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2:まさか女の子を助けることになろうとは

 女の子の悲鳴。そしてここは治安が特に悪い地域。

 これを総合して出た結論は一つ。俺は身を固くした。


 そしてまた悲鳴が聞こえる。


「いやぁ――! 誰かっ! 誰か助けてくださ〜い!」


「うっせえ女ッ。こんなところで誰かが来るわけねえだろうがッ!」


「お母さぁんっ。お母さんっ!」


 ……無視するか逃げるかの二択だ。

 どうせ体が貧弱な俺が泥棒か強姦かは知らないが図体がでかいであろう奴に勝てるわけがない。もしも首を突っ込んで怪我でもしたら早速死ぬ未来しか見えない。


 逃げよう。女の子には悪いが俺は逃げることにした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ……なのにどうして逃げた方向にこいつらがいるのだろう。


 人気(ひとけ)のない裏路地に、二つの人影があった。

 一人はピンク髪の少女。そしてもう一人はいかにも野蛮そうな男だ。女の子が男に抱き込まれそうになっているところを見て、俺の想像した状況で間違いないらしい。


 だが問題は、逃げたはずなのに逆に現場に突っ込んでしまったということだ。反対方向から声がしたと思ったのだが……。逃げる方向を誤ったのは一目瞭然だった。


 だが俺は今しっかりと女の子と男を見つめてしまっている。このまま踵を返して逃げるにしろ、二人にまじまじと睨み返されてしまっていた。


「……やばいな」


 先ほどまでは無視するか逃げるかの二択だったが、現在は助けるか殺されるかの二択に変化していた。

 俺は自分の失態を呪いつつ、どうすべきか考える。そして大きくため息を漏らした後、覚悟を決めた。


「そこのお二方、何をしていらっしゃるのです」


 ――その名も『紳士ぶって脅す作戦』開始である。


「あぁ? なんだお前」

「お兄さん、助けてください! この人がいじめて来るんですぅ〜」


 眉間に皺を寄せる男と、切迫感があまりない声で助けを求める女の子。

 俺は紳士的な笑みを作り、言葉を続ける。


「仲が良さそうですねぇ。ところで、ここらに強姦が出るという噂でしてね。私はその調査に来ているのですよ」


 完全なる嘘である。俺はただ伯爵家を追放された金なしの無能だ。

 だが、着ている服は悪くないし口調も丁寧にしているので相手は俺のことを貴族と思ったはずだ。


「この質問は失礼に当たるとは承知の上なのですが。……そこのあなた、強姦の容姿の情報と瓜二つでしてねぇ。もしかしてとは思いますが、まさか噂の強姦魔ではありませんかな?」


 男の顔色が一気に真っ赤になった。


 ――俺はそこまで口がうまい方ではないが、こんな相手くらいなら余裕だな。


「そこのお嬢さんを離したまえ」


「あぁ!? ふざけたこと言ってんじゃ――」


「ならこうしよう。あなたにはこの金をやる。その代わり、その娘を離すんだ」


 そう言って俺が取り出したのは硬貨が詰まった袋だった。もちろん中身は例の手切れ金である。

 強姦魔はこれを見て目の色を変えた。女より大金。人間そういうものであろう。


 だから、男が女の子の拘束を緩めた瞬間――くれてやることにした。


「がふっ」


 俺が思い切り投げた硬貨袋が弧を描きながら見事頭部に命中し、男が呻いて地面に崩れ落ちる。

 硬貨も集めれば武器になる。女の子との距離さえ離れてくれれば、多少外したところで構わないので投げるのに躊躇いはなかった。我ながら想像以上に上手くいったのでかなり驚きである。

 ともかく、たくさんの硬貨で逝くことができてこの男も幸せだろう。


「た、助かった……?」


 目を白黒させている女の子が呟く。

 まあ、別に助ける気はなかったどころか元々見捨てる気だったのだが、結果的には助けたことになるだろう。


 大丈夫かい、とか適当な言葉をかけようとし、改めて少女の方を見て……俺は思わず固まってしまった。

 なぜってそのピンク髪の女の子が可愛すぎたからである。

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[良い点] 面白い!
[良い点] 確かに、丈夫な袋に詰めた硬貨は振り回すと鈍器として使えますね。 こうした固くて細かい物を袋に詰めて作った棍棒は「ブラックジャック」と呼ばれていて、ギャングやカジノの用心棒などが愛用している…
[一言] やるぅ!
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