プロローグ:メイドたちとの朝
俺の目覚めは、まず、彼女のキスから始まる――。
「ウィルド様〜、おはようございまーす! 今日も愛してますっ!」
俺に濃厚な口づけを落とした後、少女の明るい声が俺の鼓膜を震わせる。
たった今まで眠りの中にいた俺がハッとして目を開けると、そこには案の定、悪気のない顔で笑う小柄なメイド服の少女がいた。
「おいアリサ。いつも不意打ちのキスはやめろって言ってるだろう」
「だってぇ〜、アリサ、ウィルド様のお顔を見たら思わずキスしたくなっちゃうんですもん」
そんな風に甘えた口調で言うアリサは幼い見た目もあって非常に子供っぽい。その実十七歳なのは知っているが、それでも可愛くてなんでも許せてしまう笑顔を彼女は持っている。
俺はそれ以上の反抗を諦め、ため息を吐きながらベッドから起き上がった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お、遅いわよっ! ご主人様のバーカ。し、心配なんかしてないんだからね!」
アリサと腕を組んで――アリサが勝手に絡みついて来るので仕方ない――歩いていると、起きてすぐだというのに早速罵声を浴びせられた。気分が悪い……。
廊下での出会い頭に俺を罵って来たその女も、アリサ同様にメイド服を着ている。こちらは長身の美女であり、ボンキュッボンのナイスバディだ。
彼女はパレクシア。これでも一応、うちのメイドである。
「心配させて悪いな。じゃ、朝飯食うからまた後で」
「だ、だからアタシはアンタの心配なんかしてないってば! この、アホタレが――!!!」
アホタレはどっちだよと思いながら食堂へ向かう。
するとそこには一気に三人のメイドが待ち構えていた。
「おはようございます旦那様。今日はよく眠れましたでしょうか」
「朝から醜く汚らわしい寝癖が荒れ狂っておりますのね、ウィルド。見ていて気持ちが悪くなる寝ぼけ顔を殴りつけてやりたくなりますわ」
「ウィルド様、おはよう。あまりにも遅いからボクはうずうずしてしまっていたよ。どうせならキミの首から上をもぎ取ってずっと愛でていたい……」
最初の一人はともかく、後の二人はメイドとして相応しくない胸糞な挨拶を投げかけて来る。
彼女らの名前は順番にエメルダ、トーニャ、ルル。いずれも年頃は少女と言っていいくらいだ。三人ともなかなかに可愛いが、その実性格的に問題があったりする。
「みんなおはよう。お出迎えはありがたいんだが、俺は腹ペコだ。ささっと朝食を作ってくれるとありがたい」
丁寧なお出迎えの割には、食堂のテーブルの上には飯がない。三人とも俺に会いたくてたまらず朝食のことなど忘れてしまうらしい。これはいつものことだ。
「わかりました。今すぐ作って参りますね」
「こちらの苦労も知らずによくも平気で言えるものですわ。おぞましい」
「キミのためならボクはなんだって作るよ。キミが良ければキミの腕に引っ掛かっている泥棒猫を焼き肉にしてあげようかな」
「悪いが俺はパンが食べたい気分なんだ。それに、アリサは別に泥棒猫じゃないから」
ハハハ、と愛想笑いをしつつ、俺はメイド三人の間をくぐり抜けて食堂の席に着く。そのすぐ隣に満面の笑顔のアリサが座った。
メイド三人衆の視線が一気に鋭くなるが、気にしないことにした。
これが俺のいつも通りの朝。
ロリっ娘メイドのアリサ、ツンデレメイドのパレクシア、クーデレメイドのエメルダ、毒舌メイドのトーニャ、ボクっ娘なヤンデレメイドのルル、五人のメイドに囲まれながら今日も甘々で混沌な一日が幕を開ける――。
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