33:メイド選手権⑤ルル
「おはようウィルド様。キミの寝顔は本当に素敵だったよ。おはようからおやすみまでキミの傍にいられるなんて最高な気分だ」
「ほら、ボクの涎をたっぷり入れた特製スープだ。嬉しいだろう?」
「他の女のことなんて考えないでくれないかな」
「キミはボクだけを愛してくれればいいんだよ」
「ねぇ、あーんしてもいいかい?」
「ボクの腕の中で気持ち良くなるといい。そしてそのまま既成事実を作って、邪魔されない二人の愛の巣を作ればいいだろう?」
「ボクは実は遠い地に家があるんだ。一緒に住みたいと思うんだけどどうかな?」
「つれないなぁ、ウィルド様。心の中ではボクとのあんなことやこんなことを考えてるくせに」
「『彼女』だけは連れ帰らないといけないが、他の女は皆殺しにしよう。キミの顔が絶望に歪むところ、見てみたいな。ボク、男がギャアギャア泣き喚く様が一番好きなんだ」
「ああ……愛してる」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺はもしかするとヤンデレのことを舐めていたかも知れない。
ルルは頭がおかしい。メイドとしての仕事ぶりはそこまで悪くはないが、とにかく気持ち悪いのだ。
お茶や食事に自分の唾液やら髪の毛やらをやたらと入れたがる。他にも、俺の体に執拗に密着して来ようとするし、なんなら職場まで着いてきたりした。
そして俺がぐぅたら休日中の他のメイドたちを羨ましがってチラッと見ただけで物凄い嫉妬をする。包丁を持ち出して目を潰すと言い出したから怖い。いちいちルルを収めるのは一苦労だった。
五人の中から一番精神的苦痛を伴うメイドを選ぶとしたら、間違いなくルルだろう。
トーニャの心を抉る言葉の数々よりも俺の精神を疲弊させるとは……もはや人間兵器なんじゃないかとすら思えて来る。
「どうしたんだい、浮かない顔をして。ボクの唇でも舐って気を紛らわせるかい?」
むにゅう、と真っ赤な唇を前髪の間から突き出すルルを払い除け、俺は盛大にため息を吐く。
「ルル、やめろ」
「どうしてさ。あのピンクメイドとは毎朝キスを重ねているんだろう? ずるいな。ボクだけ差別するのはどうかと思う。ボクとキミの仲じゃないか」
「俺たちにそんな仲ないからな。アリサとだってしたくてしてるわけじゃ、……ッ!」
言葉の途中で無理矢理唇を奪われた。
軽く触れ合うだけのそれだったが、一気に全身が熱るのがわかる。まるで媚薬を盛られたかのようだった。
「絶対に逃がさないからね、ウィルド様?」
ヤンデレはどこまでも怖かった。
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