14:お手本なメイド・エメルダの登場
――うちに新たなメイドがやって来た。
「本日からここでお世話になります、エメルダ・サリッタンでございます。旦那様、どうぞよろしくお願いいたします」
そう名乗りながら文句のつけようのない優雅なカーテシーをして見せたのは、青いおさげ髪の少女だった。
年頃は十八、九だろうか。一見地味に見えるが、よくよく観察すればスタイルや所作が美しく、なかなか見どころのある人物であった。
今度はそこらの道端で拾ったんじゃない、歴としたメイドだ。元々とある侯爵家に仕えていたものの、そこが没落してしまい、ちょうど困っていたところをヘイズに誘われ、俺の屋敷で働くことになったのである。
俺が募集をかけてから彼女がこうして屋敷へ訪れたのがたった三日後。まさかこんな早くに来てくれるとは思わなかった。
本当にヘイズは感謝しかないな。
カーテシーを見ただけでわかった。この人なら安心してうちのメイドたちの躾を任せられる、と。
「初めまして。俺はこの家の主人のウィルドだ。よろしく」
俺は挨拶もそこそこに、青髪の少女――エメルダに、雇った理由や経緯などについて説明した。
そして俺の話を全て聞き終えたエメルダは深く頭を下げ、「旦那様のご命令、この命に代えましても果たして見せます」と言ってくれたのだった。
別に命に代えなくてもいいんだが……これぞメイドの対応なのだろう。
最近は反抗的なメイドしか見て来なかったので、こうも従順なメイドだと感覚が狂いそうだ。
「あのドジ二人を頼むぞ、エメルダ」
「はい。お任せくださいませ」
この完璧なメイドにアリサとパトリシアはどうやって鍛え上げられるのだろう。
俺は少し楽しみに思った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして数分後――。
「はぁ? こいつに頭を下げてアタシにはそうしないってどういうつもりなわけ?」
「貴女はメイド。そして私もメイドでございます。立場が同じである以上、頭を下げる必要はないかと思われます」
「アンタ、最低限のマナーも守れないの? 呆れるわ。そんなんでアタシに物を教えようとしてるなんてね」
「アリサは別にどっちでもいいですけど、おねーさんを怒らせちゃダメですよ〜」
エメルダとパトリシア、そしてアリサが向かい合い、早速言い争いを始めていた。
エメルダをメイド二人に紹介したところまでは良かったのだが、エメルダが缶徐々らに頭を下げなかったからと言ってなぜかパトリシアが怒り出したのだ。そして今の状況に至っている。
俺には全面的にエメルダが正論を言っているようにしか聞こえなかったのだが……パトリシアは一体どういう勘違いをしているのだろう。
「パトリシア、お前だってエメルダに頭を下げたりしないだろう。俺にだってしないんだから」
「ご、ご主人様は関係ないでしょ! アタシにだってできるわよ、カーテシーくらい!」
「ならやってみろよ」
所詮、口だけだろう。
今さっきやって来たばかりのエメルダにどんな対抗心を抱いているのかは知らないが、パトリシアが敵うはずがない。
だというのにパトリシアは自信満々で頷いてスカートの裾を持ち上げ……、
「見てなさいよ。アタシの磨き上げられた素晴らしいカーテシーを!」
――なんと驚くべきことに、エメルダのものと大差ない、非常に洗練された礼を披露したのだった。
「おねーさん、すごい! やるじゃないですか〜」
「貴女、それをどこで覚えたのです。高位の貴人に見劣りしない所作ではありませんか。貴女は平民の出だとお聞きいたしましたが」
嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねるアリサと、目を丸くしてパレクシアを問い詰め始めるエメルダ。
俺は絶句するしかなかった。
「どうしてこんな美しい礼ができるかですって? これは企業秘密ってやつよ。ふふん。そんじょそこらのメイド如きに負けないんだから!」
パトリシアへの謎がさらに深まるばかりだった。一体何者なんだ、こいつは……。
ともあれ、こうしてメイドたちの顔合わせは非常に騒がしいものとなったのである。
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