1:伯爵家追放
※プロローグの毒舌メイドの口調、ちょっと変更しております。
俺がこうしてメイドに囲まれて暮らすようになった理由。そのきっかけはひと月ほど前まで遡る――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お前のような奴は我がブレッディ家にはいらん! 無能なただ飯ぐらいはのたれ死ね!」
俺、ウィルド・ブレッディは親父のその一言で生家であるブレッディ伯爵家を追放された。
まあ、追放と言っても別に俺が何かやらかしたわけではない。ただ嫁探しに失敗して行き遅れになっただけである。実の息子にこの仕打ちはひどいと正直思った。
伯爵家の次男として生まれた俺は、優秀な兄のスペアとして家に置いておかれていただけだったのだろう。
金髪碧眼で容姿はそこまで悪くないと思うのだが、『氷の貴公子』と呼ばれ貴族界で一、二を争う人気を誇る兄と比べるといかんせん劣っている。勉強もそこそこしかできないし、だからと言って力が強いわけでもない俺に寄り付いてくる女などいなかった。いたとしても金目的の奴ばかりで、恋愛結婚を望んでいた俺とっていい相手などいるはずもなかった。
だから、兄がどこぞの令嬢を嫁に迎え、すっかり不要となった俺は追い出されて当然なのかも知れない。絶縁と共に手切れ金を渡されただけマシだと思うべきなのだろうか。
「それにしたって、これから俺にどうやって生きてけって言うんだよ……」
このままでは親父の言う通りのたれ死んでしまう。兄の結婚式の前日に突然追い出されるだなんて思ってもみなかったものだから、着の身着のままというやつだ。
手切れ金は金貨にして十枚分。小さめの屋敷なら余裕で買えるレベルである。これをうまく活用し、以後の人生を生き抜かなければならないのか。そう思うと自然とため息が漏れた。
「……さっさと適当な住処と仕事を見つけるしかねえか。あぁー、まさか俺がこんなことになるなんてなぁ」
ブレッディ伯爵領のはずれを歩きながら俺はぶつぶつ呟いていた。
「嫁探しは諦めて仕事人生でも送るか。でも俺にできる仕事があるとは思えない。何せ俺、ぐーたら貴族だったし」
何も努力して来なかったことが悔やまれる。今までのぬくぬくな人生を懐かしく思った。
「小さくてもいいから綺麗な屋敷で女の子とのんびりイチャイチャして幸せに暮らしたい……。ダメだダメだ、こんなのだから俺はダメ人間になったんだろうが。しっかりしろ。まずは住居だ。仕事の前に住居を探さないと」
ブレッディ伯爵領を出た。ここからは一気に治安が悪くなる。
家を追い出された貴族の坊ちゃん――俺は十八なのでもう坊ちゃんではないのだが――など盗賊の恰好の餌食であるから気をつけなければ、などと思っていたその時のことだった。
「いやぁ――――!」
甲高い女の子の声がどこからか聞こえて来たのは。
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