47:ヒーローらしくないヒーロー 〜sideパレクシア〜
「パレラ姉様、助けに来ましたよ」
そう言ってアタクシの檻の前に顔を覗かせたのは、弟である第一皇子パットだった。
ぷくぷくに太ったぽっちゃり体型は相変わらずみたい。数ヶ月ぶりに見た彼は無事そうで、そんな場合じゃないとあhわかっているけど安心してしまったわ。
猿轡が外され、手足の拘束が解かれる。
ああ、やっと自由になった。
「パット、遅いわよ。このまま朝を迎えちゃうかと思ったじゃない。……べ、別に感謝してないわけじゃないけど。ってか早く檻から出してよね!」
「はいはい。元気そうで良かったです」
ガチャガチャと音がして、檻が開く。
きっと牢番から奪ったに違いない。この子、こう見えてある程度剣の腕はあるから、地下牢に来るのもそこまで苦労しなかったと思う。本当に心強い弟だ。
「とりあえずこの城から抜け出すわよ、パット」
「もちろん。……でもパレラ姉様、この先どうするつもりですか。隣国までも追って来るのであれば、このまま逃げ続けているわけにもいきません。パミラ姉様をどうにかした方がいいのでは」
ボールのような体を弾ませて歩きながら、パットがそんなことを言う。
確かに彼の言う通りなのかも知れない。しかしアタクシは首を振った。
「アタクシにあの子を殺せっていうの? そんなのできないわ。……あなたの力があれば勝てるってことはわかってる。それでも、やっぱりあの子は――」
アタクシの妹だもの、と続けようとした言葉は、だが続かなかった。
なぜならその瞬間、城が大地震に襲われたかのように震えたから。
「ひっ――!」
「パレラ姉様、しっかりっ」
立っていられないような揺れがアタクシたちを襲う。咄嗟に壁に寄り掛からなければ間違いなく転んでいたでしょう。
一体何が起こったのかと考える暇もなく、ドゴォーーンと地の底から響いて来るかのような轟音が響き渡る。まるでこの城が破壊されたかのような、そんな音。
「……あれ、何?」
ようやく揺れが収まってからアタクシはパットに訊いた。
これが彼が呼んだ援軍とかによるものだったらどんなに良かったでしょう。でも、
「知るわけないじゃないですか。……困ったな、出口を塞がれた」
パットの仕業じゃなかった。
当たり前よね、もしそうならなぜ地下牢の出入り口を封鎖するのかわからないもの。
だからと言ってパミラがやったとも思えない。そう考えると答えはすぐに見えて来た。
「あーもう最低っ! ヒーローならヒーローらしく、やり方を考えなさいよね!」
アタクシはやけくそ気味になって絶叫した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから救助がやって来たのはどれほど後だったかしら。
まったく、いい迷惑だわ。あのまま放っておいてくれたら少なくとも崩壊に巻き込まれることなく外に出られていたっていうのに。
そのくせ顔を見せた途端、こう言うのよ。
「……遅れて悪い」
「別に待ってないわ」
崩壊した出入り口をこじ開けて現れたのは、アタクシのご主人様であるあの男だった。
返り血一つ浴びてない姿を見ると、きっと剣を交えることはしなかったのでしょう。情けない。どうしてこんな男が好きになったのか、さっぱりわからない。
でもやっぱり好きなのよね。
「ここまで来たその心意気、見事だ。褒めて遣わす」
アタクシは女帝だった頃の口調でそう言って、彼をぎゅっと抱きしめる。
男は嫌がることなくアタクシを受け入れてくれたわ。
ああ、アタクシは、この男をずっと求めていたのね。心の底から溢れて来る喜びを噛み締めながら、そう思った。
……ちなみにその一部始終をただ見守ることしかできなかったパットは、目の前の出来事が信じられずにしばらく立ち尽くしてしまったみたい。
せっかくアタクシを連れ出そうとしてくれたのにすっかり蚊帳の外だったんですもの。パットには悪いことをしたわね。
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