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20:魔女と女帝 〜side魔女〜

 何の前触れもなく場面転換。どこか遠くの国での話――。

「――あやつはまだ捕らえられぬのか、ルクルーレ」


 金髪を優美に巻く女が、苛立たしげにボクを見下ろす。

 血色が悪く見えるほどに紅を塗りたくられた唇は若干震えており、そこに少々の怯えも感じられた。

 ……弱虫のくせに女王ぶるからこんなことになるんだ。ボクはそう思いながらもそれをちっとも表情に出さず、にこりと笑って見せる。


「『彼女』の行き先は掴めたよ。ただ、ちょっと厄介なことになったかも知れないんだ」


「厄介なこととは何じゃ。我が兵力があれば大したこともなかろう」


「レシーア王国。『彼女』は今、レシーア王国にいるよ」


 ボクは手に持っていた水晶玉を金髪女へ見せてやった。

 そこに映る姿を見て、金髪女は小さく息を呑む。……そりゃそうだろう、まさか『彼女』が給仕服を着ているだなんて予想もしていなかっただろうから。


「なんだ、この格好は」


「さあね。詳しくはボクも知らないけど……どこかの貴族家に忍び込んで、使用人に紛れ込んでいるんだろうね。ボクの水晶玉の力は限定的だから、今日ようやくこの情報が掴めただけで、これ以上のことはまだ何も」


「あの女が貴族の使用人に? ――信じられんな」


 確かにボクもそのことは少しおかしいと思っていた。

 別に『彼女』と親しかったわけではないからわからないが、まともに働いたことのない『彼女』がメイドになれるなんて思えない。

 まともに働けない女を、どこの貴族が雇うだろう。いくら治安の良いレシーア王国とて、そんなに甘くはないだろうに。

 その時ふとボクはとある可能性に思い至った。


「そうか。貴族じゃない可能性も、充分に考えられるね」


 何か問題を起こして勘当された元貴族が使用人を雇うことはザラにあるだろう。

 猫の手も借りたいそういう状況であれば、『彼女』が身を寄せることもできるかも知れない。


 ――そしてボクのその想像は外れていなかったようだ。

 水晶玉がぽわんと光り出し、再び何かを映し始めた。

 今度は『彼女』の姿ではない。……同じ金髪は金髪でも、ヒョロヒョロした男だった。


「これが『彼女』のご主人様か。ふむ、なかなか悪くないな」


 自慢じゃないがボクはかなりの男好きだ。

 と言っても、ボクに寄り付いてくる男性はいないのでこちらからいちいち捕まえに行かなければならないのが億劫で最近は控えていたが……この男はボクの好みだった。


 『彼女』を手に入れるついでにこの男も捕まえてしまおうか。


 そうと決まればやるべきことは簡単だ。

 ボクは金髪女――エトペチカ帝国の女帝・パミラを見上げた。


「ボクが『彼女』を見つけてあげよう。レシーア王国に渡るとするよ」


「……居場所がわかったのか?」


「今はわからずともレシーア王国に辿り着けばすぐわかる話さ。案ずることはない。ボクの帰りを待ってくれるといいよ」


 ニヤリと笑い、ボクはウインクする。

 それが不満とでも言いたげにパミラは鼻を鳴らし、言った。


「その言葉、誠であるな? ならば一刻も早くあの女の首を持って参れ、魔女ルクルーレ」


「さてね。早く戻って来られるかはわからないが、いつか必ず持って来てあげるよ。それまでせいぜいいい女帝にでもなるんだね」


 これで話は終わりだ。ボクは立ち上がり、踵を返してパミラの前から消える(・・・)

 そうして一瞬で我が家に戻って来たボクは早速身支度を始めた。


「ああ、楽しみだなぁ」


 期待に胸を弾ませ、ボクはそっと呟いていた。

 それは獣が良い狩場を見つけた時の喜びに似ているかも知れない。


 ボクにとって男は獲物。

 捕まえて、愛して、痛ぶって、泣き喚かせて、その後で愛して、また痛ぶる。そして響く男たちの絶望の声は、ボクにとっては蜜の味なんだ。

 さあ、水晶玉に映った彼は、一体どんな味がするのだろうか――?

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