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19:トーニャは問題児メイド

「公爵令嬢がメイドになるとかありえないだろ、普通……」


 俺は頭を抱えていた。

 幼馴染であり天敵であり突然俺の家に上がり込んで来る無礼な女、トーニャ・セルナラータがこの家のメイドになると言い出したのだ。



 どうしてこうなったか、経緯を簡単に整理させてほしい。


 俺の屋敷に勝手にやって来たトーニャ嬢は、俺を野良犬呼ばわりしつつ我が物顔で食堂に入り、宣言した。


『この男――ウィルド・プレッディを買わせていただきますわ』


 俺はもちろん、アリサもパレクシアもエメルダもギョッとしていたことは言うまでもない。

 俺を買うってどういうことだ?と皆が目を丸くする中、トーニャ嬢はこう続けたのである。


「これは今でこそ野良犬だけれど元々はワタクシの犬。勝手に逃げ出しやがったペットを連れ戻すのは当然の行為でしょう? ただしタダというのはさすがにペットの面倒を見ていた掃除婦どもに褒美をくれてやろうと言いますのよ」


 やはり誰も理解できなかった。

 俺がトーニャ嬢の飼い犬であったこともないし、メイドを掃除婦と呼ぶのはいかがなものかと思う。が、いちいちツッコんでも毒を吐かれるだけなので俺は何も言わなかった。

 が、そんな彼女に立ち向かっていく勇者が一人。……エメルダだった。


「この方は私たちがお仕えさせていただくべく旦那様でございます。たとえセルナラータ公爵令嬢がおっしゃることでも、認め難く」


「あら。ただの野良犬の世話係が何を勝手なことをほざいていますの? ワタクシの犬なのですから、飼い主であるワタクシの手元に置くのが当然ではありませんこと? そんなこともわからぬ頭の足りない掃除婦になど、ワタクシの犬を預けておくことはできませんわね」


 トーニャ嬢は昔からこうなのだ。

 たとえどんな状況であろうと自分の意思を貫こうとする。大抵は彼女に逆らえる者はいないのだから、そして最後には聞き入れられることになるのだ。


「でも、今回ばかりはそういうわけにもいかないよな……」


 どういうつもりかは知らないが、トーニャ嬢は俺の身柄を引き取ろうとしている。

 だが無論そんな勝手なことをさせるつもりはない。第一、俺にだって仕事やこの屋敷の主としての色々な責任があるのだ。誘拐されたら残されたメイドたちが何をしでかすかわからないし。


 ということで、俺は断固拒否した。


「悪いですが、トーニャ嬢の飼い犬になるつもりはありません」


「豚の言葉は理解してやれませんわ」


 犬なんだか豚なんだか、はっきりしてくれ。

 そう思っていた最中だった。何の前触れもなく、トーニャ嬢がぐるりと室内を見回して……それからこんなことを言ったのは。


「ふん。汚らしいですわね。いいことを思いつきましたわ。この汚らしい動物小屋の掃除でもして差し上げようかしら」


「……!? それは一体、どういう」


「――そこの掃除婦たちよりワタクシ、よっぽど色々こなせましてよ? 雄犬の飼い主としての責任をとって、ここを洗浄して差し上げようと言っているのではありませんの」


 その内容を要約すれば、それはつまり『メイドになってやる』ということだった。

 どうしてその思考に行き着いたのか、さっぱりわけがわからん。誰か説明してくれ。


 そもそもトーニャ嬢は名門セルナラータ公爵家の次女。

 今はただの平民でしかない俺のところでメイドになって働くなんて到底無理な話だった。みなしごのアリサや、正体不明のパレクシアとはわけが違う。「メイドになりたい」「はいそうですか」では普通は(・・・)済むはずがない。

 そう、普通は――。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「とろいですわよ。清掃婦としての自覚もございませんの? ピンク髪といえば頭お花畑の典型ですものね」

「そこの金髪、闘牛のように暴れ狂われると目障りですわ。ワタクシを誰と心得ておりまして?」

「青髪、躾が全然なってませんわね。貴女のような雌豚、一日で解雇ですわよ」


 翌朝、紫色の髪をお団子にしたメイド服の少女の姿があった。

 彼女はふんぞり返りながら箒で床掃除をし、他のメイドに上から目線の毒舌で叱責しまくっている。まるでこの場の主は自分とでも言いたげな尊大っぷりだ。


 トーニャ・セルナラータは問題児メイド。

 セルナラータ公爵家からは「娘を預かってくれるならありがたい」と言って嬉々として送り出され、一夜にして俺の屋敷のメイドとなっただけではなく、やって来るなり屋敷の内装やルールを一変させてしまった。

 ちなみに屋敷から三度ほど追い出そうとしたが無理だった。その度俺が箒でぶっ叩かれて頬を腫らす結果となったからだ。


「ワタクシの申し出を断るとは雄犬のくせに態度がでかいこと。貴方はただワタクシに従順であればいいのですわ」


 とてもメイドのセリフとは思えないことを言いながら微笑むトーニャ嬢――一応名目上は使用人なのでこれからはトーニャと呼ぼう――を見て、俺は深く項垂れる。


 これから一体どんな事件を引き起こしてくれるのだろうか、考えるだけで頭痛がしてきそうだった……。

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