15:新しい職場の旦那様が好みのドストライクだった場合、メイドの私はどうしたらいいのでしょう? 〜sideエメルダ〜
「エメルダおねーさん、なんか悩んでるんですかー? 良ければアリサが聞いてあげますけど」
「……些事でございますのでお気になさらず。アリサさん、洗濯をお忘れですよ」
「あ、そうでした! ちょっと行ってきますね〜!」
ドタバタと足音を立てながら走って行くピンク髪の少女を見つめながら、私は小さくため息を漏らしました。
――私はエメルダ・サリッタン。
サリッタン子爵家の三女として生を受けたものの、貴族流の政略結婚というのが嫌だったがためにメイドになり、長らくとある侯爵家に仕えさせていただいておりました。
しかし旦那様が不正をしただの何だので侯爵家が没落してしまい、職場を失ってしまいました。
そこへ前から付き合いのあった遠方の地方騎士団の方から紹介を受け、新たな職場で働かせていただくことになったのです。
給金は安いですが仕事内容は『平民のメイドたちを躾けろ』という、非常に簡単なもの。
ですから仕事自体に不満はないのですが、私には一つ悩みがありました。
それは元々プレッディ伯爵家のご令息であったという現在の旦那様について。
もちろん、仕事に私情を挟んではいけないのは百も承知でございます。
ですがそれでも……この昂る胸が抑えられない。
旦那様が可哀想で可愛すぎるのですッ!!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私は昔から、可哀想な人が大好きなのです。
例えばお腹を空かせている人。例えば恋人に裏切られた女性、例えば家族を失った哀れな子供。
そういう人を見るとたまらなく愛おしくなってしまう……我ながら変態的趣味だとは自負しておりますが、これだけはどうしようもできませんでした。
もちろん、哀れな人々を目にすれば、放置せずきちんと支えて差し上げます。そこは間違えたりいたしませんよ?
そして私の新たなる旦那様は、最高レベルに可哀想なお方だったのです。
一つ、あれほどの美貌がありながら誰一人として婚約者を持てなかったこと。
二つ、ご自身は何も悪くないでしょうに伯爵家を追い出されたという身の上。
三つ目、私が一番哀れだと思う点は……主人でありながら、名ばかりのメイドたちに振り回されているそのお姿です。
ああ、これほど可哀想な方が他にいるでしょうか!? これぞ私の好みのドストライクという奴でした。
この方を存分に愛でて差し上げたい……。私の中にそんな欲望がむくむくと湧き上がります。
「いけません。旦那様に手を出すなどと」
しかし、そもそも私がメイドになったのは、政略結婚が嫌だったのもありますが、第一に他人の力になりたかったからです。
そんな私にとって旦那様の存在はこれ以上なく嬉しくありがたいものだったのです。
そして滞在数日目にして恋を自覚するくらいには、好きになってしまったのでした。
メイドが主人に恋するなんて禁忌中の禁忌、それこそ解雇されても当然のことだというのに。これではメイド失格です。
この気持ちを一体どうすればいいのか、そのことで私は頭を悩ませるのでした。
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