん?」
前足でチビ黒竜を指し示す猫ルシエと、キョトンとするエリシオ&チビ黒竜。
「仲間がいっぱい出来て楽しいね!」
白雪だけが無邪気に喜んでいる。
結局、黒竜もエリシオの使い魔となるのであった。




