22:もしやこれはハーレムでは……?
「トーニャおねーさんとばっかりベタベタしてずるいです! いくら幼馴染だからってアリサの知らないところで愛し合うのは卑怯です。アリサにもチューしてくださいよぅ」
「べ、別に、嫉妬してるわけじゃないし! アンタのことなんか全然興味ないんだからね! ふんだ、ご主人様のバーカ。バカバカバーカ!」
トーニャにたっぷりボコられた後、俺はさらに追い討ちをかけられていた。
パレクシアとアリサの共同寝室――アリサが「一人で寝るのは怖い」と毎夜ぐずるらしい――に連れ込まれ、二人のメイドに絡まれているのだ。
端的に言えば、寂しいから自分も構ってほしいということだろう。できるか!と叫びたくなるのをグッと我慢した。
「あのなぁ。俺だってトーニャには困らされてるんだ。……その、間違っても付き合ってたりはしないからな? 誤解するなよ」
「ふ、ふーん。あんな仲良さそうにして付き合ってないとか、アタシ、信じてあげないわ!」
「エメルダもちゃんといたから大丈夫だ。ほら、機嫌直せって」
「勘違いしないでよね。アンタのことなんかちっとも気にしてないんだから。爪の先ほどもね! ちょっとくらいイケメンだからって自惚れないで。空から落ちて来た時に受け止められたら相手がイケメンで惚れた〜なんてことは私に限って絶対にあり得ないんだから! 『難攻不落の女帝』を舐めんじゃないわよ!」
歯軋りしながら吠えるパレクシアは、ちっとも『難攻不落の女帝』には見えない。
というかそんな二つ名をつけたのは誰なんだ、一体。
「パレクシアおねーさんには負けませんから。ウィルド様が最初に選んでくれたのはアリサなんですからね。ベーだ」
「……そんな子供のような態度では立派なレディとして認めていただけませんよ。きちんとマナーを学んでから、正式に求婚なさるべきかと」
「ピンク頭は尻軽だと相場が決まっていますわ。そんな娼婦にワタクシの犬を渡すつもりはなくってよ」
アリサがあかんべーをしてパレクシアと無駄に張り合っているところへ、突然声が。
言わずもがなエメルダとトーニャだった。二人は食堂を片付けていたはずなのに、どうしてこの寝室に現れたのだろうか。
「そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしないでちょうだい、汚らわしいですわ」
「トーニャ様に罵倒される旦那様、おいたわしや。それでこそ旦那様です」
トーニャの言葉はいつものことだと聞き流せるにしても、『それでこそ旦那様』というエメルダの意味不明な――否、意味を理解したくない言葉が俺の胸に突き刺さる。
ちなみに誰もフォローをしてくれる人間は現れなかった。
その代わり、皆俺を追い詰めるのだけはうまい。
「ウィルド様はアリサのものです!!」
「ぜ、全然悔しいとか思ってないわ。絶対、ご主人様のことなんか気にしてないんだからね! だ、だけど、アタシのご主人様なんだから他の女が盗るのは嫌かなっていうか……」
「これぞハーレム。振り回される旦那様、素晴らしいです」
「ふん。そこの女たち、目障りですわ。ワタクシの飼い犬を不潔な目で見ないでくださる? 薄汚れた犬が泥まみれになってしまいますわ」
それぞれの口ぶりで、態度で、直接的あるいは遠回しに皆が皆俺に好意を伝えて来ているように見えるのは気のせいか。
気のせい、だよな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ははっ、それはハーレムってやつだよ。メイドハーレム……最高じゃないか」
翌日職場でこの話をすると、無情にもヘイズにそう言われた。しかも、羨ましそうな目を向けられて。
どうやら勘違いではなかったらしい。嫁探しをしても全く誰にも相手されなかった俺が、同居する女全員に惚れられているとはどういう風の吹き回しだ?
俺は「嘘だろ」と呻くしかなかった。
面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。
ご意見ご感想、お待ちしております!




