35:その夜、呑んだくれメイドたちは 〜sideトーニャ〜
「うぃるろさま、ぜっらいにゆるしましぇんからぁ!」
「そうよそうよ。サイテーよ、あの男。見損なったわ……ひっく」
「ぶちのめしてやろうかと本気で思いましたよ。あぁ、むしゃくしゃしますッ!」
「呪ってやる呪ってやる呪ってやる呪ってやる……」
メイド選手権などというくだらない遊戯が終わり、ウィルドが馬鹿をやらかしたので扱きまくったその夜のこと。
ウィルドは気絶し、仕事という最低限の職務さえ放棄中。そしてワタクシたちは酒瓶を開け、食堂に集っています。
机を囲んでいる呑んだくれどもの醜態を見つめながら、ワタクシはため息を吐かずにはいられませんでしたわ。
どうしてこう、誰も彼もが馬鹿なのかしら。酒を飲んだところであの男の愚かさは変わらないというのに。
あぁ、やっていられませんわ。
諸悪の根源は我が飼い犬、ウィルドですわ。
あの雄犬は頭が足りなさ過ぎて人間の言葉を理解できず、いつもろくでもない行動を繰り返す、愚者の極みですの。
ワタクシが寛大でなければ首を落としていることはまず間違いありません。せいぜい感謝してほしいものですわね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ウィルド・プレッディは忌々しいことにワタクシの幼馴染ですの。
容姿も頭もまるでダメで、ワタクシと到底釣り合うはずのない脳みそが腐り切った雄犬。親同士の繋がりがあるからと引き合わされ、ゆくゆくは婚約者にと言われていた男。
面倒を見てやっていたというのにそれに一切感謝することのないまま、勝手に伯爵家を追放されたという最悪の経歴の持ち主ですわ。
しかもその目は節穴以下で、ピンク頭の娘がかつての王子の娘であることも、金髪の女の正体も、黒髪の女が魔女だということすらまるで気づいていないという有様。仮にも伯爵令息として育てられたとは思えませんわ。
ワタクシが聖女であることすら気づいていなかったのですから当然といえば当然ですけれど。
「……本当にどうしようもない連中ですわね。反吐が出ますわ」
ウィルドも、あんな男に媚を売る女たちも。
救い難いほど愚か。そんな者たちに関わらなければならないワタクシは、なんと哀れなのかしら。
それにしてもワタクシは一体いつまでこの動物小屋にいればいいのでしょうか。いい加減、こんなつまらない場所は嫌ですの。
早くワタクシに相応しい城に早く移り住みたいものですわね。そのためには雄犬の躾をしなければなりませんが……面倒臭いですわ。
などと考えていると、突然ワタクシの腕に何者かが乗っかって来ました。
見れば、それは泥酔したピンク頭でした。青い瞳はひどくぼんやりとしており、一眼で酒に弱いのがわかります。
見た目も心もお子様な娘が酒を呑むからこうなりますのよ。
「トーニャおねーたん、うぃるろさまにしゅきになってもらう方法、教えてくらしゃいよぅ」
「そんなものはありませんわ。自分の血筋の自覚もない薄汚い孤児のくせにワタクシの雄犬に勝手な餌付けはやめてくださる?」
「しょんなこといわないでくらさいよ〜。うぃるろさまにいいつけましゅからぁ」
「こらアリサ、その女に聞いても意味ないわよ」
そんな時に口を挟んで来たのは金髪女。
ワタクシは彼女を軽く睨みつけました。
「少々ワタクシより体つきが秀でているからといって自惚れるんじゃありませんわ。そんなのだから何もかもを失うのですわよ?」
「なんですって!? アンタ、アタクシに喧嘩売ってんのね!?」
「先に吹っ掛けたのはそちらでしてよ?」
あぁ、くだらない。
さらには青髪まで便乗して来るから大変でしたわ。黒髪は呪文を呟いているだけですし、使えないことこの上ありません。
ウィルドはどうやらろくでもない女を拾って来ることだけは才能があるようですわねぇ。
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