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29:メイド選手権①アリサ

 俺は何が何だかよくわからないまま、お役立ちメイド選手権の審査員とやらになってしまった。

 五人のメイドをそれぞれ一日一人ずつ俺の傍につけ、働かせる。そして一番役に立つと思ったメイドを選べばそれで終わり……らしい。


 担当日以外は他のメイド四人はぐぅたら過ごすのだそうだ。羨ましい。俺もぐぅたらしたい。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 最初の一日はアリサだった。


「おはようございます、ウィルド様っ!」


 いつもの触れ合うだけのものとは違う大人っぽいキスで目覚めさせられる。

 気がついた途端自分の口にアリサの舌が捩じ込まれていたのでそれはそれは驚いた。


「いい朝ですね! 他のおねーさんたちはみんなお休みなのでアリサとウィルド様は二人きり! 素敵、素敵な朝です!」


「何してんだアリサ! こ、こんなことするなんて……」


「おやおや〜? もしかしてウィルド様照れちゃったりしてます? 照れてるウィルド様も最高です。愛してます!」


「朝からアツアツな告白ありがとな。朝飯、できてないよな?」


「はいっ! できるわけがありません!」


 清々しいほどの満面の笑みで、職務放棄を宣言するアリサ。

 いつものことだから別に驚きはしないが、今日は他四人のメイドがいない。つまり久々に俺が作らなければならないわけだ。

 俺ははぁとため息を吐き、ベッドから起き上がったのだった。



 朝食をささっとこしらえ、食堂に皿を並べる。

 食堂には俺を含め六人がいた。

 ヒラヒラした可愛らしい服を身に纏ったパレクシア、黒いホームドレスのエメルダ、これでもかと着飾りまくったトーニャ、他に服を持っていないのかメイド服のルル。そして「うわー美味しそうっ!」と大はしゃぎのアリサだった。


「アリサ、アンタまたご飯作らせたわね!? 今日くらいしっかりしなさいよ!」

「アリサさん、料理を作るのもメイドの義務の一つだといつも教えているはずですが」

「ピンク頭は早速の脱落ですのね。まあ想定通りでしたけれど」

「ボクは別に興味ないな。自滅してくれるならそれでいいよ」


 他のメイドたちのアリサ評は散々なものである。何も間違っていないので俺は何も言わないが。

 アリサ本人はそんなことを少しも気にせず、朝食を幸せそうに頬張っている。可愛い。可愛さだけが彼女の取り柄と言っても過言ではないからな……。


 食事を終えると俺は早速仕事に出る。

 アリサは俺を玄関で見送るのと出迎えるのだけは丁寧だ。まるで妻か恋人かのように擦り寄って涙目で来て行ってらっしゃいのハグをするのだ。

 メイドの距離としては大きく間違ってはいるが悪くはないとも思う。


「今日もお仕事頑張って来てくださいね!! 応援してますからっ」


 アリサはメイドとしては当たり前だが落第点だ。

 本当の貴族家ならすぐ解雇されるだろう、ドジで使えない少女。金を浪費し、無駄に馴れ馴れしく接して来るだけの厄介者とも言えるかも知れない。

 しかし俺はこいつのことが気に入っている。これからも一緒にいたいと、そう思うのだ。


 できるなら恋人ではなく歳下の妹のような関係でいられれば一番だなんて、そんな甘っちょろいことを考えている俺はどうしようもなく馬鹿だった。


「ごめんな、アリサ」


 ――お前の想いには応えられない。応えてやれない。

 そう言ったら彼女は悲しむのだろうか。できればアリサの笑顔は曇らせたくなかった。


 その顔を想像し、俺は喉元まで出かけた声をグッと堪えて呑み込む。

 そして何事もなかったかのようなフリをして仕事に向かった。

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