42:メイドたちを従えて、いざ隣国へ
「ウィルド様ぁ〜!」
騎士団詰所を出て、やっと重い鎧から解放された俺の耳にそんな声が届いた。
幻聴だよな、と思いたかったが、俺はそんな楽観的な性格はしていない。まさかお出迎えに来ましたとでもいうつもりなのだろうか。
……などと思っていたのだが。
俺の胸元に駆け込んで来たアリサが顔を埋め、泣き出した。
「ど、どうした?」
「ウィルド様、ウィルド様、ウィルド様ぁ……!」
なぜ泣きじゃくっているのかわからないままに、アリサは泣きまくる。
その間にエメルダとトーニャが当たり前のように俺の両サイドに立っていた。
「いつの間に来たんだ、お前たち」
「つい先ほどでございます」
「いちいち教えてやるつもりはありませんわ。さあ、ウィルド、行きますわよ」
「行くってどこへ……」
「これだから無能は困りますわ。あの動物小屋が隣国の不届き者によって潰されましたの。故にたった今隣国へ向かい、正義の鉄杭を振り翳しに行くのですわ。ほら早く」
「えっ。ちょっと待て。何言われてるのかわからないから説明してくれ!」
屋敷が壊れた? 隣国の不届き者? さっぱり理解不能だ。
首を傾げる俺に、エメルダが俺の不在の間に何があったのかの全てを教えてくれた――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
屋敷に戻ると、そこは残骸しか残っていなかった。
死体。死体。死体があった。死体と瓦礫の中、埋もれるようにして倒れる少女が一人だけいるのが見える。
「……ルル」
正直、俺としては好印象を抱いていない女ではある。
しかしトーニャの話を聞けば、この屋敷を最後まで守り切ったのは彼女だと言うではないか。それを聞いてしまうと、助け出さないわけには行かなくなってしまった。
瓦礫の山から引き摺り出す。
いつもの厚ぼったい前髪を分け、端正な顔を晒す彼女は可愛かった。一瞬ドキリとしてしまうくらいには可愛い。
「だが……安心はできない。隙を見せたらすぐにつけ込むからな……」
「ああ、おはようウィルド様。好きな男の弱みにつけ込むのは女の子として当然のことだから勘弁してほしいなとボクは思うんだけどな」
「……っ。お前、一体いつの間に起きたんだ」
「ずっと起きていたよ? ただウィルド様がボクの体に触れてくれるのが嬉しくて寝たふりをしていたのさ」
「一瞬でも可愛いと思った俺が間違いだった! こいつ魔女だ!」
「ああ、そうだとも。ボクは魔女ルクルーレ。てっきり気づかれていないかと思ったけど、素顔を見ればさすがにわかるようだね」
「もちろん知ってたぞ……ってそんなわけないだろ。どうなってるんだよ、俺のメイドたちは!」
ルルの言葉を真に受けるなら、俺の五人のメイドの中に聖女と魔女という相反する存在がいることになるんだが。
そんなのあり得るのか?と思っていると、トーニャがさらにわけのわからないことを言い出した。
「その程度で驚いていたら身が持ちませんわよ。そんなのでは早死にしますわ。
――さてと、隣国に連れ去られた元女帝でも助けに行きましょうかしらね」
「ちょっと待て。本気で待て。隣国に連れ去られた元女帝って誰のことだ? 俺、別に女帝と関係ないし。……まさかこの場に見えないパレクシアとかじゃないよな?」
「その名は正確ではありませんわね。パレラ・エトペチカ。エトペチカ帝国の帝座を追われた哀れな女帝でしてよ。どうせ愚かな雄犬は気づかなかったのでしょうけれど」
「…………」
もはや絶句するしかなかった。
もう一度言う。どうなってるんだ、俺のメイドたちは。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
隣国エトペチカに連れ去られたらしいパレクシア改めパレラ。
「パレクシアおねーさんを助けに行きましょう」とアリサが泣きつくので、だいぶん不安はあったが、メイドたちを従えて……というか逆に従えられているような気もするが、ともかく俺たち五人で隣国へ旅立つことになった。
「ボクの魔法があれば普通の五倍は速く走れる。馬車に追いつくのも容易いだろう」
「ありがたい。助かる」
「ウィルド様のためならボクは何だってするよ」
そう言ってくれるルルは頼もしい。
器量良し、従順さもあり、メイドとしてはなかなかいいと思う。ただしヤンデレじゃなければの話だが…。
「まったく。くだらないことを考えてるんじゃありませんわ。置いて行きますわよ」
「わかったから本気で置いて行こうとするな!」
状況はまだよく呑み込めていないままだし、慌ただしいことこの上ないがメイドたちは待ってくれない。
ドタバタしながらいざ隣国の地へ。
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