17:幼馴染(嫌な女)の来訪
エメルダのおかげで俺は仕事に没頭できるようになった。
と言っても、屋敷に帰ればアリサがベタベタと絡んで来るのは変わらないし、パトリシアがやかましいのもいつもの通りなのだが、エメルダの作った夕食という癒しがあるから「まあいいか」と思える。
それからしばらく、俺たちは何事もなく平和に過ごしていた。
しかしそんな平穏も長くは続かない。
いや、続きはずだったのだが外的要因によって壊されたのだ。
なぜなら俺の屋敷に悪魔――もとい世界で一番俺が苦手とする相手がやって来たからだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここがあの元番犬の屋敷ですのね。落ちぶれた身の者が所有するにしてはもったいない屋敷ですわねぇ。そうですわ、ならばこの美しく素晴らしいワタクシがいただいて差し上げましょう」
「ちょ、アンタ誰よ!?」
「頭が高いですわ、メイドごときが。ワタクシを誰と心得ますの」
「知らないわよ。ご主人様に何かしようとしたら許さないんだから!」
「あの腐れ番犬に集る哀れな虫けらに何ができるというのですかしら? 見てみたいですわね」
俺が騎士団の仕事から帰って来ると、門の前で二人の人物が言い争いしていた。
一方は金髪のボンキュッボン美女パレクシア。今日もメイド服の胸の辺りがはち切れそうだ。
……そしてもう一人の方を見て、俺は「あっ」と声を上げた。
「ワタクシはトーニャ・セルラナータ。セルナラータ公爵家の名において、ここを通しなさい」
紫色の髪に吊り上がった茶色の瞳の美少女。
トーニャ・セルラナータ公爵令嬢が、俺の屋敷の前にいた。
セルナラータ公爵家は王家に並ぶほどの権力があることで有名な筆頭公爵家。
長女のターニャ・セルナラータ公爵令嬢は王太子殿下に嫁ぎ、いずれ賢妃になるだろうと言われている。
だがそれに反し、次女のトーニャ嬢の方はどうにも手に負えなかった。
口を開けば毒を吐く、だなんて陰で言われているくらいお口が悪い。
そのくせやることなすこと何でも上手くいき、姉のターニャ嬢に負けないほどの美貌と賢さを誇っているため、自己肯定感がすごい。自分を神に選ばれた者なのだと思っているらしい。
そしてそんなトーニャ嬢の唯一の幼馴染が俺だった。
うちの伯爵家とセルナラータ公爵家は何かとつながりが深く、同い歳である俺たちは遊ぶことが多かったのだ。
と言っても、しかし何せ口を開けばすぐに毒を吐くので、扱いづらいったらありゃしない。俺のことを『嫁ぐ気のない番犬』なんて罵るし、どうにも好きになれなかった。
なので嫁探しの時にまず選ばないと決めたのがトーニャ嬢だったくらいなのだが……。
――俺にとっての天敵とも言える女がどうしてこんなところにいるんだ?
見つからないように屋敷の陰に身を潜めながら俺は眉を顰める。
あんなに見下していた俺にわざわざ会おうとでもいうのだろうか。もしもそうだとしたら何のために?
ここは様子を伺った方がいいだろうと判断し、もう少し観察することにした。
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