23:初対面で愛してるだなんて言われても
出会いはいつも突然だ。
俺の意思なんて関係なく、次々と集まって来てしまったメイドたち――ただし俺自身が募集したエメルダは除く――のように、そいつも俺の前へふらりと現れた。
「やあ、ここにいたんだ。ずっと探していたんだよ」
いつかのアリサとパレクシアと同じように、俺の職場である騎士団詰所に俺に会いにとある人物がやって来た。
しかし以前と違うのは、それが俺にとって全く知らない相手であることだ。
艶やかな黒の前髪で顔面を覆った、いかにも「私は不審人物です」とでも言いたげな女だった。
その女はなぜかメイド服を身に纏っている。どこかの貴族家のメイドだろうか? だが、それにしては礼儀がなっていなさ過ぎる気がする。
「……私はウィルドと申します。あなたは一体どこのどなたでしょうか?」
紳士口調で問い掛ければ、彼女は「ふぅん。ウィルド、ねぇ」と言いながら俺を舐め回すように見つめた。正直言って不快だ。
存分に俺を観察してからその女は答える。
「ボクは……そうだな、ルルとでも名乗っておくとしようか」
明らかな偽名である。俺は一層警戒を強めた。
しかも彼女は、思わず耳を疑ってしまうようなことを言い出した。
「そんなに怖がらないでほしいな。ボクはキミを心から愛しているんだ。ちょっとくらい優しくしてくれたっていいじゃないか」
「愛っ……」
――絶句した。
いや、だってそうだろう。初対面の、しかもつい今しがた名前を聞いたばかりの女から『愛してる』だなんて言われたらドン引きしない方がおかしい。
俺を揶揄っているのか、それとも異常な思考の持ち主なのか。
背筋が冷たくなるのを感じた。こんなの、恐怖以外の何者でもない。
「それで、ご用件は。私もこう見えて暇じゃないのですよ」
睨みつけながらそう言ってやると、何が面白いのか女がくくっと喉を鳴らす。
それから――こんなことを言い出したのだった。
「そうだね。なら、端的に言わせてもらうよ。……キミのところには複数のメイドがいるね? ボクもその一員に入れてほしい。いいかな?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ、れ……?」
俺は気づけば自分のベッドの上で横になっていた。
先ほどまで確かに騎士団にいたはずだが……あれは夢だったのか?
なんだかやけにリアルな夢だったが、まあ、あの女が実在しない人物であるのなら良かった。
あんな押し付けがましい女は嫌だものな。冷静になって考えても、明らかに頭のおかしい異常者だったし。
でもあれはもしかすると何か不穏なことが起こる前兆かも知れない。気をつけないとな。
そんなことを思いながらゆっくりベッドから身を起こし、俺は一つ、違和感に気づく。
いつもベッドのすぐ傍にいるはずのアリサがいないのだ。寝坊したのだろうか、と首を傾げながらも俺は部屋から出て――。
「ウィルド様を起こすのはアリサの役目です! ルルおねーさん、ずるいっ」
「いいじゃないか。ボクはウィルド様の親友なんだ。それくらいしたって許されるだろう?」
「あーもう! その呼び方はアリサの特権って言ったじゃないですかぁ! ルルおねーさん嫌いですっ!」
「はは。わがままだなぁ。……キミは殺したくなるくらい娘だよ」
ピンク髪のメイド――アリサと、見知らぬ黒髪の女が俺の部屋の前で向かい合って何やら話し込んでいるという、到底理解の及ばない光景に出会したのだった。
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