12:俺の職場になぜかメイドがやって来た
「いいじゃないか、女の子たちに囲まれてるわけだ。男のロマンじゃないのかい?」
「気持ち悪いこと言わないでくださいよ。別に俺は、そういう意味で彼女たちを拾ったわけじゃないんですから。あくまで使えると思って……。完全にアテが外れましたけど」
「仕方ないね。彼女らは推定平民だろう? メイドだって、普通は貴族令嬢から選ばれるものだ。マナーを知らない平民には到底無理な仕事だよ。もちろん厳しく教育すれば話は別だろうが」
「そんなもんですかね」
ある日、俺は騎士のヘイズに愚痴っていた。
もちろん何について文句を垂れているかと言えば、あの厄介なメイドたちのことである。二人とも相変わらず使い物にならないのだ。
しかしヘイズは俺に同情してくれるどころか、ニマニマしながら言った。
「特に金髪の……パレクシアさんの方は、ツンデレというやつだろう? ツンデレは可愛いぞ」
「ツンデレ? なんですか、そりゃ」
「やたらと威圧的でありながら、実は内心では相手のことが好きっていう女の子のことだよ。平民の間で流行っている小説でそういうヒロインが人気らしくてね。
君の話を聞く限り、彼女、まさにツンデレだよ。羨ましいなぁ」
俺はヘイズの言葉にどきりとした。
つい数週間前まで貴族であった俺は当然平民の間で流行っている小説のことは知らないが、もしもパレクシアがツンデレであれば、つまり俺に対し多少なりとも好意を寄せているということだ。
……冗談じゃない。
「そりゃまあ、パレクシアは美人だが」
ふくよかで非常に女性らしい体つきをしているのは認めるが、彼女とそういう仲になりたいなどとは一度も思ったことがない。
それに一応これでも主従である。主従が恋愛するなどあり得ないだろう。
「……でも俺、今は平民なんだよな」
身分差も何もないか、と自嘲気味に小さく笑った。
本来平民に落ちぶれた俺がメイドを家に置いていること自体がおかしいのである。お互い平民同士なわけだから上下関係はない。それで『ご主人様』と呼ばれているのは非常におかしなことなのだ。
「そういえばアリサも愛してるって言いまくってるよな……。どうしても選ぶなら、俺的にはパレクシアよりはアリサの方がいい」
「やっぱりそういう目で見てるんじゃないか」
「見てませんよ」
俺の独り言にツッコミを入れて来たヘイズを適当にあしらいながら、俺は考える。
アリサにしろパレクシアにしろ、彼女たちはメイドだ。俺が娶ることなんてあり得ない。
でも、あのままただ働きさせているだけでいいのだろうか……? そもそも彼女らはまともに働いてすらいないわけだし。
一体いつまでこのなんとも言えない主従関係を続けていられるだろう。
――何にせよ、そう長いことは保たないだろうことくらい、俺だって理解しているが。
「……おいウィルド、お前に客だぞ」
その時、俺とヘイズがいる休憩室の扉が外側から開かれ、いかつい大柄の男――この騎士団の団長が入って来た。
俺は考え事をやめ、顔を上げる。そして首を傾げた。
「誰なんです、客って」
「知るか。ピンク髪の嬢ちゃんと金髪の姐ちゃんだ。お前に話があるんだと」
「ピンク髪と金髪…………あっ!」
あいつら、なんでここに!?
慌てて立ち上がると、俺は応接間へと一直線に走る。
そして応接間へ飛び込むなり叫んだ。
「お前ら、ここは地方騎士団の本部だぞ。わかってんだろうな!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「いきなり走り込んで来て何よ。下品ね、ご主人様は!」
「ウィルド様、なんで急に怒るんですか〜」
そこには案の定、ソファに掛けて優雅にお茶を飲むパレクシアと、足をバタバタさせているアリサがいた。
全く悪びれない様子の二人を見て、俺は心の底からため息を吐く。どうしてこんな平気な顔ができるんだ、この二人は。面の皮が岩盤でできているのではなかろうかと思う。
「アリサ、パレクシア。何しに来た。俺は仕事中だぞ」
「ウィルド様の頑張ってる姿を見たいな〜と思って。もちろん、ウィルド様の邪魔しませんから大丈夫ですっ」
「べ、別に、アンタに会いたかったわけじゃないわ! アリサがどうしてもって言うからついて来てあげただけなんだからね!」
二人の話を聞いてみると、俺の職場を見てみたいとアリサが言い出し、パレクシアがそれに乗って――本人は嫌々ながらと言っていたがアリサ曰くワクワクしていたのだそうだ――ここまで来たらしい。
俺は所詮騎士見習い。大したことはしていないし、こいつらがいると完全に仕事の邪魔だ。
そう思ってさっさと追い返そうとすればパレクシアが顔を真っ赤にして怒り出すし、かと思えばヘイズが楽しげに笑いながらやって来て「ツンデレはいいねぇ」などと言ってメイドたちに絡み始めるしでまるで収拾がつかなくなったのだった。
この事件により明らかになったことは二つある。
自称メイドたちはやはり俺に迷惑しかかけないこと。
そしてパレクシアはヘイズの言う通り、ツンデレで間違いないということだった。
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