3:メイドになってくれ
肩までのピンク髪に澄んだ青空のような瞳。まだ幼いと言ってもいいあどけない顔立ち。
まじまじと観察するとその少女は、とても可愛らしかった。少なくとも社交パーティーに出ても馬鹿にされない程度には可憐なお嬢さんであった。
服が薄汚れているのが非常に残念だが、それでも可愛さをまるで損なっていない。なんだこの娘は。可愛すぎるだろう。
――驚愕に声も出ずに突っ立つ俺に、彼女はこれまた小動物のような愛嬌たっぷりの動作で首を傾げて言った。
「ど、どうしたんですか? もしかして怪我とかしてません?」
心配されてしまっているようだ。この女の子に、俺が。
……なんだ、こんなことで何を戸惑っているんだ俺は。舞踏会に行けばこのレベルで可愛い子などいくらでもいただろう。それに彼女は見たところまだ十歳ほどである。変な気を起こしてはいまし方やっつけた強姦魔と同じ穴の狢ではないか。しっかりしろ。
「あ、えーっと。だ、大丈夫だ。それより君の方こそ怪我は?」
やっとそれらしい言葉が出た。もうしばらく黙りこくっていたら本気で心配されていただろう。
「怪我はありませんっ! これもお兄さんのおかげです、本当にありがとうございます! アリサ、もう怖くて怖くてぇ……」
「どういたしまして。ところで、アリサというのが君の名前なのか?」
「はいっ! アリサっていいます!」
元気よく答える彼女。そうか、アリサか……などと口の中で呟きながら俺は、もう少し詳しい話を聞くことにした。
いくら助けたからとはいえそんなに簡単に喋ってくれるものだろうかと思ったが、アリサは子供らしい純粋さで何でも話してくれた。
「アリサ、この辺りでお母さんとずっと二人で生きて来たんです。家はなかったですけど、毎日毎日食べるものを探し回っていて。でもつい先日、お母さんが亡くなってしまって……。途方に暮れていたところをあの男の人たちに襲われてました。だから本当に、本当に助かりました! ありがとうございます!」
治安が悪いとは聞いていたが、ここまでだったとは驚いた。
住む家もないでずっと徘徊していたであろうアリサとその母親のことを思うと胸が痛む。……まあ、胸を痛めたところで今の俺にはどうしてやることもできないのだが。
でもこんな可愛い女の子を放置し、再び路頭に迷わせるのはなんとも心苦しい。なんとかならないものだろうか……?
と、その時、突然俺の中にいい案が閃いた。
「こんなことを自分で言うのはアレかも知れないが、一応俺は君のことを助けた恩人なんだよな?」
「はい。あなた様はアリサの命の恩人です!」
青い瞳をキラキラさせながら答えるアリサ。うぅ、可愛い。
「アリサにできることなら何でもします! お礼をさせてください!」
自分から言い出してくれるとはなんともありがたい。
俺は意を決して、言った。
「ならメイドになってくれ」
「はい!」
――あまりにも迷いのない即答だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
彼女をメイドとして俺が雇う。
そうすれば少なくとも男に襲われることはないだろう。ある程度の食べ物はもちろんのこと、屋敷を買う予定なので住居にも困らない。我ながらいい考えだと思った。
まあ、しっかり人一人を養える力が俺にあるのかは正直言って自信がないのだが……それは頑張るしかない。
俺はアリサの愛らしさに一目惚れした。だから俺の方こそできることなら何でもしてやりたいと思ったのだ。
しかし俺は完全なる勢い任せで、細かい諸問題のことは考えてもいかなかった。そのことをしばらく後で悔やむことになるのだが、すでにアリサはやる気満々になっていた。
こうしてたまたま助けただけのアリサという孤児の少女は、今この瞬間から俺のメイドになったのだった。
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