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18:この汚らわしい忌々しい獣の悪臭のこびりついた養豚場をワタクシの高貴な手で洗浄して差し上げてもよろしゅうございますわよ?

 ――トーニャ・セルナラータが俺の屋敷にやって来た。

 しかも喧嘩腰なパレクシアを圧倒的な威圧感で打ち負かし、後からぴょこぴょこ出て来たアリサを無視した上で、最後の砦のエメルダも「セルナラータ公爵家の者よ」の一言で説き伏せ、まるで我が家であるかのようにずかずかと中へ入って行ったのだ。


 おかしいだろ、この光景。


 それを隠れてずっと見ていた俺は驚きを隠せない。

 もちろん、幼馴染であるからしてトーニャ嬢がこれほどの傲慢女なのは知っていた。しかしここまでとは、どうやら俺は彼女のことを見くびっていたらしい。


 ちなみに「俺の留守の間は誰も通すな」とメイドたちに命じていたが、完全に無駄だったようだ。


 俺は今、真剣に悩んでいる。このまま帰って来ていなかったことにして騎士団に引き返し、一晩泊めてもらうかどうかを。

 それほどまでにトーニャ嬢に苦手意識を持っているのは当然で、会ったらすぐに番犬呼ばわりされ尊厳をことごとく踏み躙られるのは目に見えているからである。それどころか平民堕ちした今、もっと酷い言葉をかけられたとしても何もおかしくなかった。


 だから、このままこっそり――。


「それで隠れられているつもりならゴ〇ブリ並みの知能もないということですわね。久々にあなたのその生ゴミ独特の匂いを嗅いでワタクシがわからないとでも思っているのかしら?」


「うわあ!」


 隠れ潜んでいたはずの俺の背後に、トーニャ嬢が立っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ワタクシの眩さを前に目を開けていられないことには同情してやってもいいですわ。でもだからと言ってわざわざこの泥臭い動物小屋まで足を運んでやったワタクシに敬意を示さないとは何事なんですの?」


「え、ええとそれは」


「番犬、いいえ、野良犬の戯言などワタクシの耳が汚される故に聞きたくなくってよ。野良犬は野良犬らしく野垂れ死ねばよろしいわ」


「野良犬って……」


 トーニャ嬢からの怒涛の罵倒にたじたじとなる俺。

 これではまるで女主人と使用人のようだ。幼馴染の再会シーンとはとても思えなかった。


「と、ところでトーニャ嬢はどうしてここに?」


「今なんと言ったかしら。聞き間違いでなければ愚民の泥に塗れた野良犬風情がこのワタクシの名を呼んだ気がいたしますわねぇ。ワタクシのこの美しい耳が外界の雑音を聞き逃すことなどないはずですけれど」


「じゃあなんて呼べばいいんです?」


「『セルナラータ公爵家の麗しき花の乙女』。これでよろしくてよ? ……まあ、虫ケラ以下の知能の野良犬にこれほど長い単語が覚えられるとは思っておりませんので、お好きにお呼びになったらいかが?」


「はい。わかりました、セルナラータ公爵令嬢……」


 この女、本気で容赦がない。俺のことをどれほど見下し、弄べば気が済むのか。

 いつの間にか背後から目の前に回って来ており、後ずさっても屋敷の窓があるだけ。そうか、この女、窓からやって来たのか、などと考える余裕もなかった。


「ワタクシの用件、それは一つよ。泥臭い豚をワタクシの愛玩具とするため連れ戻しに来てやりましたわ。感謝なさい」


「愛玩具にされたところで感謝する要素一つもないと思うのですが」


 俺が当たり前の意見を口にすると、トーニャ嬢が整った眉をピクリと上げた。


「あら。ワタクシの温情が気に食わないといいますのね? ならばこの場で不敬罪により処しても構わないんですのよ。ですがワタクシ、心が広く美しいんですの。ですからそんなことは致しませんわ。無理矢理連れ帰るまででしてよ」


 彼女のどこが心が広く美しいのか理解に苦しむ。それって紛れもない誘拐では。

 だが口で争ったところで勝てるわけもないのは事実。


 どうすればこの女の愛玩具としての生きる運命を脱することができるのか、俺は今まで使ったことがないほど頭をフル回転させて考えた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そしてその結果――。


「この汚らわしい忌々しい獣の悪臭のこびりついた養豚場をワタクシの高貴な手で洗浄して差し上げてもよろしゅうございますわよ?」


 なぜかトーニャ嬢がうちの屋敷を掃除してやる……つまり、メイド群団に加わりたいと言い出したのだが、一体全体どうなっているのか、俺にもまるでわからないのだった。

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