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31:メイド選手権③エメルダ

「ああ、こんなにやつれてしまわれてお可哀想に。今日は一日、この私が旦那様に誠心誠意仕えさせていただきますのでどうぞご安心くださいませ」


「頼む……」


 アリサはともかく、パレクシアの過度の刺激に疲れ果てていた俺はエメルダの使用人然とした態度に安堵していた。

 やはり使用人というのはこうでなければならない。俺の寝顔に夢中で朝食を作り忘れているのは玉に瑕だが、それ以外は全部が全部完璧だった。


 朝の挨拶。食事の味。お茶。見送り。俺が仕事の間の掃除。洗濯。そして仕事帰りの俺の出迎え。

 こんなに静かで充実した一日がここ最近あっただろうか。ずっと他の名ばかりのメイドたちに振り回される日々だった。だが、エメルダといると何の心配もいらない。


「エメルダはすごいな……」


「それほどでは。ですが他のメイドに負ける気は致しません。メイド歴が一番長いのは私なのです。旦那様がどうすれば喜んでくださるのか、一眼でわかるのはきっと私だけですよ」


「そうかも知れないな」


 トーニャも仕事の腕は悪くないが、何せ口が悪いので俺を癒してくれることはない。

 その点エメルダは優秀だ。やはりメイドは気遣いがきちんとできるべきだと思う。


「なあエメルダ。ちょっと失礼な質問していいか?」


「……はい、何なりと」


「正直、俺のことをどう思ってるんだ? 主従恋愛はメイドの禁止事項の一つだろ。それを言ったら他のメイドたちは何なんだって話にはなるが……。それは置いといて、完璧なエメルダでもそれを破ることがあるのかとちょっと疑問に思ってな」


 エメルダが俺に好意的な感情を持っているのは間違いない。

 だがそれが恋愛的なものなのか、主人への敬愛なのか、その辺りがよくわからないのだ。


 俺の問いかけに、少し恥ずかしそうに顔を赤らめたエメルダは言った。


「旦那様は私の、ドストライクですので。過ぎた願いと知りつつも欲しいと思わないかと言われれば、嘘になりますね。

 正式な身分としては私の方が上です故、強引に婚約を申し込んでも許される立場ではございます。しかしそんな卑怯なことはしたくありません。だって私はメイド。メイドは旦那様の意に従う存在。そうでしょう?

 もちろん主従恋愛が禁じられているのは承知の上です。しかしそれは貴族家の話。旦那様は平民でいらっしゃいますから気にする必要がないのですよ」


 彼女なりのド直球の告白だった。

 恋する乙女の瞳で見つめられ、俺の胸はカッと熱くなる。今すぐにでも受け入れてしまいたいという気持ち、そして自分は一体何を言わせているんだという自責の念に駆られた。


「悪いが今はしばらく返事を待ってもらっていいか。お前のことは好きだし嫁にするなら一番無難だとは思う。けど、今すぐは決められない」


「わかっております。旦那様のそういうところも愛おしい点の一つですから」


「そういうところって?」


「優柔不断で流されやすく、意志が弱いところです」


 意外とこの女、癖が強いかも知れない。

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