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24:ヤンデレ怖すぎなんだが

 不可解だ。何もかもが、明らかに不可解だった。


 夢の中での不思議な……と言うより気持ちの悪い出会い。

 そして、目の前の光景。


「どうしてお前が……ここにいるんだ?」


 ルルと名乗った女が、この屋敷に……それも当たり前のように存在している。

 その事実が、俺にはたまらなく恐ろしかった。


「あっ、ウィルド様〜! おはようございますっ。ごめんなさい、ルルおねーさんに邪魔されちゃって朝の挨拶できなくて。代わりにキスしてくれてもいいですよ?」


 アリサがいつもと同じキラキラした目で俺を見上げてくる。

 いつもなら頭を撫でてやったりするのだが、今はそれをする余裕もなかった。


 立ち尽くし、ただ呆然と黒髪の女を見つめるしかない。


「おや? どうしたのかな、そんなにボクをジロジロと見て。嬉しいなぁ。その目を一生ボクだけに向け続けてくれるとさらにいい。ああ、ボクは幸せ者だね」


「お前……」


「もしかして記憶喪失かい? 困ったな。もしかして勢い余ってボクとの出会いシーンの記憶まで消してしまっただろうか。

 まあそれならそれで構わないか。初めまして、ボクはルル。この屋敷でメイドとして働く、可愛い可愛いキミの親友だよ」


「親友? 誰と、誰がだ?」


「当然ボクとキミが、だよ。他に誰があると思うんだい」


 笑う――否、嗤う女は、長い前髪の間からチラリと覗く黒い瞳で、まっすぐに俺を見つめてくる。

 その目を見ているだけで、なぜだか頭がくらくらした。まるで眩い光を見せられた時のような。


 それと同時に、記憶が雪崩れ込んで来た。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺とルルは幼い頃からとても仲が良かった。

 二人、いつでも一緒にいて。いけないこともした。楽しいこともいっぱいした。


 そして十歳の時に許嫁になって……でも俺はうっかり浮気をしてしまって、勘当されたんだった。


 そうか。どうして今まで俺は、ルルのことを不審な女なんかだと思っていたんだろう。

 夢の中にルルが出て来たのは当然の話だ。


「何せ、俺はルルの大親友なんだから……」


「そんな簡単な術に引っ掛かるとは呆れを通り越して怒りさえ感じますわ。これだから愚かで薄汚れた雄犬は困りますわね」


「ぐへっ」


 突然頭を殴られ、俺は我に返った。

 なんだ、一体……? 目を回し、地面に倒れ込む俺の視界に、紫色髪の少女の姿が映った。


「昨晩からウィルドの様子がおかしいと思っておりましたら、やはり黒く穢らわしいゴミクズの仕業でしたの。なんとも幼稚で単純な呪いですこと。魔術師としては三流、いいえ五流以下ですわね。その程度では暗殺者を名乗る資格もございませんわ。さっさと消えなさい」


 彼女――トーニャ・セルナラータが向かい合っているのは、ルル。

 俺の……親友……。


「なわけあるかぁ!」


「ふははっ、もう解けてしまったか。そうか、キミは彼女を愛しているんだね。てっきり関係性は最悪かと思っていたが、どうやらボクの見込み違いだったようだ。でも洗脳が効かないとは困ったな。早速実力行使しなきゃいけなくなったじゃないか」


 あまりの超展開に脳がついていかない。

 まず第一に、俺の中にあり得ない記憶が溢れて来たこと。そして第二に、それをまるで現実のことのように信じ込もうとしてしまったこと。

 そして……今、この目の前の女が言った洗脳という聞き慣れない言葉。


「人間並みの知能が備わっていない哀れな雄犬に教えて差し上げますわ。洗脳とは魔術の一種、他人を己の思い通りに導く方法のこと。それを用いられた者の精神的な強さによって成功するか否かは決まる。つまり、ウィルドはしみったれた根性しかないということですわね」


「胸にグサグサくる説明をどうもありがとう! ってか洗脳怖え! この女、魔女じゃねえか!」


 気味が悪くなり、俺はできるだけ黒髪女からの距離を取るべく後退さる。

 言われてみれば黒髪女からは禍々しい雰囲気を感じた。


「そんなひどいこと言わないでくれよ、ウィルド様。ボクとキミの仲だろう?」


「お前と俺に仲なんてないだろ!」


 俺がそう叫んだ、その瞬間。



「ふぅん。そんなことを問題にしているのかい?

 なら、今から関係を作ろうじゃないか。

 他の女を見るその悪い目をほじり出して、他の女の名を呼ぶ口を閉ざして、ボク以外の声を聞く耳を切り落として、それからボクとキミのたった二人きりの世界で愛し合うんだ。これこそ真実の愛。そう、真実の愛だ。心変わりもなければ裏切りもない理想郷だ。誰にも介入できない場所で愛を囁く。なんてロマンチックなんだろう。もちろんその前にボクはボクの任務を果たさなくちゃならないが、それが終わった後はキミを可愛がり放題さ。

 でもその目をくり抜くのは勿体無いな。そうだ、代わりに目隠しにしようか。ボク以外の者が剥がせない呪いをかけよう。そうすればキミの瞳はボクだけのものだ。ああ、素晴らしい考えだ。

 そうとなれば早速邪魔者を殺さないとね。まずはピンク頭。他には紫と、青。『彼女』は生け捕りにしなくちゃいけないから面倒臭いけど、それも大した問題じゃない。

 どうだい、このボクの名案は? ボクの手をとって、受け入れてくれると嬉しいなぁ。

 ……まあ、拒否されても無理矢理実行するまでだけどね」



 魔女(ヤンデレ)は、狂気に歪んだ顔で、笑った。

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