43:密入城?
「こんなにあっさり侵入できていいもんなのか、帝国って……」
「ボクの魅了術さえあれば朝飯前さ。ここまで連れて来てあげたお礼に、ボクを最愛の女にしてくれてもいいんだよ?」
「…………」
最愛云々は置いておくとして、隣国に渡るにあたってルル――本性は魔女ルクルーレと明かされたが、それでもルルと呼ばれたいらしい――の魔法は非常に役立った。
魔法なんてレシーア王国ではごくごく限られた人物、王族に近い血筋の者しか使えないものだが、帝国では当たり前のように流通しているものらしい。
「まあ、その中でもボクは特別だけどね」とルルは笑う。笑顔が怖かった。
国境を乗り越えるために必ず必要な厳しい審査などはルルのおかげで全て切り抜けることができ、俺たちは今エトペチカ帝国にいた。
王国と帝国の縁はあまり深いとは言えず、俺にとっては完全に未知の国。見慣れない建造物が立ち並んでいる。
「何を道草を食っていますの、ウィルド。帝国の犬になりたくばそうなさい。ワタクシがここで速攻で始末して差し上げますわ」
「別に道草食ってないだろ! なんで急に物騒なこと言い出すんだ」
「ウィルド様、今、パレクシアおねーさんが危ないかも知れないんですよ。景色に目を奪われてる場合じゃないです!」
「そうだったな。あぁ、なんでこんなことになったんだよもう……」
そんな風にして俺はメイドたちに追い立てられるようにして歩かされ、気づいたらエトペチカの帝城の目の前へやって来ていた。
レシーアの城とは比べ物にならないほど大きく、金がかかりまくっているのがわかる。エトペチカは近隣諸国の中で一番力の強い国なので納得だった。
ここであのパレクシア……まあそれも偽名なのだが、ともかく彼女が育ったとは思えない。
こんなところで育てられたからこそ、あんなひんまがった性格なのか? そう考えると納得がいく。
「旦那様、考え事をなさっているのなら後にしていただけると助かるのですが」
「エメルダまで言うか」
「緊急事態ですので。旦那様は危機感がなさ過ぎます」
「だよなぁ……」
金髪メイドが連れ去られたということに、もちろん動揺がないわけではない。
だがあまりにも非現実的な話過ぎて、まだ色々と呑み込めていないのだ。そして今から自分が密入城という、捕まったらタダでは済まないような大犯罪を実行しようとしている事実も――。
「愚かですわね。危機感など抱く必要は皆無に決まっているでしょう。神に愛されるワタクシがいるのですもの、何も案ずることなどあるはずがございませんわ。ワタクシに任せていなさい。……魔女、城の結界を解きましたわ。適当なところに穴を空けなさい」
「言われなくてもわかってるよ。ウィルド様、ボクの真の力をしっかり目に焼き付けてくれよ」
何をするつもりだ、と尋ねようと俺が口を開いたその時。
ドカン、という轟音がして、巨大な城の右半分が粉々に砕け散った。
「これのどこが密入城なのでしょうか」
「いいじゃないですか、別に! ルルおねーさん、すっごーい! 見直しちゃいました!」
冷静にツッコミを入れるエメルダと、歓声を上げてはしゃぎ回るアリサ。
その二人の声を聞きながら、俺は頭を抱えずにはいられなかった――。
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