46:女帝フルボッコ
「ワタクシが勝利を確信していない戦を始めるとでも思っていて、女帝陛下?
ワタクシ、神に愛されておりますの。ですから決して負けるというようなことはございませんが、それでも強大な敵員はそれなりの備えをして立ち向かう程度の心構えはありましてよ。
つまり、あなたはそれにすら足らぬ器ということですわ。何せこちら側には聖女であるワタクシと魔女がいるのですもの、最初から勝負は決したも同然ですものね」
「な、何を……!」
帝座の間の壁まで吹き飛ばされたパミラが、尻餅をつきながらトーニャを睨みつけている。
一体自分が何をされたのか、理解できていないのだろう。側から見ていた俺にもわからないのだから当然だ。
多分、トーニャが何かの力を使ったのだと思う。
危機一髪で命を救われたアリサは、俺の腕の中でへたり込み、「怖かったですぅ……」と震えている。俺は彼女を抱いてやりながら、トーニャとパミラの攻防戦――もとい、トーニャの独壇場を見守った。
「レシーア王国の属国になれ、とまでは申しませんわ。お姉様に負担をかけるわけには参りませんもの。ですからここは、ワタクシに忠誠を誓い、雌犬として飼われることを良しとすれば許してやることにいたしますわ」
「そなた、妾を侮辱する気か!」
「化けの皮が剥がれた後で取り繕っても無意味でしてよ。ああそれと、そのハンマーは邪魔っけなので消しておきますわね」
再びハンマーを振り上げようとしたパミラだが、それはすぐに消えてなくなった。
ここまで来ると、パミラ女帝のことを哀れにすら思う。いや、もちろんパレクシアを誘拐の上に処刑しようとしたことは許せないが。
「こうなれば徹底的に叩きのめし、わからせて差し上げるしかないようですわね。面倒臭いですわ。ピンク頭とウィルドも手伝いなさい」
何を手伝わされるのかはわからないが、あまり手荒なことでなければいいのだが……。
そう祈りながら、アリサを腕の中に抱き込んだままで渋々トーニャの方へ向かったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――そして数十分後。
「ああもう! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいだから許してください――!!!」
帝座の間に甲高い悲鳴が響くのを聞きながら、罪悪感で打ちのめされそうになっていた。
謝罪を繰り返し、泣き喚いているのは金髪巻き毛の女、言わずもがなパミラ・エトペチカ。
そして彼女の尻をトーニャがしばきまくり、アリサがパミラの背中に馬乗りになっていじめている。ちなみにパミラは現在、四つん這い状態だった。
かなりの身分を持ち、この帝国を治めている人物というのはもちろんだが、一人の女の子としてパミラを見てもこんな屈辱的な仕打ちはひど過ぎる。
だが、やんわりと止めようと思えば「ウィルドは相変わらずの役立たずですわね。それで騎士? ふざけるのもいい加減になさい」と心にグサグサくる毒をトーニャに吐きかけられたので、それ以上は言えなかった。
なので俺は申し訳なさでいっぱいになりながらトーニャとアリサの『作業』を見つめていることしかできない。
「……なら、パレラ・エトペチカの居場所を教えていただけますわね?」
「嫌。それは嫌っ。お願い、許して!」
「ダメですよー。だってアリサを殺そうとしたんですもん。簡単には許してあげませんっ!」
「わ、わかったから! 軽そうな見た目して重い! 私が潰れる!」
そんな問答の末に、パミラはすっかり折れたようだった。
そして彼女はようやく、パレラの居場所を吐いた。
「地下牢に……閉じ込めてあるわ。明日の朝処刑の予定だったから」
「そうですのね。なら、案内していただきますわよ」
「……わかったわよ」
悔しげな様子で、パミラは頷いたのだった。
哀れ。
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